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専用のヒアリングシートを使ったPC作業の実態把握、不具合が起きても大きな手戻りにならないソフトウエアのロボットの開発――。三井不動産はRPAの普及で様々な工夫を凝らしている。

 Excelを使った作業をもっと効率化できないか――。働き方改革に取り組む業務担当者から上がってきたこのニーズを受けて、ExcelにとどまらずPC作業を広く自動化できるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に注目し、導入を進めているのが三井不動産だ。

 同社はグループ各社とも連携しながら、「日本橋三井タワー」をはじめとするオフィスビルや東京・日本橋などでの街づくり、商業施設やホテルなどを手掛ける。2017年4月からRPAの導入に着手した。

 三井不動産の情報システム部は2017年4月、名称をITイノベーション部に変えた。これに合わせてデジタルマーケティングや、利用者が得る経験や体験を踏まえてサービスや製品を開発していく方法論「デザイン思考」に基づく新規事業開発など、多岐にわたって取り組んでいる。オフィスビルなどを手掛ける事業部門や経営企画部門などと連携してグループ全体を対象にDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。

長期経営計画で掲げた働き方改革の一環で導入

 三井不動産は2018年5月に策定したグループの長期経営方針「VISION 2025」で、目標の1つに「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」していくことを掲げている。これを受けてITイノベーション部は2025年に向けて3つの取り組みを進めている。

 具体的には、デジタル技術を不動産事業に適用するなどしていく「事業変革」、クラウドや最新のセキュリティー技術を導入する「システム先進化」、ITを活用したりBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)を進めたりして社員の働きがいや生産性を高めていく「働き方改革」だ。

 「RPAはこのうち働き方改革の一環として普及を進めている」と三井不動産の足立祥一ITイノベーション部企画グループ主事は説明する。RPAツールは開発画面が日本語であるといった理由からNTTデータの「WinActor」を採用している。

 RPAの導入は現場主導型とも言えるボトムアップ方式で進めている。自動化するPC作業の詳細を業務担当者が詳しく知っているといった理由からだ。ITイノベーション部が各業務部門にRPAで自動化できそうなPC作業を挙げてもらうようにしている。

 RPAで自動化できそうなPC作業が業務部門から挙がると、ITイノベーション部のメンバーがヒアリングをして仕様を固めていく。その後、本格的な開発作業を外部のITベンダーに依頼して、ソフトウエアのロボット(ソフトロボ)を完成させていく。

 業務担当者がRPAで自動化できるPC作業を見つけやすくなるよう、ITイノベーション部はRPAの説明会を各業務部門に向けて実施している。「RPAとは何か」「どんなPC作業を自動化できるか」といったことを説明したうえで、現場の業務改善の一環でRPAの適用案件を出してもらうよう依頼している。

専用シートを使った1対1のヒアリングを重視

 三井不動産が進めるRPAの導入や普及で際立つのは、RPAの開発だけでなく保守・運用にわたって様々な工夫を凝らしている点だ。

 RPA開発では、はじめの一歩と言える「どんな業務をRPAで自動化していくか」を見極める業務担当者へのヒアリングで工夫を凝らしている。

 「説明会で一通り説明を受けても、すぐにRPAに向くPC作業を洗い出すのは業務担当者にとって難しいのではないか」。こうした想定を踏まえて「RPAの導入を希望する業務担当者と、ITイノベーション部の担当者が1対1で向き合って、詳しくヒアリングする取り組みも重視している」と、三井不動産の一瀬勇太ITイノベーション部開発グループ技術副主事は話す。