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 2024年1月1日午後4時10分ごろに能登半島を襲った大地震。最大震度7を観測し、家屋やビルの倒壊、火災が相次ぐ事態に見舞われた。電気・ガス・水道と並ぶ「ライフライン」の1つである通信インフラも深刻な被害を受けた。発災後は音声通話やデータ通信を利用できない、または利用しづらい状況が続いた。

 通信各社を苦しめたのは道路の寸断だ。ソフトバンクの宮川潤一社長兼CEO(最高経営責任者)は「能登半島地震では道路の状態が悪く、東日本大震災の対応とは異なる難しさがあった」と話す。NTTドコモの小林宏常務執行役員ネットワーク本部長も復旧に時間を要した理由の1つとして「土砂崩れやトンネル崩落などによる道路の寸断が多く、車両の通行が限定的となった」点を挙げた。

寸断された道路の例
寸断された道路の例
(出所:楽天モバイル)
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 このため、携帯4社は応急復旧に2週間超を要した。立ち入り困難な地域を除いて応急復旧を終えたのはKDDIとソフトバンク、楽天モバイルが1月15日、NTTドコモが1月17日である。

NTTドコモの応急復旧の推移
NTTドコモの応急復旧の推移
(出所:NTTドコモ)
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KDDIの応急復旧の推移
KDDIの応急復旧の推移
(出所:KDDI)
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ソフトバンクの応急復旧の推移
ソフトバンクの応急復旧の推移
(出所:ソフトバンク)
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停波した基地局は1月2日と3日に増加

 携帯電話ネットワークはユーザーの端末をつなぐ「基地局」、基地局をつなぐ「基地局伝送路」、通信設備を設置する「通信ビル」、通信ビルをつなぐ「中継伝送路」などで構成する。能登半島地震では通信ビルや基地局の停電、中継伝送路や基地局伝送路の回線断などが発生して通話・通信できない状況となった。

主なネットワーク被害と応急復旧のイメージ
主なネットワーク被害と応急復旧のイメージ
(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの資料を基に日経クロステック作成)
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 総務省の資料を基にNTTドコモとKDDI、ソフトバンクで停波した基地局の推移を調べたところ、ある傾向が見られた*1。1月1日の発災から日を追うごとに停波した基地局は総じて減っているが、増えた局面もあったことである。

携帯大手3社で停波した基地局の推移
携帯大手3社で停波した基地局の推移
(総務省の資料を基に日経クロステック作成)
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*1 停波した基地局の推移は総務省の公開情報を基に作成しており、同日に複数報が出た場合は最終報の数値を集計した。楽天モバイルは1月15日以降、集計手法に変更があったため、除外した。

 顕著なのは1月2日と3日だ。例えば1月2日午前11時40分時点(第11報)で停波していた基地局はNTTドコモが209局、KDDIが198局、ソフトバンクが268局に対し、同日午後4時時点(第12報)でNTTドコモが225局、KDDIが219局、ソフトバンクが275局といった具合である。1月3日午前7時30分時点(第13報)ではNTTドコモが241局、KDDIが252局、ソフトバンクが271局と、一部でさらに増えている*2

*2 グラフで示した1月3日の数値は午後2時時点(第14報)に基づく。

 実は、携帯各社は基地局に接続する予備電源の長時間化を進めており、総務省によると「東日本大震災時は24時間耐えられる基地局が全国で1000局ほどだった。現在は震災対策の一環として役所周辺を中心におおよそ1万局まで増えている」。義務ではないが「県庁周辺や(即座に駆け付けられない可能性がある)離島であれば72時間ほど耐えられるようにお願いしている」(総務省)という。

 つまり、発災直後は予備電源で耐えていたが、翌2日の午後4時以降は予備電源も尽きて停波した基地局が増えていったと見られる。基地局の予備電源の長時間化が広がり、この効果が出ていたといえる。今後の検証が求められるが、安否確認などで緊急連絡の需要が最も高まる発災直後の状況を踏まえると、評価できるのではないだろうか。