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パーソナルPM(プロジェクトマネジメント)について研究をしてきたプロフェッショナルが「一問一答」の形で、パーソナルPMの可能性、広がりを語ります。
個人がパーソナルPMを身に付けることは組織にとっても有用でしょうか。
冨永 有用です。PM手法の訓練に個人プロジェクトが役立つ点は見逃せないと思います。企業にPMを入れようとすると、反対する人が出てきて、なかなかうまくいかない。うまく入れた企業の例では、まずEVM(アーンド・バリュー・マネジメント)のような手法を個人に使ってもらって、何人かやれるようにしてから本格導入しています。個人の場合、プロジェクトを選べるし、実験できるし、プロジェクト特有の手法について材料がそろいやすいものです。
木野 PMを成功させるために一番重要なことは、技術者も含め関係者全員がPMのやり方を身に付けることです。そのためにパーソナルPMは有用でしょう。プロジェクトマネジャーだけがPMを知っていても駄目です。
山田 組織のプロジェクトでは、まず全体のWBSを作ります。次にプロジェクトメンバーに、あなたは何と何を担当していますね、と言って、個人のWBSを作ってもらいます。そのことによってチーム全体の進捗を見ていくときに、チームと自分との比較、自分と個人との比較ができて、参加意識が高まり、そのチーム全体の数値がなぜ悪いか、対策をどうするか、といったことが分かってもらえるようになります。つまり、共通語になるということです。ですから、個人がWBSを扱えるようにしておくことは大事だと思います。
危機対応にパーソナルPMは役に立ちますか。
田中 役立ちます。プロジェクトに限らず日頃からリスクマネジメントを実践することで、例えば地震が起こったときに備えての準備、そして起こった場合の緊急対応行動とその後の対応策などをあらかじめ考えておくことができます。地震が起こって交通機関がすべて止まったらどうするかというシナリオに対して、どこかの避難所を探してそこに宿泊するか、即座に自転車を購入して帰宅するか、などを考えておくことで、危機に遭遇しても冷静な行動が取れるようになるはずです。この例はプロジェクトではありませんでしたが、計画して行うプロジェクトならなおさらのことです。
冨永 危機対応の場合などですぐ分かると思いますが、必要な活動項目がきちんと挙げられ、責任分担がされ、それぞれが並行して行動できることがとても重要です。そのためにはWBSを明確にし、何が行われているのかを皆で共有することが欠かせません。パーソナルPMはこうしたことの前提になりえます。
欧米では児童や生徒にPMを教えているケースもあるようですが。
冨永 “PM4K”という言葉があります。PM for kidsの略です。そうした取り組みのWebサイトをみると、すごく上手に書いてあって、大人にとっても極めて役に立ちます。オーストリアのウィーンにある中学校で、PMの授業をやるケースがあることをずいぶん前に知りました。
本当はどこでも小学校ぐらいからPMを教えてほしいと思います。日本の強みが減ってきてしまいましたから、PMこそは日本の得意科目にしていきたいものです。特に外国にはまだない、パーソナルPMを通じてなら、やりやすいと思います。
川崎 「約束を守る」という意志形成にパーソナルPMは役立つと思います。扱う対象は私事であったり仕事であったり、単位は個人であったり会社であったり、そして約束する相手は自分であったり他人であったり法人であったりしますが、「約束を守るためにはどうしたらよいか」をマネジメントしなくてはならないという意味においては、皆、変わらないと感じます。
自分で自分をマネジメントすることを通して、受け身や指示待ちではなく、能動的かつ積極的に約束を守ろうとする姿勢を醸成していくことができるのではないでしょうか。
木野 大学で教えていて思うのですが、今の日本の大学生、高校生もそうでしょうが、まだ何も経験していなくて、自信が持てないという人がいるわけです。そういう人がそのまま社会に出たとき、チャレンジができないという状況に陥いる危険があります。
パーソナルPMは、個人が何かにチャレンジしていく手法の一つとして非常に有効ですから、こういったやり方をきちんと大学や高校で身に付けてもらって、少しでも自信を持って世の中に出ていく、そういう形に持っていけたらよいと思っています。