かつて人類は、文明という武器を手に自分たちにとっての理想の都市を築き上げようとした。様々な趣旨の元、それぞれの思いを胸に、作られたものの、失敗に終わった10のユートピア都市計画が海外サイトにて特集されていた。
そこに散りばめられた様々なアイデアは、今日の我々に少なからず影響を与え続けていることだろう。
10.ベジタリアンのためのユートピア、オクタゴンシティ
1856年、カンザスの移民会社が、カンサス州ハンボルトにベジタリアンだけが住む理想郷オクタゴンシティを作ろうとした。都市のデザインは、有名な骨相学者オルソン・スクワイア・ファウラーの提唱した八角形という“科学的”な考えに基づいている。八角形はたくさんの光を取り込むことができるため、家にとって実用的な形だというのだ。
都市設計者でベジタリアン活動家のヘンリー・クラブは、中央の八角形の広場から8本の道路が放射状に延びている町のイメージを描いた。その間に広場や公共の建物などが作られる。最終的に世界中から約60家族がここに集まったが、彼らは狭く、窓のない丸太小屋風の住居にがっかりし、さらに、水源が枯れて水不足になったり、蚊が発生して病気の心配があるなど、さまざまな問題に直面した。
今、町の痕跡はまったく残っていないが、クラブのオクタゴンハウス構想は、アメリカやカナダにほんのひと握り残っている。
9.マシンシティ、ヴィラ・ラデュース
スイス系フランス人建築家ル・コルヴュジェは理想の町の壮大な計画をもっていた。20世紀始め、彼は純粋主義と呼ぶ考え方を編み出した。建築というものは、近代へ移行していく産業機械として、シンプルで機能的でなくてはならないというものだ。
この概念をもとに、彼はマシンとしての近代的ユートピアシティ、ヴィラ・ラデュースとヴィラ・コンテンポレンヌの2つを考えた。両方とも、裕福な者もそうでない者も大勢が住める巨大な高層ビルをそなえ、公園や緑地でこの巨大な町を生産エリアとレジャーエリアに分ける。
垂直ガーデンシティの異名をもつラデュースは、ファウラーのオクタゴンシティのように、自然の太陽光や空気をたくさん取り込めるようになっている。建物は社会生活の中心でもあり、屋上ガーデンやビーチ、地下のケータリングシステムや各家庭のための子どものケアなども完備している。コルヴュジェはそれぞれのビルに2700人が住めることを想定して、一日5時間労働、公共交通で家までまっすぐ帰ることができる。両方とも実際に建設はされなかったが、ラデュースはのちの建造物に着想を与えた。
ル・コルヴュジェはこのマシンシティの原理を応用して、マルセイユにUnite d’Habitationを設計した。この建物は今日でも残っていて、そのユニークなデザインの部屋を見学ツアーのために公開している住人もいる。
8.ガーデンシティ、グリーン・メトロポリス
1902年、社会改革主義者エベニーザー・ハワードは、“明日のガーデンシティ”という論文を発表し、住民が自然と調和して生活できる町の計画概要を説明した。土地の広さは6000エーカー、1000エーカーの範囲に32000人を収容できる建物を建設し、残りに公共の公園、農場、広い道のある緑地もつくる。
ハワードは、ロンドンのような中心的な町の周辺に衛星のようにガーデンシティをいくつか配置し、それぞれが道路や鉄道で結ばれているという構想をもっていた。ハワードはイギリスのハートフォードシアに、ウェリンガーデンシティとレッチワースガーデンシティというふたつの町を作り、のちのガーデンシティ動向に影響を与えた。郊外という考えに基盤を置いた、比較的人口の少ない衛星都市の概念をうちたてたのだ。
7.地消地産、ブロードエーカーシティ
1932年、フランク・ロイド・ライトは、ヴィラ・ラデュース構想を知ったが、これが気に入らず、すぐに自分自身の理想郷をまとめ始めた。これは、彼の愛するアメリカ中西部の田舎の広々とした大草原をベースにしたもので、それから彼は生涯をかけて、このブロードエーカーシティ計画にのめりこんでいく。
ライトは町から工業的な要素を完全に取り除き、開発された都会の空間を田舎のそれに置き換えた。ブロードエーカーシティでは、各家庭は1エーカーの土地を与えられ、一番大きな村でも人口1万人以下におさえる。誰もが必要な水や電力は個人所有にはしない。広々とした美しい風景の見える道路、見事な建築、公共のサービスステーションがあり、農場、工場、道端の市場、学校、住居、レジャーエリアなど多様なユニットに分かれ、これらのユニットがうまく統合されて配置され、生産、分配、自己改善の場、レジャーを家から半径150マイル以内の中でまかなうことができ、車や飛行機で簡単に素早く行き来できる。
ブロードエーカーシティは、結局建設されなかったが、地元で食料や電力やその他必需品を生産するという地産の考え方は今日でも土地利用計画者たちを刺激している。
6.ナチスのモダニストの夢、世界首都ゲルマニア
建築家アルバート・シュペーアは、ベルリンを、将来的にナチスの中心にするというヒトラーの都市改造計画を実現させる任務を任された。明らかにル・コルヴュジェの高層ビル住居の影響を受けていて、シュペーアは巨大なビルを建設して、ベルリンを世界の中心地にしようとした。計画の中には、40万人も収容できる巨大なスタジアムや、ベルサイユ宮殿の鏡の間の二倍もある総統官邸などもあった。
戦争のせいで多くの計画が中止されたが、土地的にもやむをえないものがあった。ベルリンは湿地に位置していたため、シュペーアは試験的に建物(Schwerbelastungskorper)を建設してみて、どれだけ地盤沈下があるかを調べようとした。結局、3年で18センチも沈んでしまい、それ以上工事を進めるわけにはいかず、建物の残骸は金網フェンスの向こうにひっそりと取り残されている。失敗に終わったゲルマニアの町は、ル・コルヴュジェの夢を葬る最後の弔いの鐘だったのかもしれない。
5.不運なアメリカの入植地、フォードランディア
1930年代、ヘンリー・フォードは、アメリカの一部をブラジルのジャングルに持ち込もうとしたが、うまくいかなかった。フォードランディアは、アマゾンの中心都市の広大なゴム園になる予定だった。
フォードはアメリカ人従業員をアマゾンに移動させて、そこで現地の従業員も雇った。町には発電所、病院、図書館、ゴルフ場、従業員のための住居があり、“健康的”なアメリカの生活様式を強要して、ハンバーガーを勧め、酒や婚前交渉を禁止した。
暴動で破壊されたタイムカード用の時計。
従業員たちは、これまでのような早朝と深夜のシフト勤務ではなく、炎天下の中、9時から5時まできっちり働かなくてはならないことに不満をもち、暴動が起こるほど状況が悪くなってしまった。
こうした文化的な問題のほかに、フォードにはゴム農園を経営するノウハウが完全に欠けていた。技術者たちは手探りでゴム栽培を行っていくしかなかったが、結局は土地がゴムの木には適していないことがわかり、1930年代半ば、フォードはここを見捨てた。フォードランディアの哀れな残骸は、まだジャングルの中に朽ち果てたまま残っている。
4.浮遊都市、クラウド・ナイン
科学、特にSFは都市設計者に影響を与えることが多い。しかし、20世紀半ばの発明家バックミンスター・フラーほど、こうしたSF的未来のアイデアを真剣に考えた者はいなかっただろう。彼は東京が人口過密だというニュースを聞いて、空に浮かぶ都市を考え出した。
球形テンセグリティ大気研究所(STARS)で考え出されたクラウドナインは、巨大なジオデシック(測地線)構造の球体でできている。空気を満たすと、その球体の重さは内部の空気の重量の1000分の1の重さになる。フラーは太陽光や人工的に空気を温めて球体を浮かす計画をたてた。この浮遊都市を山を錨にしてつなぎとめたり、世界中を漂わせるイメージをもっていた。
この浮遊都市は実現しなかったが、フラーのプレハブのアイデアや、ダイマキシオンハウスというジオデシックドーム住居は、いまだに根強いプレハブ建築動向に影響を与えた。
3.耐核兵器のための、国家の土地利用計画アトムラビア
ユートピアのほとんどは、人口過密、不健康な生活環境、高価な商品輸入の必要性など、現代の都市の問題を解決するために設計されるが、冷戦時代には別の脅威があった。
1947年、ライフ誌が核攻撃からアメリカ市民を守るための新しい都市計画を募集する記事を載せた。その裏には、アメリカ市民を都心に集中させるのではなく、国中に散らばって住まわせるという構想があった。人口を再分配してチェス板のように配置した新しい町を作ろうとしたのだ。
計画された町には、トータルで2千万戸の新居を建て、新たな社会経済生活構造を作り直し、すべての産業は地下に移動させて、核攻撃から守るというものだった。この構想は実現しなかったが、町の地下に核シェルターを建設しなくてはならないという強迫観念の始まりとなった。
2.完全インドアの町、シュワードの成功
1968年、アラスカのプルドー湾で石油が見つかった。こうなると、建設ラッシュが始まり、そのまわりに町ができるのが普通だが、タルサにあるタンディ社は、世界初の完全インドアの町、気候をコントロールできる都市を作る計画をたてた。このプランはシュワードの成功と呼ばれた。
4万の住人はモノレールや上記の絵のようなスカイトラムや歩く歩道を使って、68度の勾配を移動する。オフィスエリア、小売りエリア、スポーツエリアも建設予定だった。トランス・アラスカパイプラインの建設が法廷で認められると、下請け会社は土地のリース代を払うことができなくなり、この都市計画は頓挫した。だが、いまだにドームに覆われた、天候に左右されない完全インドアの都市構想の夢は存在している。
1.スマートシティ、ソンドゥ
韓国のソンドゥは、完璧なスマートシティとして韓国の都市設計家やIT企業のシスコを魅了している。ここでは気象から通信・輸送まで、すべてがネットワークコンピュータで管理され、二酸化炭素排出量を最小限におさえるよう設計されている。
この発想は、ル・コルヴュジェの純粋マシンシティやハワードのガーデンシティから出てきていて、学校、商店、オフィスから公園、美術館、病院にいたるまで、ル・コルヴュジェの摩天楼ビルによく似ている。持続性はガーデンシティ感覚だが、それは機械によるハイテクインフラ構造により可能になっている。すぐにできる箱の町とも呼ばれ、バックミンスター・フラーのプレハブシティの理想も見ることができる。
このスマートシティ構想は、現代の都市設計者の間では広く一般的な考え方で、似たような開発技術がたくさん出てきている。ソンドゥは2015年までに完成する予定だが、すでにこの地域にビジネスを取り込む問題が発生している。実現に失敗したほかのユートピアと同じの運命をたどる可能性もあるが、私たちが都市生活をどのように考えるかを変えていくアイデアをもたらしてくれるだろう。
番外編::酔っ払いの町、ブーズタウン
1952年、メル・ジョンソンは、投資家たちに自分の考えた完璧な都市計画を披露した。それは酒飲みのために作られた町だった。
あらゆる通りにアルコール関連の店が並び、町の人間はブーズバックスという独自の通貨をもつ。パーティポリスというこれまた地元独自の警察システムがあり、警官は民生委員のように町を歩き回って、前後不覚になっている酔っ払いにアスピリンを与え、家まで優しく送っていき、逮捕者を出すことはない。子どもはこの町には入れず、子連れの訪問者は、デイケア施設や郊外のサマーキャンプに子どもをあずけなくてはならない。町にはもちろん醸造所、蒸留所も完備されている。
ここはアルコール文化の中心地になる。バーやクラブなど飲む場所が充実し、酒屋は閉まることがなく、酒飲みにとっての天国になる。警察は酔っ払いをぶちこむためにいるのではなく、介助するために存在し、嫌がらせをすることもない。通りの名前もジン・ライム、バーボン・ブルバード、スコッチ・ストリートなど、酒にちなんだ名がつけられている。ほかには決してない、大人の遊び場だ。とジョンソンは投資家たちに説明する。
当然のことながら、ジョンソンはブーズタウン建設のための資金を集めることはできなかったが、1960年まではこの構想を温めていた。
完璧なオチに脱帽
ドバイとシンガポールは成功したことになるな
自動化した機械を人間がよけなければいけないって法律ができれば
SFみたいに自動機械を導入できると思うんだよな
除雪とか清掃作業とかさ
ネットにはwikipediaやlinuxのようなデザイナー不在の社会実験があるな
自然状態がうまく機能する例かな
ゲームで言うならBIOSHOCKのラプチャーとコロンビアがこれに当たるんだろうな
マイノリティには住みづらいと感じる社会だからこそ、こんな風に“好きなもの同士”の理想郷をつくろうとする
しかし失敗例を見てわかる通り、何か問題が発生した時になんとかする対応力がない
社会が様々な問題に対してある程度対応を持っているのはきっと多様性なんだろう
隣にいる“自分とは異なる人”は、普段はうっとおしいかも知れないが、いざというときに良いアイデアを出してくれるかもしれない
そんなことを考えました
「八角形はたくさんの光を取り込むことができるため、家にとって実用的な形」と言っておきながら窓がない家ってどういうことだよ…そりゃ失敗するわな。
ほんとびっくりするほどユートピアだな
カーネーション「Garden City Life」はこれが元ネタかあ。
ドラマのユーリカみたいな科学者のための街的な構想はなかったんかね?
ユートピアとは作られた目的が違うけど、バイオスフィア2もなかなか
夢トピアって所か
イタリアのパルマノーヴァで検索してみ
理想都市は実在してる
ロシアとか、北朝鮮のことかと思ったけど違ってた。
でも、これはこれで面白かった。
バイオスフィア計画を思い出した。
山形浩生が詳しそうなジャンルだな
バーぜルがなくてチョコっと残念
BIOSHOCKのネタとして使えそうだなw
酔っ払いの町の亜種としてチョコレートの町がほしいです
fallout:new vegasのカジノはブーズタウンがモデルか。
理想は人それぞれだから、これが理想だ!
って押し付けられんのはカンベンだなぁ・・・
その人が勝手に住む分には別にいいけど。
完全インドアの町ってキングゲイナーの元ネタかしら?
先日シンガポールが超未来都市に変貌しててビックリしたよ。是非湾岸エリアに出来た新しい植物園へ遊びに行ってみて。夜景はまるで攻殻機動隊の世界に迷い込んだような雰囲気。
>“健康的”なアメリカの生活様式を強要して、ハンバーガーを勧め
高度なアメリカンジョークだなオイ
天候に左右されない農業の都市を砂漠に作れば成功しそう
砂漠にビニールハウス作って成功してるとこあるみたいだし
ガーデンシティ、グリーン・メトロポリス
これが理想
ひとつの場所に6万人が生活できるスペースを作り
空いた土地を農地利用
シムシティで我慢したまえ
最後のやつ、バブル時代にテーマパークのネタに思いついた奴が日本にもいそうだなw
犯罪者の街 ケイムショーンシティー
歩く歩道て
コルビジェやハワードなんかはその思想が以後の都市計画に影響あたえてる…はず…たしか…
どんなに偉大な建築家も、裏を返せばただのエゴイストか・・・
ちょっと待て。まだ未完成で放棄もされてないソンドゥは「失敗した」の定義にあてはまらないだろ。
ちなみにソンドゥは漢字で松島(しょうとう)と書く
わからんでもないな。
新技術をもとに、それをもとに生活様式を一変してよりより住空間を
創出できるって、こういう夢は建築家いとわずだな。
電気や上下水道、ITインフラみたいなかつてモデルシティにすぎなく普及した
成功例もあるし試みるのはいいと思うわ。
挑戦自体は称賛に値するよ。
最後の項、ZUNが喜びそうな都市だわな
人民寺院のジョーンズタウンがないな。あれこそ最悪な終わりかたをしたユートピアだよ
浮遊球体は夢があるな
まさに空中都市