なお、以下に述べる ARG の構成要素は互いを支え合い、ひとつの密度の濃いプレイ体験を生み出しています。そのため、これらの要素は厳密には切り離すことはできません。
※このページでは、ARGを自称しているかに関わらず、ARGの魅力を持つ事例を広く取り上げています。
ストーリーの楽しさ
ストーリーは ARG の全ての要素を一本に繋ぐ、背骨のような存在です。魅力的なストーリーがあればこそ、プレイヤーは困難な挑戦を乗り越えて、物語の先を紡ぎ出す旅に、喜んで出かけるのです。一般的には、現実世界の住人である我々が参加できるような、SF やミステリー、サスペンスの物語となります。
- 壮大な SF ストーリー
- あるとき、世界各地で6人の記憶喪失の男女が見つかる。彼らの共通点は、ラビリンスに倒れていたことと、謎の入れ墨、そして鍛え抜かれた身体。 混乱する彼らを手助けするプレイヤー達は、やがて、彼らが古代に封じられた秘密のオリンピック競技の選手であり、並行世界の崩壊を止める鍵であることを知る……。
- The Lost Ring での事例
- 彼女たちを死なせるな
- 文化祭に向けてガールズバンド「都まんじゅう」を結成した高校生たち。彼女たちはTwitter上で日々の出来事をつぶやいていたが、好奇心で「血の人形の呪い」を調べ始めた直後から、悲劇が始まる。13日ごとに人が死ぬという「呪い」の正体は。そして、この悲劇から彼女たちを救うことはできるのか。
- Project:;COLD case.613 での事例
- バッドエンドを書き換えろ
- 大学生の久瀬は、不思議なバスに乗ったことをきっかけに、未来の「バッドエンド」を視る力を得る。その中で幼なじみの少女が血を流して倒れている未来を視た久瀬は、かつて交わした約束を守るために走り出す。次々と立ち塞がるバッドエンドを、プレイヤーたちの協力で書き換え続ける、ひと夏の物語が始まる。
- 3D小説「bell」 での事例
トランスメディア の楽しさ
トランスメディア (transmedia) とは、複数のメディアを横断して物語が展開されることを言います。これまでの物語は、小説なら書籍、映画なら銀幕という1つのメディアの中だけで完結していました。それに対して、SNSとYouTubeとリアルイベント、のように、複数のメディアで一つの物語のさまざまな側面を描くことにより、物語の存在感が大きく高まります。
スマートフォンが生活の一部となっている現在、テレビドラマやデジタルゲームの世界観を広げるために、スマートフォン上の各種メディアを活用する手法は、海外では定番となってきているようです。
- 現実と電話とネットと
- サイト上で発見した日時と GPS 座標のリストは、全米各地の公衆電話を示していた! 指定日時にその公衆電話へ行ってみると、突然電話が鳴り出す。おそるおそる出ると、電話の相手は宇宙船の AI であった。電話に出ることで Web 上でオーディオドラマが進展し、時にはプレイヤーと AI(を演じる役者)との会話も公開された。
- I Love Bees での事例
- 書籍から始まるトランスメディア体験
- プレイヤーが入手するのは1冊の本。そこには、行方不明となったキャシーが書き残したメモと、写真や絵はがきなどのたくさんの手がかりが挟んであった。メモを読み解き、実際に電話をかけ、インターネットを調べていくことで、キャシーの身に起こった不思議な事件の詳細が徐々に明らかになっていく。(日本語版では手がかりの実物が挟み込んであるのではなく、画像として収録されています)
- キャシーの日記 (Cathy's Book) での事例
- スマートフォンの中で広がるトランスメディア
- 「ガラパゴスの微振動」は、過去に介入して現在を変えることをテーマとしたスマートフォン向けのゲームアプリ。しかし、その体験はゲームアプリの中にとどまらず、進捗に応じてLINEでメッセージが届き、過去の改変が成功するとブラウザで見ていた現在のブログの内容が書き換わっていく。1台のスマートフォンの中に同居する複数のメディアを渡り歩くトランスメディア体験。
- ガラパゴスの微振動 での事例
謎解き の楽しさ
ARG で登場する最も一般的な障害、それが謎解きです。ストーリーを読み解く謎から、本格的な暗号文まで、ARG ではあらゆる謎のバリエーションが登場します。難しい謎をみんなで頭を捻りながら解いている時間は、ARG の楽しみのひとつです。なお、近年盛んな体験型謎解きゲームでは、創意工夫が凝らされた謎を参加者ひとりひとりが解く楽しみが体験の中心に来ますが、一般的な ARG においては、謎解きはプレイヤー全体に課される障害の1種類として活用されているという違いがあります。
- 難しい謎を皆で解く楽しさ
- 『神椿市建設中。EMERGENCE』では、1ヶ月にわたって毎日発生する「Q」を、2万人の参加者たちが解決しつづけた。「Q」は非常に多様で、全員でミニゲームを遊ぶものから、ひたすらおみくじを引くものまで様々。高難易度謎解きだった事例としては、「Q No.29」では、ユーザ毎に異なる1089パターンの情報を集約する必要のある謎、「Q No.30」では、ネット上に散らばった手がかりの欠片を集め、スペクトグラム解析や画像合成などを駆使して答えにたどり着く謎であった。こうした「Q」では、超高難易度の謎が徐々に解けていく様子を観賞すること自体がエンタメとなっていた。
- 神椿市建設中。EMERGENCE での事例
- 賞金1080万円の謎解き競争
- 懸賞金1080万円をかけた謎解きキャンペーンとして始まった『ストライド メガミステリー ラスト』。しかし、ステージが進んでいくと怪しい出来事が次々と起こり出す。リアルの賞金競争とARG展開が重層的に展開し、Web上の様々なサイトや日本各地を実際に探索して先に進めていく内容は、純粋な謎解きとしても非常に解きごたえのあるものであった。その30ステップ以上の解法手順を丁寧に追った公式解説動画が残っている。
- Stride Mega Mystery Last ARG での事例
- 多重構造の謎を解き明かせ
- 一見すると、パズルがたくさん載っているトレーディングカード。しかし、パズルを一定数解くたびに届くメールや、カードの裏面を組み合わせて出てくる情報を元に推理を進めていくと、徐々に過去の未解決事件の全体像と、「制作者」が込めた想いが浮かび上がっていく。
- 名探偵コナン カード探偵団 での事例
ミッション の楽しさ
ARG で課される障害はパズルだけではありません。オンラインや現実世界で実際にプレイヤーが行うミッションが課されることもあります。人を集めて何かするソーシャル性の高いミッションから、とにかくプレイヤーの誰かがとてもハードルの高いことを実現できれば良いといったもの、あるいは作中人物をみんなで説得するといったものまで、バリエーションは非常に豊かです。
高難易度だがやりがいのあるミッションは、プレイヤーの思い出に強く残るため、制作者のセンスが問われます。
- 失われたオリンピック競技を全世界で競え!
- 失われたオリンピック競技は、人で作ったラビリンスを目隠しをして走り抜けるものだった。チーム東京は、厳しい(?)練習を重ねた結果、Multiverse Olympiad にて8秒43で金メダルを取る。
- The Lost Ring での事例
- 草食男子の恋路をみんなで応援
- ぶどう農家で働く19才のタイヨウには、想いを告げる前に東京に上京してしまったメグミという幼なじみがいた。これは、2人がTwitter上にアカウントを作ってから1ヶ月間、ひたすら悩み続けたタイヨウと、その恋路を辛抱強く応援し続けたフォロワーたちの物語。Togetter に当時の記録が残っている。
- Tweet Love Story メグミとタイヨウ での事例
- 死にゲーを初見クリアできる攻略ページを完成させろ
- 久瀬の未来視に映ったのは、不思議な力でRPGの世界に取り込まれてゲームオーバーになるバッドエンド。プレイヤーたちは初見殺し満載の鬼畜難易度RPGを実際に入手し、それを攻略しながら、久瀬が初見でクリアできるだけの攻略ページを完成させた。
- 3D小説「bell」 での事例
インタラクティビティ の楽しさ
リアルタイムにストーリーが進行していくタイプの ARG では、制作者がプレイヤーの動きに柔軟に対応できるケースも多く、その動的性が魅力に繋がっています。登場人物にメッセージを投げたら、丁寧な返信が届くかもしれませんし、行動によっては、キーパーソンの生死すら左右するかもしれません。
そこに、決まった筋を辿るだけの物語メディアとの、根本的に異なる楽しさがあります。
- プレイヤーの行動で変わる結末
- 怪しげな協会は、理想郷エルスウェアのパワー「ノンシャランス」を悪用して現実世界で金儲けをしている悪の組織だった。協会を打倒を狙うプレイヤー達は、協会のセミナーを利用して、重要アイテムを盗み出すことに成功する。しかし、最後の最後に、セミナーの空気に飲まれてしまい、決定的な行動を起こせないまま、すべては終了。協会を破滅させることはできなかった。この経緯はドキュメンタリー映画「ザ・インスティチュート」に記録されている。
- The Jejune Institute での事例
- 登場人物と共に行動する楽しさ
- 敵組織の秘密の取引が判明した! プレイヤー達は、取引場所に実際に向かい、味方の登場人物と合流して監視を行う。実際に店まで入ろうとしたその時、階段ですれ違った男が、突然、身を翻して逃亡した。男を追いかけた先の公園で、ついに男を取り押さえ、重要なアイテムを奪還する。
- RYOMA the Secret Story での事例
参加者コミュニティ の楽しさ
コミュニケーションは、ARG の基本となる要素です。ARG は、次に何が起こるか分からない、ワクワク感の塊の娯楽とも言えます。そのワクワクする気持ちは、仲間と共有することで、何倍にも膨れあがるのです。広大な Web をみんなで手分けして探し回ったり、多人数が必要なミッションを協力して遂行したり。困難な課題を与えられ、それを協力して解決する経験を通じて、コミュニティの繋がりは深くなります。こうしたソーシャルな楽しみは、ARG の大きな魅力の一つと言えるでしょう。
- 世界各地で競うお祭り騒ぎ
- 最凶の悪役、ジョーカーの暗躍をこれ以上許してはならない! ゴッサムシティの地方検事には、法の力で悪を裁く、ハービー・デントを就任させよう、という(架空の)選挙活動が全米で行われた。プラカードを持った参加者が各地でデモ行進を行い、その様子の動画や写真が公開された。
- Why So Serious? での事例
- 日本中の参加者が協力して
- 毎日発生する「Q」の中には、特定の文字を含む地名からプレイヤーがGPSチェックインを行うことで解決していけるものも。歌の歌詞に含まれている文字を復元するミッションでは、公式 Discord で情報交換をしながら、日本中のプレイヤーが協力して、足りていない文字の地名を探して埋めていった。
- 神椿市建設中。EMERGENCE での事例
驚き・感動
ARG は、生身で体験するイベントが多いため、既存のメディアでは得られない興奮を味わうことも多々あります。特に、参加者を増やすための広告塔として行われる大がかりなリアルイベントは、バイラル効果を出すための強烈なインパクトを企図して行われるものが多く、あとで当時の動画を見るだけでワクワクするものばかりです。
- 空を見上げると……
- 北米最大のコミックイベントである Comic-Con の会場にて、怪人ジョーカーからのメッセージで広場に集められたプレイヤーの頭上に、突如、飛行機の編隊が飛来する。 飛び去ったあとには、飛行機雲で電話番号が残されていたのだった。
- Why So Serious? での事例
- ただのケーキと思ったら……
- ジョーカーが示した全米22カ所の住所は、ケーキ屋だった。指示通り「ロビン銀行のケーキを」と注文して受け取ったケーキには、"Call Me Now" の文字と電話番号のアイシングが。さらに、その番号へ電話してみると、なんと、ケーキそのものが鳴り出したのだ! ケーキの中を開けてみると、中からジョーカーとの連絡用の携帯電話が出てきたのであった。
- Why So Serious? での事例
- 音声波形の分析をしてみたら……
- Nine Inch Nails のヨーロッパツアーのポルトガル会場のトイレから USB メモリが見つかった。そこには、未リリースの新アルバムの楽曲の MP3 が入っており、曲の最後には謎のノイズ部分が……。スペクトログラム解析を行ったところ、天からさしのべられる手の画像が現れた。同じ日に会場で販売されたTシャツから辿り着いたサイトから、ディストピアの未来と向き合う ARG が始まる。
- Year Zero での事例
現実探索感 の楽しさ
ARG が、他のゲームと異なる大きなポイントは、ゲームの範囲が明示されていない、ということです。テレビゲームであれば、テレビの中で主人公が行ける場所は決まっています。鬼ごっこでは、通りすがりの郵便屋さんが実は鬼だった、なんてことは起こりません。一方、ARG では、事前の約束ごと(ルール)は一切ありません。あえて言えば、「現実のように考える」がルールです。ARG のプレイ中には、制約のない広大な日常空間を、情報を求めて探し回ることになりますが、そこには宝探しの持つ独特の楽しみがあります。これを、ここでは「現実探索感」と名付けてみます。探す範囲が広く、知恵を絞り、時には足で稼いで探し回るからこそ、見つかった時の喜びはひとしおです。
また、インターネット上での探索だったとしても、事前に与えられたルールがない状態で、現実世界のルールだけを頼りにあれこれ試しながら探索する感覚は、「現実探索感」と言ってもいいでしょう。
もっとも、本当に何も制約なしで現実世界にプレイヤーを放り出すと、皆呆然と立ち尽くしてしまうこと請け合いです。良くできたゲームでは、制約と自由度のバランスを巧みに取り、気持ちよく遊べるようにデザインしています。
- ゲーム内で消えた物品が現実世界に
- 『フォートナイト バトルロイヤル』のシーズン5開始を目前としたタイミングで、ゲーム内からハンバーガーショップの看板が時空の裂け目に飲み込まれて消えてしまう。その直後、アメリカの荒野に看板が出現。また、ゲーム内と同じ見た目のラマがヨーロッパ各地で発見された。
- フォートナイト バトルロイヤル での事例
- キーアイテムを現実世界で探し回る楽しさ
- 古の測距法 Omphalos Code が指す距離と方角に従い、地図上にラビリンスを描くと、その中心は東京、神楽坂だった! 神楽坂周辺の画廊を探索するプレイヤー達は、ついに、五大陸に散らばる5つのリングの一つを発見する! 第一発見者は一抱えもある金属製リングを自宅に持ち帰ることに。
- The Lost Ring での事例
- 神社に飾られた絵馬
- Project:;COLD case.613 での事例
代替現実感 の楽しさ
最後の魅力は、代替現実感です。ARG を ARG たらしめている根幹。ARG の魔力の全ての源。この物語は現実と地続きかもしれない、という気持ちの良い錯覚を、いかに丁寧に演出してくれているかがポイントです。現実と物語の線が曖昧になるあの不思議な感覚が、プレイヤーを強く惹きつけ、さまざまな無理難題に立ち向かわせる動機となり、コミュニティを盛り上げる原動力となるのです。
なお、ただ現実と紛らわしく事件を起こせばいいわけではありません。「気持ちのいい錯覚」が重要です。自分が犯罪に巻き込まれるかも、という不安が残るようなやり方は、多くの人を警戒させてしまいますので、要注意。
- 作中人物が現実空間からアイテムを盗み出す
- 3D小説「bell」 での事例
- 制作者インタビューすら作中
- ファミ通.comに掲載された『名探偵コナン カード探偵団』の記事では、ディレクターの安藤恵子氏がインタビューに答えている。しかし、物語が進んでいくと、この安藤氏がカード探偵団の企画を利用して、過去の未解決事件に光を当てようとした、という多重構造が明らかになっていく。つまり、この制作者インタビュー自体がゲーム内なのだった。
- 名探偵コナン カード探偵団 での事例
- あの映画のワンシーンが目の前に
- 北米最大のコミックイベント Comic-Con 2009 に合わせて開催された街中での探索イベント。参加者達が最後に辿り着いた場所は、オリジナルの TRON の劇中で出てきた FLYNN'S ARCADE そのものだった! なお、翌年の Comic-Con 2010 では、さらに FLYNN'S ARCADE の隠し扉から、TRON: Legacy の劇中で出てくる END OF LINE CLUB へと導かれた。
- FLYNN LIVES での事例