ワルター指揮コロンビア響によるマーラーの第9
作曲者 : MAHLER, Gustav 1860-1911 オーストリア
曲名  : 交響曲 第9番 ニ長調 (1908-09)
演奏者 : ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団
CD番号 : SONY Classical/SONY/SM2K 64 452

天下の名盤であるが、この後多くの名盤が生まれたのでどうも影が薄くなってしまった感がある。私のこの曲との出会いはバルビローリとベルリン・フィルのLPであったが、その次に聞いたのがこれだった。
はじめてこの演奏を聞いたとき、キビキビとしていて音楽のデティールを明確に演じるワルターの指揮の特徴がとても出ているように思った。
ちょっとショルティの演奏にも似てなくもないけれど、ワルターはマーラーのスコアにある細かな遠近感をとても大切に演奏しているので(ショルティがそうでないというわけではないが、重点がちょっと違う)立体感が際だっているように感じる。
第1楽章など素っ気ないほどあっさりとしたはじまりで、ドロドロとしたものを期待してはじめて聞いた時は思いっきり肩すかしを食らってしまった。しかし何度か聞いているうちに、ワルターはこの音楽を終楽章の告別の音楽へと一途に収斂していく長いスパンでとらえているのだ理解するようになった。そして次第にその解釈の深さの虜となっていったのである。
告別の歌を厳しく歌い上げる終楽章に向かってこの演奏は一つ一つのフレーズを丁寧に演奏している。音楽に溺れてさまよい歩くが如き演奏とは全く異なるのだ。

ワルターと言えばロマンチックで…という誤解があるようだが、指揮をする姿を映像で見ればわかるようにとてもキビキビと打点のはっきりした指揮をする。ここにもショルティと似たところがあるのだけれど、出てくる音楽は全く違う。これは良い悪いの話ではない。それぞれの巨匠の音楽に対するスタイルの違いなのだと思う。
1楽章後半でバイオリンのソロが悲しげなメロディーを歌い上げた後、フルートと低弦とホルンが絡む部分なんて、普通じゃ考えられない組み合わせなのだけれど、こんなに説得力のある演奏で聞くと、なるほどと妙に納得してしまう。マーラーのオーケストレーションの離れ業の一つなのだけれど、どうやって思いついたのだろう…。
ソリスティックな能力を要求する作品なのだが、さすがにハリウッドの腕利きたちは見事だ。これが臨時編成のオケだとはとても思えない。
第2楽章などオケの威力は凄まじいばかりで、これが1961年の録音とは二重の意味で信じられない思いである。それはワルターが晩年に至ってもまだこれほどのエネルギッシュな指揮が出来ていたことと、録音の素晴らしさである。
この復刻は極めて優れていて、私にはとても聞きやすかった。大切な音が他の伴奏部分でマスクされたりしておらず、土俗性に欠けない、力強いレントラー(田舎の踊り)を表現していると思うからだ。そしてテンポの大きな変化をこんなに自然にこなしている演奏も珍しいように思う。
第2楽章に関しては今もって私の第1位はこれだ…。
第3楽章はこの曲の中で最も激烈な楽章だろう。その劇性について言えば、決して不足があるわけではないが、今日では更に力強く輝かしく演奏している例はいくらでもあるので、ちょっとこの楽章については印象が少し弱いというか、聞いているこちらの耳が肥えてしまっているように思う。でもこれを初めて聞いた時はずいぶん興奮したもので、この後に終楽章の詠嘆があるのでその対比の激烈さにも足をとられてしまい、私はマーラーの深みにどっふりはまってしまったのだった。
終楽章はこの演奏の最大の聞かせどころである。こんなに悲しく、こんなに清浄な世界があるのだろうか?ワルターで聞くとその晩年に恩師でもあるマーラーの最後の交響曲(この曲は彼が初演している…)を最も良い状態で残したいという執念のようなものすら感じずにはいられない。
ゆっくりとしたテンポで歌い上げるのではなく、とてもよく流れるのがワルターの演奏の特徴だ。ベタベタとせずスコアを信じ、スコアに全てを語らせることが指揮者の役目だと信じているかのようである。バルビローリの演奏に親しんでいた後にこれを聞いて、ワルターの指揮の特徴を強く意識したのはこの終楽章、特に冒頭の数分であった。その後はこの演奏に夢中になったのでこれが私のスタンダードとなっている。
高弦と低弦の2声でのダイアローグにバイオリンのソロが絡むあたりから、また次第に声部が増えて明るさを増していくあたりの色彩の変化は、ワルターがホントはドビュッシーやラヴェルも得意にしていたのではと想像させるほどで、見事!!
言葉はこれほどの名演の前にこれ以上必要はない。頭を垂れて聞き入るのみである。

池辺晋一郎の「元禄繚乱」だけで今朝はやめようと思っていたのだが、ちょっと聞き始めたらやめられなくなり、結局最後まで聞いてしまった。今年はこの曲をアバドの指揮でルツェルンで聞くことになる。チケットはたった一日でソールド・アウトとなったようだ。海外の公演にしては珍しいことで、いかに注目されていたかわかる…。私は幸運だったとつくづく思う。不信心な私であるが、神の采配に心から感謝!!

写真はルツェルンのクンストハーレを駅を出たところから撮った一枚。ホールだけでなく博物館なども併設した総合施設でもある。
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by Schweizer_Musik | 2010-04-09 08:12 | CD試聴記
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