「面白くて眠れなくなる進化論」

omoshirokute_shinkaron_cov.jpg 長谷川英祐「面白くて眠れなくなる進化論」の感想。

この本は、一つの進化論に基づいて進化現象を解説する体裁ではない。もちろん、進化の一般論である自然選択は基軸になっているわけだけれど、本書の最後に「進化論も進化する」とあるように、今までの進化論そのものの歴史的発展について解説した本である。

一般に1つの理論が有力であっても、それで説明・理解できない現象が発見されれば、その理論は修正を余儀なくされるわけで、進化論という理論の発展でも、それが繰り返される。
というわけで、本書、特にPart Ⅰ、Ⅱは、進化論の進化と、それを余儀なくした生物現象が簡潔にまとめられていて(だから、どこかで聞いた・読んだ話が多いのだけど)、進化論をおさらいするのにはちょうど良く、簡潔にまとめられている。

そして「Part Ⅲ 進化論の未来」に、著者が探究していることなど、進化論の今の話題が入ってくる。

この著者の本については、前にもとりあげた。同じ著者による「働かないアリに意義がある」も、本書でそのエッセンスが解説されている。


この本で特に目新しいと思ったのは、適応度と時間と未来の進化論というあたりや、時間割引という考え方。
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「今日1000円もらうか、明日1010円もらうかという場合、今日の1000円を選ぶという人でも、100日後に1000円もらうか、101日後に1010円もらうかと聞いたときには、101日後の1010円を選ぶ人がいる」というような話である(数値例はうろ覚えで、この数値ではなかったかもしれない)。

長期的な将来については、不確かさが増すためか、合理的ではないと見える行動が行われるというわけだ。

生物での実験では、遠くの優秀なオスを選ぶか、近くの劣るオスで間に合わせるか、というものが行われて、近くの劣るオスで間に合わせるという生物が普通にいるらしいという。
実験の方法や状況がこれで良いのかどうか、ちょっと判断もつきかねるのだけれど、著者はこういう行動から、人間以外でも時間割引という行動があるとする。

進化論の立場からは、それが適応的行動であると説明されないと解ったことにはならないと思う。
この例では、距離とオスの優秀さの無差別曲線のようなものを想定して分析する方法がある一方、著者が指摘するリスク回避戦略という意義を考えるなら、それをあらたな理論に取り入れなければならないような気がする。

もちろんそうした研究もされているのだろうけれど、本書ではまだトピックス的に紹介する範囲に留まる。


また、目次でもわかるように、著者は一神教の西欧の学者のもののみかたと、我が国のような多神教文化圏でのそれの違いも意識している。というか、もともと近代的な科学は西欧で発達したものだと思うけれど(神の偉大さを証明するため)、それが神による天地創造を否定するような現象に出くわして、その折り合いをつけるのに苦労したという点を比べている。

米国共和党の大統領候補のクルーズ氏は、進化論を否定していて、学校で進化論を教えるなと言っているようだ。

これも結構昔から言わていることのように思う、というか、ダーウィンが攻撃されたのはキリスト教文化圏だからで、日本ではサルから人間が進化したといっても、そのことに抵抗し腹を立てるような人はあまりいないと思う(むしろ、ご先祖さまと言って拝むかもしれない)。

ところで本書書名の「面白くて眠れなくなる」は、シリーズのようだ。「~生物学」、「~数学」、「~物理」などの本が出ている。

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