横田家の家族写真公開の背景(2)

 きのう私の知る範囲で、写真公開にいたる事実関係を書いた。
 その後、有田芳生さん本人がやや詳しくフェイスブックでコメントしているので紹介しておきたい。

《公開された写真は、横田家の「引き出し」に入っているものと同一ですが、それはぼくも共有していたものです。横田さんがお持ちの写真をぼくも持っていたということはご夫妻も前から承知されています。つまり公開された写真は「横田家から出していない」。それはそのとおりで、有田が持っていた写真を公開した。それだけのことなのです。公開する写真を横田滋さん、早紀江さんといっしょに選別したのは5月5日。それから原稿を書くことになります。なんども書き直し、完成させたのは「週刊文春」の締め切り直前でした。そこで横田夫妻にお読みいただきます。そこで注文が出て、さらに最終締め切り日には事実関係で2つの訂正とウンギョンさんに語った言葉の加筆を求められます。これが6月7日のことです。これがどうして北朝鮮の陰謀になるのでしょうか。気に入らないことには激しい言葉でレッテルを貼ればいいとする態度はセクト(党派、宗派)主義です。それでは運動をさらに狭めるだけでしょう。日朝交渉が閉塞している現状を打開するには人道問題をテコにすることだとぼくは思っています。》
https://www.facebook.com/yosihifu.arita
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【滋さんとひ孫のJちゃん】
 一部の人々が、横田夫妻は有田さんとは「考えが違う」ことを強調し、まるで両者の間に全面的な対立関係があるかのような印象を与えようとしている。
 「考えが違う」というのは、横田夫妻の三つのコメントのうち3番目のものに登場する。
 「(略)北朝鮮からウンギョンさんを日本に呼ぶという話が繰り返し出ていますが、私たちにとってはびっくりするだけです。もしそう言われたとしても、そういう事は致しません。
 私達が立ち上がったのは、子供達が国家犯罪で連れて行かれ、大事な子供達の命が今なおどこにも見えず、偽遺骨が送られてきたり、いいかげんなカルテをもらったりしたことを受けて、多くの国民の方に助けて頂いて、めぐみ達は生きている、すべての被害者を救い出したいと思っているからです。
 これは、繰り返し申し上げていることであり、今回、孫の写真を独自ルートで公開された有田先生と私達の考えは違っているという事をはっきりさせて頂きたいと思います。」
(6月10日の「コメント」)

 このコメントを横田夫妻がどのような思いで出したのか分からないが、とりあえず、文言をそのまま読めば、考えが「違っている」とされるのは、孫との再会を優先するかどうかという点である。
 ご夫妻が、拉致問題の進展がない現状において、自分たちだけが孫と再会してうれしい思いをするのは遠慮したいという気高いお気持ちは私も尊重したい。いまの状況の中で、また横田夫妻のお人柄からしても、自分たちから「再会したい」と言いだしにくい事情も分かる。
 しかし、だからといって、このまま、再会が実現しなくていいのか。

【早紀江さんとおもちゃで遊ぶJちゃん】
 有田さんは、今年3月17日の参議院予算委員会で安倍総理にこう質問した。
「例えば政府も含めて、その後の肉親との出会いというものを人道的問題として、拉致問題は絶対解決しなければいけませんけれども、滋さんは83歳になられた、早紀江さんは2月で80歳になられた、そういうお年も考えれば、拉致問題の解決という大きな重要な問題とは切り離して、人道問題としてこの問題は、2年前総理が実現されたように、進めていくことも考えなければいけないと思うんですけれども、これからのことを、御夫妻の意向も含めて、総理、お聞きになる御予定ありますでしょうか。」(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/190/0014/19003180014017.pdf)
 「再会」という人道的配慮と拉致問題本体との「切り離し」路線である。
 拉致問題が完全に停滞し、北朝鮮への制裁もあるなか、時間的猶予のない横田夫妻の孫との再会は別扱い、いわば「例外」として実現させたいというのだ。
 それは拉致問題解決を攪乱することになるのだろうか。

 横田夫妻が、わが娘だけではなく、すべての被害者を救い出したいという強い思いを持ち、困難ななか活動を続けてきたことはみなが知っている。かつて運動に支障をきたすことを怖れて、孫に会うのを断念したこともあった。
 有田さんが2006年に横田夫妻にウンギョンさんとの交流の希望を尋ねたときも「北朝鮮に行くわけにはいかない」とご夫妻は答えている。すぐにでも会いたい気持ちを抑えて、拉致問題全体のことをしっかりと考えている。だからこそ、モンゴルという第三国での対面となったのだ。
 また、先日のブログに書いたように、モンゴルでの初対面のときでさえ、横田夫妻は見えない姿の北朝鮮当局と闘っていた。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20160609
 将来もし、孫との再会が実現したからといって、北朝鮮に「丸め込まれ」、拉致問題はこれでお終い、などとご夫妻が考えるはずもない。

 モンゴルでの対面は、多くの人に驚きとともに大きな喜びで迎えられた。拉致問題への障害、攪乱などと非難されることはなかった。人々の拉致問題への関心がそれで冷めたわけではなく、むしろ一刻も早い全面解決への思いを新たにしたはずだ。拉致問題解決へのマイナス要因にはなっていないのである。
 
 寄る年波のなか、お二人には再会の希望が募っている。「死ぬまでにもう一度会いたい」という切実な思いを抱いているであろうことは、公開された写真の一枚一枚から容易に想像できる。   
 自分たちからは言い出せないその真情を斟酌して実現に動くのが政治ではないのか。たとえ横田夫妻から「考えが違う」と言われたとしても。(「考えが違う」とは私には思えないが)

 「切り離し」路線について、有田さんは冒頭のフェイスブックで「日朝交渉が閉塞している現状を打開するには人道問題をテコにすることだ」と言う。
 「人道問題をテコにする」とはどういうことなのか。実はこれは単純な「切り離し」ではなかった。
(つづく)