セールスフォース・ドットコムは3月27日、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として提供しているCRMアプリケーションの最新版「Salesforce Spring '07」を発表した(関連記事)。米セールスフォース・ドットコムのフランク・ヴァン・ヴィーネンダール ワールドワイド・コーポレートセールスフォース・ドットコム&サービス部門プレジデントは、「SaaS専業ベンダーだからこそ、最高のサービスを顧客に提供できる」と強調する。(聞き手は目次 康男)
写真●米セールスフォース・ドットコムのフランク・ヴァン・ヴィーネンダール ワール ドワイド・コーポレートセールスフォース・ドットコム&サービス部門 プレジデント |
米オラクルや独SAPなど、大手パッケージ・ベンダーがSaaS市場に参入してきている。脅威は感じないか。
脅威は感じていない。最高のサービスを常に提供し続けることは、SaaS専業ベンダーにしかできない。競合ベンダーは、ソフトウエアの使用権を売り切る「セル・モデル」と、SaaSのように月額制で課金する「サブスクリプション・モデル」の両方を抱えている。だがこの方法では、パッケージと同等の機能をSaaSとして提供しにくい。
企業はセカンド・ベストなものは求めていない
これまでセル・モデルを採用してきたパッケージ・ベンダーが、サブスクリプション・モデルに偏ってしまうと、売上高や利益といった財務面が厳しくなるからだ。実際、パッケージ・ベンダーの多くは、セル・モデルを維持するために、パッケージ・ソフトの機能を削ぎ落としたサービスをSaaSとして提供している。
大小を問わず企業の多くが求めているのは、パッケージ・ソフトの機能を削ぎ落とした“セカンド・ベスト”のサービスではない。求めているのは“最高”のソリューション。これができるのは、SaaS専業ベンダーだけだ。
米ネットスイートなど、競合のSaaS専業ベンダーも続々と登場している。
ネットスイートを含め、世界には約40社のSaaS専業ベンダーがある。当社の変化のスピードが他を圧倒しているので、特に脅威は感じていない。SaaS市場が広がることは歓迎している。
例えば、当社のCRMサービス「Salesforce」は、これまで22回もバージョンアップしてきた。1年間で3~4回もバージョンアップし、新たな機能を提供できているベンダーは他にはないだろう。この変化の速さが、他のSaaS専業ベンダーだけでなく、セル・モデルを採用しているパッケージ・ベンダーとの最大の違いだ。
SaaSのプラットフォームを提供する
さらに当社は、SaaSのプラットフォームスを提供する企業に変貌しつつある。他のソフト・ベンダーは、当社が構築してきたシステム基盤「AppExchange」上でサービスを提供したり、課金サービス「AppStore」を使ってビジネスを広げることができる。ここまで大きな変化を実現している企業がほかにあるだろうか。
最新版「Salesforce Spring'07」では、中堅中小(SMB)市場の開拓に力を注力すると表明した。大企業での採用が増え始めている今、なぜ改めてSMB市場に注力するのか。
規模が小さくても、ビジネスを展開するために必要な業務要素は大手企業と変わらない。製品やサービスを企画・開発し、顧客を開拓し、そして販売後には保守サービスを提供する必要がある。中小企業であっても、ビジネスを支えるITツールには、大手と同じ機能が求めらるのだ。大手企業の採用実績を積んだ今だからこそ、急速に拡大しているSMB市場に最適のソリューションを投入できると考えた。
日本市場だけでなく、世界中にある企業の9割は中小企業だ。しかし、これらの企業の多くは長年にわたって、ITベンダーから十分なサービスを受けることができなかった。中小企業は何千、何億円という大きなIT投資ができないため、多くのITベンダーが本気でサービスを提供しようとしなかったからだ。
セールスフォースは、企業の規模で差別するようなことはしない。企業の大小を問わず、同じサービスを、同じ料金で提供している。当社のサービスを使うことは、中小企業にとって大きなチャンスであることを強調したい。中小製造メーカーが、世界最大のネットワーク機器会社である米シスコが使っている同じITツール(Salesforce)を使える。同様に、中小ホテルがホテル日航東京と同じ、中小金融会社がみずほグループと同じITツールを使えるのだ。
成功事例を共有してもらいたい
日本の中小企業の多くは、「どのようにITを活用すべきか」で悩んでいる。また、IT分野の専任者がいないため、円滑にITツールを導入したり、社内での利活用を促進しにくい。単にネット上でサービスを提供するだけでは、SMB市場を開拓できないのでは。
日本のSMB市場の実態は把握しているつもりだ。そこで当社は、3つの施策を実施することで、SMB市場を開拓したい。1つは、IT戦略の立案を支援するために、多くの成功事例を公開することだ。「Successforce」というオンイン・コミュニティも始めた。当社だけでIT活用を啓発するだけでなく、成功企業の経験を水平展開可能にして、SMB市場の開拓につなげたい。
2つめが、ITに詳しくない人でも「Salesforce」を使いこなせるよう、アプリケーションの操作性を良くすることだ。例えば、プログラミングができなくても、画面上の「タブ」を選ぶだけでデータベースをカスタマイズできるようにしたり、承認業務といった業務プロセスを管理したりできるよう改良し続けてきた。ITの専門家でなくてもSalesforceを活用できるよう今後も改善を続ける。
3つめが、販売チャネルの拡充だ。日本市場のためだけに、サービスの再販モデルを用意した。現在、みずほ情報総研やソフトバンクBB、リコーテクノシステムズなど5社と販売パートナー契約を結んでいる。やみくもに販売パートナーを広げる計画はないが、確実にユーザー企業を成功させられる企業とのパートナー契約は今後も広げていきたい。