「会議を開いても、お互いに何を話しているのかサッパリ分からない。基幹系システムの統合に着手した時、まずは用語の統一が先決だった」。新日本石油 情報システム部長の植田一郎氏(写真)は、合併当時の様子をこう振り返る。「システム統合の成功は、用語統一抜きには成り立たなかった」という。

 新日本石油は、日本石油と三菱石油が1999年4月に合併して誕生した、国内最大の石油元売り会社である。基幹系システムの統合は、両社が合併を発表した1998年10月から足掛け5年半にわたる大規模な作業となった。初めて開催したシステム担当者同士の会議では、「互いの言葉が通じないことにがく然とした」(植田氏)という。

 例えば、国内各地に置いた支店を日本石油が「事業所」と呼んでいたのに対し、三菱石油では三菱財閥系企業特有の呼び方で「場所」と呼んだ。ガソリン・スタンドの従業員を日本石油では「スタッフ」と呼んだのに対し、三菱石油では「クルー」だった。このほかにも、に示したように、あらゆる部門で両社の業務用語が異なっていた。

日本石油用語三菱石油用語統一後の用語定義
銘柄品名品名個々の製品・半製品
(荷姿の識別を含まない)
中身品バルク(BK)中身品容器なし商品
詰品包装品(PK)詰品容器入り商品
倉取倉渡(通称 倉)倉取取引先が輸送機関を手配し
基地で製品を引き取る
タンク船タンカータンカー石油製品(中身品)を
輸送する船舶
契約番号注文番号注文番号得意先がオーダーに
対して任意に付ける番号
増減減耗増減貯蔵や受け入れ時の
製品の増減
雑伝構内受払構内受払基地内での製品容器の
やりとり
ジョイントバーターバーター物流効率化のために
物流部が行う取引

 「用語統一ができなければ、システム構築に必要なデータ項目の統一ができないばかりか、販売や輸送といった現場の業務にも支障が出る」(植田氏)。厄介なことに、同じ言葉でも両社の業務内容により微妙にニュアンスが異なる場合もあった。焦って開発を進めれば、建設に携わる人間同士の言葉が通じなくなり、途中で放棄された「バベルの塔」と同じ運命になりかねない。

 そこで、両社では販売部門、情報システム部門、開発を受託した富士通の担当者などが協力して、膨大な業務用語を統一する作業を行った。次いでこの用語集を参照しながら、新システムのデータモデル図を作成し、Javaにってシステムを開発した。EJB(Enterprise Java Beans)による部品化を進めることで開発生産性を挙げた。

 新日本石油は、2002年4月、最優先課題としていた販売物流システムを全面再構築。その後、カード顧客管理システムなどを片寄せして統合し、2004年5月に横浜/川崎/新潟に分散していたサーバーを横浜に集約した。植田氏は「プロジェクトを成功に導くことができたのは、初めに業務用語をキッチリと整理したおかげ。初めの一歩をおざなりにしないことが大事だ」と話す。

本間 純=日経コンピュータ