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ビーチサイドの人魚姫
俊樹

2019年9月Nikon D700で一眼レフデビュー。カメラは独学。2020年4月、Nikon D810へアップグレード。いつか写真展を開く為、日々精進。勿論、詩、小説、エッセイ、作詞は継続中。2021年夏、Nikon Z7Ⅱへと更にアップグレード。2022年10月、3回目の心臓手術に耐え抜き現在に至る。2023年8月ペースメーカー植え込み。

桜の花びらが舞い散る午後に(鎮魂歌)。

2023年04月27日
エッセイ 12
千鳥ヶ淵01

千鳥ヶ淵02

千鳥ヶ淵03


花びらが舞い散る午後に
あの娘は逝った
天使の衣を纏って空高く
注射が嫌だと駄々こねて
僕を随分困らせたっけ
君があんまり泣くもんだから
瞼を両手で押さえると
「バカっ涙であたし溺れちゃうよ」
と言って僕の腕にキスしたね
は散ってもいつかまた戻って来るけれど
君と過ごした日々はもう戻らない
花びらが舞い散る午後に
涙の抱擁だけを僕に残したまままで
あの娘は散った
閉じた瞼に最後のくちづけを


白血病のため17歳で亡くなった少女に捧げた詩。
 当時はまだ白血病の治療が確率されておらず、輸血と出血の繰り返しであった。彼女の病床を見舞い、「頑張れ!負けるな!」と励ましたその3日後に彼女は眠るように息を引き取った。

 夜を撮影したその二日後に再び同じ千鳥ヶ淵へ出向いた。太陽の陽射しを浴びて煌めくを撮りたかったからである。レンズはタムロンの望遠とNikon単焦点MC105mmを用意した。千鳥ヶ淵緑道を大勢の人が行き交う中で皆さんの邪魔にならぬようかなり気を使っての撮影だったが、一度ファインダーを覗き込んでしまうと自分の世界に糸も容易くのめり込んでしまうから多分『邪魔なおっさん』と思われたかも知れない。
 花びらが舞う季節が訪れると、必ず数十年前の若き頃の青春の1ページが鮮やかに蘇って来る。このポエムに登場する少女は私と同じ養護学校の卒業生であった。在学中、お互い好意を寄せ合うような間柄ではなく病棟で顔を合わせた時に挨拶を交わす程度で、少女がどんな病気を抱えていたかなど特に関心もなかった。養護学校を卒業した後、少女は地元(浜松市)の高校へ進学、私は清水市駒越にあった療養型職業訓練所で1年半を過ごし16歳で静岡市沓谷にある会社へ就職。18歳を迎えたばかりの頃、養護学校から同窓会の通知が届き、それに出席しそこで高校生の彼女と再会するに至った。在学中は丸顔のショートヘアーだった髪型もセミロングに変わり、松林の隙間から降り注ぐ陽射しを浴びた黒髪がキラキラと星の様に輝いていた。同窓生たちとの集合写真を撮った後、「神戸さんですよね?」と声を掛けて来たのは彼女の方だった。
 私の出で立ちと言えばフォークのプリンスならぬ吉田拓郎の真似をして、彼女より更に長い髪で当時流行りのラッパズボン。丸刈りの中学生だった頃の面影など何処にも残っていなかったが、彼女は一目で私が分かったようだった。いきなり声を掛けられて驚いたが、言葉も殆ど交わした事のなかった自分を覚えてくれていたのが意外で、内心は嬉しくもあった。
 「千絵ちゃんだよね?」これが彼女との最初のマトモな会話だった。そしてそれが切っ掛けで二人とも堰を切ったように話が弾みお互いの近況を語り合った。この時、初めて少女の身に何が起こっているのか初めて知る事となった。高校に進学はしたものの、体調不良により授業を欠席し入退院を度々繰り返しているようだった。彼女は悲しみを打ち消すかのように笑顔でポツリと呟いた「あたし、白血病になっちゃった…」。私は返す言葉を見失ってしまい「えっ?」と再度尋ね、ただ驚くばかりだった。在学中は元気に飛び回っていた彼女の姿からは想像も付かない病名だった。
 高校に進学してから病気は更に悪化して行ったようだった。おそらく急性白血病だったのだろう。その同窓会での再会以降、彼女との付き合いが始まった。重い病気を患った彼女に対する同情心も多少はあったかも知れないけれど、その時は時間の許す限り彼女に寄り添って病気の克服を手伝いたいと思っていた。携帯電話など便利な物のない時代、会えない時は手紙を書き励ました。
 今年の春もきっと高い空の彼方から散り往く桜を大きな瞳を輝かせ、彼女は見詰めているだろうと私はそう思っているし、歳を取った私の下に17歳のままの千絵ちゃんが舞い散る花びらに乗って降りて来ているんだと…。
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俊樹
この記事を書いた人: 俊樹
本名/神戸俊樹
静岡県藤枝市出身。
19歳の時に受けた心臓手術を切っ掛けに20歳から詩を書き始める。
2005年3月詩集天国の地図を文芸社より出版、全国デビューを果たす。
うつ病回復をきっかけに詩の創作を再開。
長編小説「届かなかった僕の歌」三部作(幼少編・養護学校編・青春編)父を主人公にした(番外編)を現在執筆中。
詩、小説、エッセイ、作詞など幅広く創作。
2019年9月、一眼レフデビュー。Nikon D700を使用。
2020年4月、Nikon D810にアップグレード。
2021年夏、ミラーレス一眼 Z7Ⅱへと更にアップグレード。
2022年10月3度目となる心臓手術を受け、大成功を収める。
2023年8月徐脈性心房細動で心停止(失神)したため、ペースメーカーを植え込む。

コメント12件

コメントはまだありません

雪野繭

タイトルなし

私も2019年に親しくしていた音楽仲間を失ったばかりです。
癌でした。
一緒に演奏したのは、もう10年も前でしょうか。
桜の花が散る光景を見ると、どうしても思い出してしまいます。
私よりも年下でした。
人間は年の順に死んでいくものとばかり思っていました。
若い命が散ってゆくのは、とても辛いです。

掲載のお写真、2枚目がとても色彩が濃くて良いです。
力強さを感じます。

2023年04月27日 (木) 15:06

☆AMEX☆

タイトルなし

切ない思い出ですね。
何といったらいいのか・・言葉が見当たりません。

明日はがんで亡くなった叔母の葬儀に行って来ます。
最近死について考える事が多くなりました。
近年動悸息切れが多々あり、今日は床屋さんで気を失う所でした。
先月からの多忙さが堪えているんだと思います。
今思うのは一日一日を悔いなく生きる事でしょうか。
一枚目の写真は何かを訴えかけてくるような気がしました。

2023年04月27日 (木) 20:25

sado jo

タイトルなし

今は医学の進歩で不治の病だった白血病も有効な治療法ができて完治する様になりました。
水泳の池江璃花子選手なども再起不能と言われながら、治療してもう日本選手権で優勝してます。
癌やALSなども、将来的には遺伝子改変を行なえば治療が可能になるとか言ってます。
しかし、身体の病気は治療できても心の病がね…米国の銃撃事件を見ても心を病む現代人が多い様です。

2023年04月28日 (金) 15:31

apricot・a

タイトルなし

1枚目の透き通った感じのお写真がとても幻想的で美しくて、
綺麗なフレームに入れて部屋に飾りたいくらいです。
生き生きとした桜の2枚目、ちょっと影のある3枚目、
撮り方によって雰囲気がガラッと変わっているの流石ですね~。

私の友人の子どもさんも白血病で亡くなりました。
病気ばかりはどうにもしようがありません。
悲しい事です。

2023年04月30日 (日) 09:56

ももPAPA

タイトルなし

俊樹さん こんにちわ♪

お話を読んでで、"1リットルの涙" を思い出しました。
若い命が不治の病に侵され、命尽きるまで精一杯命の灯を絶やすまいと
必死で頑張った闘病の記録を描いたノンフィクションドラマでした。
涙なしには観れない映画、今もしっかりと心の中に刻まれています。
若い方が病気で亡くなるのは辛いですね。

桜のショットが俊樹さんの思いとオーバーラップして心に刺さりました。
素晴らしいショットですね。

2023年04月30日 (日) 18:31

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2023年05月01日 (月) 05:48

荒野鷹虎

俊樹さんへ‼

遅れてすみませんです,パソコンが壊れたようで休んでいました⁉
電波障害のようです、タブレットは使いにくいですので宜しくお願いいたします!応援して帰りmすねね、

2023年05月01日 (月) 08:13

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2023年05月03日 (水) 22:07

ネリム

こんにちわ
若い命が散るのは辛いですね。

2023年05月04日 (木) 16:33

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2023年05月04日 (木) 19:40

こまちょんた

タイトルなし

17歳ですか。青春真っ只中なのに。
若い命が逝ってしまうのは、本当に辛いものです。

普段は華やかに見える桜ですが、今回の桜はなんだか寂し気に見えます。

2023年05月04日 (木) 23:12

風花(かざはな)

哀しく切ない物語です

私には何も言う資格が無いし、何も言うべきで無いと思います。ただ、散りゆく桜を眺めるだけ・・・
儚く散った若い命の思い出は、きっと、俊樹さまの心の中に残っていて、ファインダーに映って見えているのかも知れません。
だからこそ、貴方の写真は、透き通るように美しく心に刺さるのではないでしょうか?

2023年05月07日 (日) 00:06