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北海道ドール紀行

日陰者と日向者

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桜の下、読書をするあい様。

今回はあい様とのお花見撮影、後編になります。
何となく自分が苦手な寸劇調にしてみました。結構長いので飽きたら写真だけでも眺めて行ってください。






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杏「ごきげんよう、○○(苗字)さん」
―――早朝、桜舞う春の坂道を登ると、そこにいたのは生徒会長の今江 杏(いまえ あん)さんだった。
ストレートな長い黒髪、小さく整った顔。スタイルだってきれいなモデル体型。この学園に通っている者なら誰でも知っている有名人。人気も人望もあって日陰者な「わたし」とは対照的な人。そして一生縁がないと思っていた人。

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杏:あなたもこの場所を知っているの? 
「ええ・・・」
『聖域』に存在する異常分子に向かって「わたし」は控えめにそう返事をした。

桜舞うこの約束の地で03
―――中高一貫校の広い学園にひっそり佇む中庭。そこはほとんど人の来ない、「わたし」の『聖域』。
この『聖域』は、春にはソメイヨシノ、夏にはラベンダーなど季節毎に様々な景色を見せてくれる。
しかし本校舎からは離れていて生徒はあまり来ない。だから独りになりたい時などに「わたし」はこの場所に来ている。

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杏:こうして春の陽ざしの中、何もしないでのんびり過ごすのもいいわね。
鞄をベンチに置き、そよ風を感じ、手を広げる生徒会長。
桜の花びらが風に舞い、長い黒髪が微かに揺れる。
この時期の生徒会は仕事が多く、会長もいつも忙しそうにしているのを知っている。
なるべく会長の邪魔にならないように、「わたし」はその様子を遠目に見つめた。

(・・・・・・・・・)
春の陽ざしを浴び、とても絵になっていると「わたし」は感じた。
やはり地味な「わたし」より、『日向者』の会長の方がこの『聖域』に相応しいのではないか。
会長なら桜の季節が過ぎ去っても、夏になってもきっとこの場所が似合うのではないだろうか。
短い思考の後「わたし」はそっと、この『聖域』から出ることにした。

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杏:あら、もう立ち去ってしまうの?
『聖域』の新たな主は、屈託のない瞳で微笑む。
「ええ、今日は私が日直の日だったのを思い出して」
そんなのは嘘。
この場所にいると負けを認めそうだから。

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庭園から少し離れた場所で「わたし」は数分前の悔しさや悲しさより先に、ふと違う感情を覚えた。

「あら、もう立ち去ってしまうの?」

そう言われた時のその表情。得意げでいてちょっとだけ陰ったそれは妙に「わたし」の記憶に残った。
「・・・明日も会長はあの庭園にいるのだろうか」
本校舎に続く道で、「わたし」は誰にも気づかれないような小さな声でそう呟いた。




翌朝、昨日と変わりない青空の日。
「わたし」の『期待』は『現実』となった。









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今日も「わたし」より早く、桜の木の下の特等席に異常分子がいた。
庭園で会長が本を読んでいるのが遠くからでも見える。
昨日よりも暖かく、ローファーを脱いだ姿を見て「暑くないのだろうか」と気になった。

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会長はよっぽど集中しているのか、「わたし」が近づいてもまったく気づいていないようだ。
「HUGO & VICTOR」・・・誰だったろうか。思い出せそうで思い出せない。

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杏:あら、今日もいらしたのね。
やっと「わたし」に気付いたのか、本を畳みこちらに手を振る会長。
表情はあくまでも柔らかく、どこまでも深い。
認めたくはないが、その立ち振る舞いも主に相応しいと思えてしまうほどに。

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杏:さっきから私の方を見ていらしたけど、何か気になることでもありましたか?
こちらに向き直し、質問をしてくる会長。
社交辞令的な、その言葉はどことなくよそよそしく、探られているような気分になった。
向こうから話しかけられると思っていなかった「わたし」は内心で焦りながら答えを考える。

A「会長のことが気になって・・・」
B「その本のことが気になって・・・」












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ふと本の背表紙に目が行った。「HUGO & VICTOR」、これだ!


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杏:この本が気になっていたの?
「わたし」が答えると、会長は表情を変えずに少しだけ大きな声で返事をした。

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杏:この本はね、ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」という作品よ。この前映画になっていたでしょう。
タイトルだけなら聞いたことがあった。内容は忘れてしまったがこの前テレビのCMで見た。
会長は読書も嗜んでいるのかと、無教養な自分が恥ずかしく思えて「わたし」は目を逸らす。
でも会長には華道や日本舞踊といったお淑やかな趣味が似合いそうに思えて、「わたし」は思わず和服姿を想像してしまう。
振袖や袴姿、一度だけ見た極道映画の妻のような黒の着物。どれも似合いそうに思えた。



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杏:まだ時間があるし、あなたも一緒に読んでみる?
会長は本を右脇に抱え、左手を妄想帰りの「わたし」にまっすぐ差し出す。
「え、えっと・・・」
会長の視線が一直線に「わたし」を射抜く。
会長がハンターだとしたら「わたし」は獲物。ライオンだとしたらシマウマ。
『聖域』の主に「わたし」は逆らえず、会長の横にほんの少しだけ離れて座った。





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杏:だいたいあらすじはこんな所ね。
難しい話だったが会長の解説は短く、とても分かりやすくなんとなくだが理解できた。
それよりも「わたし」には気になることがあった。客観的に見て、今私たちは桜の木の下、2人で寄りあっている。
これってすごく仲が良い感じみたいな、俗に言う『リア充』、みたいな、そんな感じなのかしら?
『日向者』である会長の側で『日陰者』の「わたし」はどう表現すればいいか分からないけれど、
少しだけ「幸せ」な気分を感じたのでした。




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杏:さて、本はこれくらいにしましょうか。
ある程度キリの良い所まで読んだ後、会長が丁寧に本を閉じる。

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杏:そろそろ時間ですし校舎に向かいませんとね。
気がづくと門限まで10分ちょっとになっていた。「わたし」もそうだが、生徒会長が遅刻するわけにはいかない。


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杏:ほら、早く行きましょう。 
会長が、「わたし」に手を伸ばす。
杏:明日は今日の続きをしましょうか。
一瞬考えたが、すぐに「レ・ミゼラブル」のことだと気づく。


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杏:主人公のヴァルジャンもこんな感じでジャヴェールから逃げていたのかしら。
「分からないわ・・・」
長く続く校舎までの坂道。いつもは疲れるけど今日は不思議と疲れなくて。
遅刻しないように頑張って走っているからか、それとも一緒に話す相手がいるからなのだろうか。







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「明日は今日の続きをしましょうか」
また明日、二人きりの『聖域』で過ごす朝。
人気のある生徒会長としてではなく、『聖域』の主として接してくる杏さん。
遥か遠い、手の届かない存在だと思っていたけれど、すぐ側に舞い降りて・・・
「彼女」のことが少しずつ気になっている「わたし」がいた。





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「どうしたの?顔が赤いわよ」
校舎に着く直前、彼女が「わたし」に声をかけた。
「急に走ったから、疲れてしまって」
悟られてしまったら、淡い淡いこの関係が終わってしまいそうで、
「わたし」はとっさに、また嘘をついた。

おわり。
( 最終更新日: -0001/11/30 Wed )
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冬音さん、おはようございます^^
ストーリー仕立て…いいと思うよ♪
甘酸っぱそうな感じ♪
次回にも期待してますよ~

  • 冬音
  • URL
Re: CAMEOさん

> 冬音さん、おはようございます^^
CAMEOさん、コメントありがとうございます。

> ストーリー仕立て…いいと思うよ♪
> 甘酸っぱそうな感じ♪
「ゆるゆり」や「マリア様がみてる」のような世界観が好きなので、そんな甘酸っぱい感じにしてみたかったのですが、なかなか難しいですね。

> 次回にも期待してますよ~
次回は。。。あるのかな? 全然考えてませんでした。

  • 紳士マン
  • URL
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大変遅くなりましたが、ストーリー仕立ての記事、あい様のお写真と一緒に楽しませてもらいました!
綺麗な花を咲かせる誰も来ない聖域で、「わたし」と「会長」とのやりとりが素敵ですね。
最初は眩しい存在だった「会長」が、何気ない会話や一緒に読書したりするうちに、少しづつ距離を縮めていく過程が素晴らしいと思いました。

今回で終わりとのことですが、「わたし」と「会長」の今後が気になってしまいますw

  • 冬音
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Re: 紳士マンさん

紳士マンさん、コメントありがとうございます!

> 大変遅くなりましたが、ストーリー仕立ての記事、あい様のお写真と一緒に楽しませてもらいました!
ちょっと長いお話ですが、見てくださってありがとうございます。

> 綺麗な花を咲かせる誰も来ない聖域で、「わたし」と「会長」とのやりとりが素敵ですね。
> 最初は眩しい存在だった「会長」が、何気ない会話や一緒に読書したりするうちに、少しづつ距離を縮めていく過程が素晴らしいと思いました。
「少しずつ」というところにこだわって作ってみました。
そしてこれからも「少しずつ」色んな事が起こるのでしょう。

> 今回で終わりとのことですが、「わたし」と「会長」の今後が気になってしまいますw
今後はどうなるのでしょうかねえ。私にも分かりません。
一応のイメージでは「会長」をよく知っているライバルが登場して、女の子同士の昼ドラ的三角関係になっていく・・・
色々と考えたのですがまとまらなそうなので、紳士マンさんの想像にお任せします。

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