アイヌの唄に酔う−「ピカウとアパッポ」を観て

『Kapiw(ピカウ)とApappo(アパッポ)〜アイヌの姉妹の物語〜』という映画を観てきた。

 「北海道に生まれ伝統的なアイヌ音楽を受け継いだ姉妹が、2011年の東日本大震災をきっかけに故郷で初めて行うことになったライブを追うドキュメンタリー」で、ピカウはカモメの意味で姉、アパッポは福寿草で妹、の二人が主人公。
 すばらしいの一言。http://kapiapamovie.com/ (渋谷のユーロスペースで上映しているが、残念ながら明日2日まで)
 ドキュメンタリー映画としての出来は置いといて、アイヌ音楽の世界に心底感動した。昔、うたごえ喫茶で「ピリカピリカ」を歌った記憶はあるが、本格的な唄や楽器(ムックリやトンコリ)の演奏に触れたのは初めてだ。
 アイヌに関する映画というと、民族史や差別、神話やスピリッチュアルなうんちくなどが盛り込まれるのではとかまえて観たが、その手の話は一切なく、子育て真っ最中のアイヌの姉妹が、はじめてのデュオを結成してライブにのぞむまでが日常生活をふくめたんたんと描かれていく。
 とにかく後半の姉妹の唄と演奏が圧巻である。森の樹木や空飛ぶ鳥が歌われ、神(カムイ)や家族が歌われる。アイヌも和人もない。唄に人と風土を感じる。ヒトはこうやって自然のなかで生きてきたんだな、と唄に聞きほれながら、深く癒されていく思いがした。姉妹で声の音質がよく合って、寄せる波のように心を揺さぶる。また、歌っている二人の表情の色っぽいこと。
 妹は世界口琴大会にも出場するムックリ(びよーん、びよーんと鳴る)の名手で、姉とムックリを合奏した。これまで聞いたことがない原初的な音色と響きに、こみあげるものがあり涙が出てきた。流行のポップスはじめ巷に流れる音楽がうすっぺらく感じられる。
 この姉妹のように、アイヌの音楽を伝承する人たちがいて本当によかった。受け継いだものに彼女らの個性を付け加えて、生きた伝統を作っていってほしい。
 以下のサイトでさわりが聞けるので、関心のある方はぜひ。
https://www.youtube.com/watch?v=p_B0SegbTGM

 ムックリの合奏は以下の6分45秒以下にあります。
https://www.youtube.com/watch?v=VdI5QjDLoeY