吐き気がした首脳会談

 ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の首脳会談。

 見てるうちに気持ちが悪くなってきた。怒りというより、米国の正副大統領がゼレンスキー氏をここまでバカにし、衆人の見る中で罵倒することが信じられなくて。

トランプ氏がゼレンスキー氏を小突く(「サンデーモーニング」より)

 私はその前に、トランプ氏のSNSで流しているという、ガザをリゾートにするというAI動画を見ていた。仰天した。いくらなんでも、これはもう人間としてやっちゃいけない線をはるかに超えてる。この人が、世界でもっとも影響力のある大国のリーダーであることがあらためて心底恐ろしくなった。

ガザをハワイのように・・・(サンモニより)

イーロン・マスクが紙幣を空に放り投げ、それを子どもたちが嬉しそうに拾うというシーン。

トランプ・ガザとなった地に立つ黄金のトランプ像

プールサイドで大量虐殺を命じたネタニヤフ氏とくつろぐトランプ氏。これは悪趣味というより狂気というにふさわしい

ガザから脱出したいと思っていた市民も、この動画を見て、この地を離れないと決意を語る(サンモニ)


 一かけらの慈悲心をも持ち合わせないこの男が、ゼレンスキーとウクライナ国民を侮辱している・・私にはほとんどシュールな世界に見えた。

 はてはスーツを着ないのは無礼だなどとヤジられたりもしていたが、ゼレンスキー大統領はロシアの全面侵攻後、戦地で戦う国民に寄り添うため戦闘服しか着ないと誓っている。彼は英国王を会った時も、誰と会うときもこのかっこうなのだ。(イーロン・マスクはラフなかっこうで大統領執務室に出入りしているではないか)

 首脳会談の決裂で、ウクライナの将来に暗澹とする一方で、だからこそしっかりウクライナを支えなくてはと思った。

 そもそもトランプ氏はごくごく基本的なところでウクライナ問題についての認識を間違えている。プーチン側に立つことが先に決まっていてそう考えるのかもしれないが。

 彼は「ロシアはかなり前からウクライナのNATO加盟は認められないと強く主張してきた。NATO加盟問題が戦争が始まった理由だと思っている」と語る。

NHK国際報道より

 百歩譲って、そうだとしても、ロシアがウクライナに侵攻してよいとはならない。将来危険になるからという理由で先制攻撃することは許されない。トランプ氏がグリーンランドは米国のものだと思ったとしても、いきなり軍事攻撃で奪うことは許されない。

 このかんフィンランドとスウェーデンが新たにNATOに加盟したが、プーチンは大きな反応を示していない。それにウクライナのNATO加盟は2022年段階ではまったく実現の見通しがなかった。

 NATOが問題なのではなく、プーチンは、ロシアと一体であるべきウクライナがロシアから独立した民族、独立した国家になることが許せないのだ。ましてやロシアから離れてEUの方に接近するウクライナは罰せられないといけないと考えたのだ。

 ウクライナのシビハ外相は「この戦争の根本原因はプーチンによるウクライナの存在権否定とウクライナ破壊の願望だ。それが戦争を始め、残虐行為を犯し、力で国境を変えようとする理由だ」と明快に述べている。

 このあたりは拙著『ウクライナはなぜ戦い続けるのか』(旬報社)で解説してあるので、ご関心ある方はお読みください。

2日の赤旗より

 きのう『しんぶん赤旗』に拙著の紹介が載っていると友人が知らせてくれた。このタイミングで紹介されるとはタイムリーでありがたい。

「ロシアによる占領は単に国旗が変わることではない」

 国連総会(193カ国)は24日、ウクライナ情勢をめぐる特別会合を開き、ロシアの侵攻を非難し、露軍の即時撤退を求める欧州主導の決議を採択した。

 決議は露軍に「即時、完全かつ無条件の撤退」を求め、「戦争の年内終結」の必要性を訴える内容。北朝鮮兵の戦闘参加への懸念も盛り込んだ。

 採決では日本を含む93カ国が賛成し、米国のほかロシアと同盟国であるベラルーシや北朝鮮、イスラエルなど18カ国が反対、中国、ブラジル、インド、南アフリカ、サウジアラビアなど65カ国は棄権した。

 決議案は当初、ウクライナと欧州諸国、日本など50カ国以上が共同提案国に名を連ねていた。しかし、米国の呼びかけに応じる形で、投票直前に親米のハンガリーや太平洋の島しょ国など複数の国が共同提案国から外れ、一部は反対にまわった。総会決議に拘束力はないが、国際社会の総意として政治的な重みを持つ。

 トランプ政権の対露融和姿勢はここまで来たのかと驚く。完全にロシアの立場に立っている。欧州諸国の亀裂は深刻化している。

 

 きのう、「ウクライナからの贈りもの」という絵画展を見てきた。

 避難生活をおくるウクライナの子どもたちが描いた絵画が約50点展示されている。平和をもっとも切望しているのはウクライナの人々であることを再確認した。全面侵攻から3年、子どもたちの故郷への思いや平和への願いが叶えられる日はいつ来るのか。

東京・東中野の「ありかHOLE」で3月7日まで。日本チェルノブイリ連帯基金とポレポレタイムス主催で今年が3回目。日本から画材を提供するなど支援を行っている。今回はブルガリアに避難した子どもの絵が約50点展示されている。(撮影:筆者)

チーホン・コジャーカさん9歳の「ウクライナのための祈り」。祈りに関する絵が多い。

ニカ・ストリレチカさんの「ウクライナの祈り」。7歳とは思えない精神性が漂う。

 トランプ大統領が唱える早期停戦論を後押しするかのような記事が出始めた。ゼレンスキー大統領を「国民の生命と財産を危険にさらし、国土荒廃を招いた」と批判、ロシアに白旗を上げよと言う。

globe.asahi.com

 

 一方、ノーベル平和賞を受賞したウクライナの人権団体がトランプ氏の停戦案をまっこうから批判している。

www.jiji.com


《【キーウ時事】ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪の記録に取り組み、2022年にノーベル平和賞を受賞した同国の人権団体「市民自由センター(CCL)」のオレクサンドラ・マトイチュク代表は25日、トランプ米政権が進める停戦交渉で「人間の存在が軽視されている」ことへの深い憂慮の意を示した。キーウ(キエフ)で時事通信のインタビューに応じた。

 この中で、マトイチュク氏は「天然鉱物や選挙、領土譲歩の可能性など政治的な主張は多く聞かれるが、人間に関する言及がないのは問題だ」と述べ、「交渉に人間的な側面を取り戻すのがわれわれの任務だ」と語った。

 CCLは、停戦交渉ではロシアに違法に拘束されたウクライナ市民の解放や連れ去られた子供たちの帰還に関する合意が最優先として、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどと共にキャンペーンを展開している。

 マトイチュク氏は「トランプ大統領はこの戦争の犠牲を憂慮しているからロシアと停戦交渉を始めたと言っている。ならばロシアの刑務所で死ぬ(ウクライナ)市民のことも気に掛けなければならない」と強調。さもなければ「拉致された約2万人の子供や違法に拘束された市民はどうなってしまうのか」と訴えた。

 「ロシアによる占領とは単に国旗が変わるということではない」と述べ、その本質は「拷問、レイプ、拉致、アイデンティティーの否定、子供の強制的な養子縁組、(市民を思想信条で選別する)ろ過キャンプ、(殺害した市民を埋葬する)集団墓地」にあると指摘した。戦争犯罪に関しては、他の組織とも連携し、ロシアに占領された地域も含めて全土で情報収集できる体制を構築しており、8万1000件以上を記録したという。

 マトイチュク氏は、昨年にノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に対し「心からの連帯」を表明。ロシアが核の威嚇を繰り返す中、これに屈しないためにも日本被団協の活動は重要だと述べた。》

 力への屈服による停戦は、平和をもたらさない。まともな停戦を!

 なお、日本にはウクライナから1,982人の避難者がいる(1月31日時点 出入国在留管理庁)。彼らへの支援としては、自治会が住宅の提供を行い、日本に身寄りのない人には、政府が生活費を支援し、日本財団が年間一人100万円の生活費支援をおこなっている。しかし、政府の支援は最長2年、日本財団の支援は最長3年が限度で、すでに支援が打ち切られた人が出ている。

 避難民への支援をぜひ継続してもらいたい。また、この機に、ウクライナ人のみならず、世界各地から迫害や戦乱を逃れてやってきた避難民への保護を強化することを要請したい。

 

ロシア全面侵攻3年によせて

 ロシアがウクライナに全面侵攻して3年が経つ。

 ここに来て、トランプ米大統領はウクライナの頭越しにプーチン大統領と「停戦」を図ろうとしている。しかもロシア側の言い分をほぼ丸のみにして。

「そこそこ成功したコメディアンだったゼレンスキー大統領は、アメリカを説得して3,500億ドルを勝てない戦争のために費やさせた」とも。なおこの金額は根拠がなく、実際の支援額はこの半分以下。NHK国際報道より

22日の「ウエークアップ」にウクライナに住む写真家、尾崎孝史さんがライブ出演。現地では疲弊感が極まっているとリポート。尾崎さんはかつて私が働いていたに日本電波ニュース社に所属していた。

現在の前線での一時停戦を2割の人が支持するようになっている。ただし、これは恒久的な国境ではなく今後交渉で取り戻す前提(NHK国際報道より)




 まず、ロシアには停戦を急ぐ理由がない。

 ロシア兵の死者数はウクライナ側の数倍に及ぶが、モスクワやサンクトペテルブルクなどの都市部では戦争の影を感じないで暮らすことができる。ウクライナのように連日ミサイル攻撃にさらされるわけでもなく、前線で死んでいく多くの兵士は都会ではなく貧しい辺境の地や囚人から徴集されている。ロシア軍は物量作戦でじりじりと支配地を拡大し、軍需産業はフル回転で好景気を支えている。政府への異論は完全に封じられ、プーチン体制はとりあえず磐石である。

 とにかく早く停戦をと焦るトランプ氏は、停戦を急ぐ必要のないロシアに足元を見られ、プーチン氏にすり寄らざるを得ない。その結果、トランプ氏は、戦争を始めたのがウクライナ側で、4%の支持率しかない無能な「独裁者」であるゼレンスキー大統領に長引く戦争の責任をおわせるに至っている。ロシアの偽情報の世界に完全に取り込まれてしまった。この戦争がロシアによる一方的な侵略であること、民間人の大量虐殺と拷問、レイプなどの戦争犯罪、病院や学校、発電所などの民生用インフラの破壊などには目をつぶるトランプ氏の言動に、ウクライナ国民は大きな不安と絶望を感じているという。

 そもそもロシアの目的は領土や資源の獲得ではない。全面侵攻開始にあたってプーチン氏は「ウクライナの領土の占領は計画にない」としていた。
 またNATOの東進やウクライナにおけるロシア系住民の「ジェノサイド」を阻止するためでもない。当時ウクライナがNATOに加盟する現実的可能性はなく、侵攻後にフィンランドとスウェーデンがNATOに新たに加盟してもロシアが強い反応は見せることはなかった。「ジェノサイド」とのロシアの主張は、侵攻前、東部の紛争地での民間人の犠牲者は国連によると過去最低で、大量虐殺の事実はないと否定されている。

 この侵略の目的は、「ウクライナはロシアの一部」(プーチン氏)との主張のもと、ウクライナを「属国化」することである。従って、ウクライナの将来の安全を確実に保証しなければ、ロシアは「属国化」という目標の達成をめざして再侵略する可能性がきわめて高い。

 ウクライナを属国化しようとするロシアのプーチン氏とロシアからの独立を守りたいウクライナには埋めがたい溝がある。ただ、ロシアがウクライナを属国化しようと既存の国境を越えて武力攻撃をすることは明白な国連憲章の根本原則を踏みにじる行為である。この侵略の責任を問うことなく、ウクライナを丸腰でロシアに差し出すかのような「停戦」を進めるなら、力のある国は弱い国を征服してよいとお墨付きを与えることになり、将来の世界秩序にとって破壊的な影響を与えるだろう。

 それにしてもウクライナの苦悩は想像に余りある。理不尽な条件での「停戦」を呑まなければ支援を止めるぞとアメリカはウクライナを脅しにかかっている。支援が止められれば、ただでさえ劣勢を強いられているウクライナは抵抗を継続できなくなる可能性があり、事実上の降伏を迫られる。こんな「停戦」はまともな停戦とは言えない。

 1938年9月、ドイツのミュンヘンで、英(チェンバレン)、仏(ダラディエ)、伊(ムッソリーニ)、独(ヒトラー)四カ国の首脳が出席したミュンヘン会談が開かれた。ドイツ系住民が多数を占めるチェコスロバキア・ズデーテンのドイツへの帰属を主張したヒトラーの要求を、英・仏は、これ以上の領土要求を行わないことを条件に全面的に認め、ミュンヘン協定が結ばれた。当事者のチェコスロヴァキアの代表は招かれなかった。これはヒトラードイツの増長を招き、第二次世界大戦を引き起こす結果となった。デジャブのようである。

 現状を備忘録として記しておこう。

【ウクライナの被害】

兵士の死者 46,000人(2月16日時点、ゼ大統領の発言)

民間人の死者 12,654人(2月21日時点、国連ウクライナ人権監視団)(これは確認できた限りで、全体のごく一部。ロシアに占領されている地域などは不明)負傷者は29,000人超

行方不明者 62,948人(2月3日時点、ウクライナ内務省次官の発言)

子どもの死者 670人以上(2月、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR))(確認できた限りで全体のごく一部)

家族や保護者の同意なしにロシアに連れ去られた子ども 19,500人以上(2月時点、ウクライナ政府)

国外に避難した難民 690万6,500人(2月19日時点、UNHCR)

国内避難民 370万人

住宅の被害 約200万軒(昨年3月時点、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR))

破壊・損傷を受けた教育施設1,600以上(2月21日時点、ユニセフ)

破壊・損傷を受けた保健医療施設約790(同上)

 

【ロシア側の被害】

兵士の死者 95,026人(2月公表の英BBCとロシアの独立系メディア「メディアゾナ」による独自調査。地方当局の発表や墓地の調査などで名前が判明した死者のみのデータ。「実際の45~65%に過ぎない」と専門家が指摘)

 

今こそ読んでほしい『ウクライナはなぜ戦い続けるのか』

 18日の『毎日新聞』夕刊で拙著『ウクライナはなぜ戦うのか~ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国』(旬報社)の特集が載った。過大な誉め言葉は恥ずかしいが、本の販促になってほしい。

18日夕刊「特集ワイド」」ウクライナで問う「愛国心」https://mainichi.jp/articles/20250218/dde/012/030/010000c

 トランプ大統領がウクライナ戦争の早期停戦に向けて動き出した。

 動きははやく、ロシアのプーチン大統領と首脳同士で停戦交渉をしようとしている。

 狙うのは、ウクライナを置いてきぼりにした、頭越しの「手打ち」。プーチンはトランプを「ドナルド」などと親し気に呼び、蜜月ムードが始まっている。

ウクライナとゼレンスキーを酷評しロシアの意に沿うトランプ氏(NHKニュース)


 この戦争はロシアの一方的な侵略で始まり、戦争を辞める決断ができるのはプーチンである。ロシアは軍事的にはもちろん国力からいっても圧倒的に強い。プーチンが納得する和平とは、侵略を正当化し、ウクライナに事実上の「敗北」を迫るものにしかならないことは明白だ。

 本ブログで繰り返し書いたように、ウクライナはロシア領に対する攻撃を欧米から禁じられ、一方的に破壊にさらされてきた結果、国民の中からも不利な条件でも「戦闘が終わって人が死ななくなるのだから今よりマシだ」と評価する人も出ている。軍事大国ロシアとの先が見えない戦争のなか、人々は疲れ切っている。しかし、それでも、あまりの理不尽に反発もまた強まっている。

 以下、加藤直樹さんのFBより

ウクライナ知識人のツイートから。
■政治学者
「私は2019年にゼレンスキーに投票しなかったし、その後も彼の政策を繰り返し批判してきた。戦争が終わった後も彼に投票するつもりはない。しかし、ウクライナがいまだ攻撃下にあり、抵抗のために団結する必要があるときに、誰かが『彼を落選させよう』などと言っても、私は許さない」

■日本でも翻訳が出ている国民的作家アンドレイ・クルコフ
(ロシア系でロシア語話者)
「トランプが『ゼレンスキーの支持率はわずか4%だ』と発言したことで、ゼレンスキーを支持していなかったウクライナ人もウクライナ大統領を擁護するようになった。そのため今日、彼の支持率は50%から57%に上昇した。トランプはゼレンスキーのために働いているのか」

■ウクライナ左翼「社会運動」理論家ユリア・ユルチェンコ
「ウクライナには多くの問題がある。私自身、大統領とその政党を批判してきた。しかし、現時点でウクライナ批判を増幅させているのは、ウクライナに降伏を要求する前に、ロシアの侵略の被害者を責めるためだということははっきりしている。信用するな」

■外交アナリスト
「ホワイトハウスの多くの人々は、ウクライナ人がたまたま大統領職に就いている特定の人物を中心に団結しているのではなく、『自由で主権を持ち、独立したウクライナ』という理念を中心に団結していることを知って驚くだろう。私たちの忠誠は共和国に向けられている」
https://www.facebook.com/profile.php?id=100007827132029

 拙著の表紙にも書いたが、ウクライナの人々は「政府も大統領もあてにしていません」との思いで抵抗している。これこそ本物の「愛国心」だと思う。

 ウクライナにとってだけでなく、世界全体にとって正念場である。こういうときに拙著が読まれて欲しいと願う。

宮本常一に学ぶ取材の心得

 山口県周防大島にある「宮本常一記念館」を訪ねた。


 今回で二回目の訪問だが、昨年展示リニューアルされてからは初めて。じっくり時間をかけて回り、彼の遺した言葉や文章に接して学ぶことが多かった。


 「日本列島の白地図の上に宮本くんの足跡を赤インクで印していったら、日本列島は真っ赤になる」(渋沢敬三)といわれたほど、民俗学者、宮本常一は日本中津々浦々を旅したが、彼の調査にあたっての心構えや留意点は、私たちの取材におけるそれにもあてはまるようで、襟を正される思いがした。

「何かの雑誌に物を書いたとき、ある評者が『百姓根性が抜けない』と評した。その時『そうなんだ、その通りなのだ。私自身にとってはいつまでたっても、どこまで歩いても大切なのはそのことで、その視点と立場から物を見ることを忘れてはいけない』と思った」(『父母の記/自伝抄』)

 宮本は、調査に行っては奪うばかりでなく、与えるものがなければならず、ギブ・アンド・テイクは調査の際の一つの鉄則であると考えていた。そして今を生きている人々の姿を忠実に伝え、彼らの良き代弁者になろうとした。

 宮本は、例えば離島をよく調査したが、その島を島民とともに発展させるよう尽力し離島振興のオルガナイザーと呼ばれた。故郷の周防大島のある町から町民が結束できるような文化運動をおこしたいと相談されると、「民具を集めて見ることから、ふるさとを見直す運動をおこしてみてはどうか」と提案。老人クラブや婦人会を巻き込んだ町民参加型の民具収集を指導し、この運動からその町(久賀町)に町立歴史民俗資料館が開館した。

 宮本は「地元の人たちの立場にたち、地元の人たちのことを心から案じてなされる調査は、意外なほど少ない」と言い、「調査してやる」という意識が強く、はじめから地元に調査費を要求することが多くなっていると嘆いている。また、「テレビ、ラジオ、新聞などで報ぜられる多くのレポートでも、地元の声を代弁しているものはほとんどない」とも指摘している。(『調査されるという迷惑』みずのわ出版)

 最終的に調査される地元の人々の役に立つようにすべしということだろう。

「人の身のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分のえらんだ道をしっかりあるいていくことだ」というのは各地を旅して回った宮本の父親からの教えの一つで、彼自身これに従ったという。『(民俗学の旅』)

 これも取材の心構えとして傾聴に値する。

 宮本の異常なほどの本好きを示す展示があった。

 「時に本などを求めようと思えば、二食をさらに一食に減じ、ついに一日断食ということもあった。そういう時には水腹ですごすのであるが、眼がくらみ足がふらつき、局から家まで三丁の道さえ歩く力が十分でなかった。体重はどんどん減じて十一貫代までおちた。しかし本だけはたえずよんだ。「何とかして立派な人間に」という意欲は常にもえた」(『父母の記/自伝抄』)

 1945年7月10日に米軍のB29の空襲があり、焼夷弾で持っていた本がほとんど燃えてしまった。その翌日の7月11日の日記。

 「身体がだるい。おくれて役所へ行く。午后早くかへしてもらふ。途中南田辺の中路へよつて4、5冊本を買ふ。また本買ひだ」とある。その一冊が『家族主義の教育』という本で、その本のとびらに「更新1」と記している。蔵書を全部失ってこれからそろえる本の第一号という意味だろう。翌12日も「南田辺で下車してつい本を買ふ気になり70円ばかり買つてしまふ」と綴っている。

 また、宮本が書き残したものを全て書籍化すると、優に100冊は超えるといわれている。宮本のフィールドでの調査スタイルは「あるく・みる・きく」だとされるが、その前後に「よむ」と「かく」という膨大なデスクワークがあったのである。

 取材においても、ただ現場に出ればよいというのではなく、しっかりと思索すること、着眼点を考えること、それらを文字化して整理することが求められる。

 宮本常一について、さらに学ぼうと思った資料館訪問だった。

 

「大手メディアが報じない旅券裁判②」YT第2回投稿

 ジャーナリストにパスポートが発給されないので海外取材に行けない。こんな信じがたい事態がこの日本で起きている。

 常岡浩介さんと安田純平さんはいずれも私がプロデュースさせていただいたフリージャーナリストで、彼らが危険を冒して取材した貴重な成果は、テレビで何度も放送されている。

 常岡さんはIS(イスラム国)を3度にわたって取材した世界で唯一のジャーナリストであり、安田さんはシリア内戦を反政府側から取材しアサド政権の無差別殺戮を告発した。

 政府は二人を入国禁止にしている国がある(常岡さんはオマーン、安田さんはトルコ)と主張し、「渡航先の法規で入国を認められない者に発給を制限できる」とある旅券行の規定を理由に二人へのパスポート発給を拒否している。

 紛争地取材では、取材中に拘束されたり、正規の手続きをへずに国境を越えざるを得ないことも起きる。また都合の悪いことを報じられたくない独裁国がジャーナリストを締め出すこともある。ある国がその国の都合でジャーナリストを入国禁止にしたからといって、日本政府がジャーナリストにすべての国に行けなくする措置を取るなどということが許されるはずがない。

 二人は裁判で闘

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っているが、一審判決は二人にとって納得がいかないもので、控訴した。そして1月30日、東京高等裁判所で下った判決は、やはり不当なものだった。

 報道の自由、国民の知る権利にかかわる重大な事態であるにもかかわらず、控訴審判決後の記者会見に、テレビカメラは一台もなかった・・・・

 判決と大手メディアの姿勢を糾弾する。

 

 以下、本ブログより参考として

takase.hatenablog.jp


takase.hatenablog.jp

/05/

takase.hatenablog.jp

「ジャーナリストに渡航の自由を!」裁判はいま YT第一回投稿

 大手メディアが報じない旅券裁判ジャーナリストにパスポートが発給されないので海外取材に行けない。

 こんな信じがたい事態がこの日本で起きている。そのため、紛争地取材で実績のある二人のジャーナリスト、常岡浩介さんは6年、安田純平さんは5年も取材ができないでいる。旅券法に「渡航先の法規で入国を認められない者に発給を制限できる」とある規定を理由に政府が二人へのパスポート発給を拒否しているからだ。

 二人は政府を相手取って裁判で闘っているが、一審判決は二人にとって納得がいかないもので、控訴した。そして1月30日、東京高等裁判所で下った判決は・・

 

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