[PEACEふらっしゅ]2018/04/29-1 2633号より
◇ 声明 原子力災害ハザードマップの作成を求めるとともに、
原発ゼロ・再生可能エネルギーによる全電力供給へ速やかな政策転換を求めます
2018年3月11日
昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志
有志氏名(順不同):今成啓子、大石茂郎、尾島 巌,奥山公平、栗原春樹、
桜木雅子、添田瑞夫、高井 誠、坂内悦子、山田耕一、山村剛士、吉田 隆
2011年3月11日の東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所(以下
「福島原発」)の重大事故から7年を経過し、健康被害も含めて、汚染・被曝等の被
害の甚大さと廃炉までの行程の困難さがかなり明白になってきました(注1)。
私たちは化学を学んだものとして、福島原発事故に関心を持ち、2012年以来毎
年3月11日を期して、原発事故の危険性を周知し、減災のための原子力災害ハザー
ドマップ作成を求め、また原発再稼動に反対し再稼働された原発の停止を求める趣旨
の声明を発し続けてきました(注2)。しかし、原発稼働実質ゼロの状態が全国的に
定着して久しいにもかかわらず、政府と電力業界は、エネルギー基本計画、地球温暖
化対策計画などの名のもと「安全性の確認された原子力発電の活用」を旗印に(注
3)、原発再稼動を押し進めています。現在、再稼働した原発は、関西電力、四国電
力、九州電力の5基に上っています(注4)。また驚いたことに、原子力安全委員会
は昨年12月、事故をおこした福島原発と同型の東京電力の柏崎刈羽原発6,7号機
を安全審査合格と決定しました。私たちはこれらの状況を鑑み、今年もここに声明を
発表します。
■1.私たちは、原子力規制委員会の安全評価などに大きな疑問を抱いています
原子力規制委員会は「新規制基準」(注5)について「これを満たすことによって
絶対的な安全性が確保できるわけではありません」とみずから認めています。また、
原子力規制委員会が一昨年定めた「原子力災害対策指針」(注6)には福島原発事故
時の放射性物質到達範囲の実態が反映されていないだけでなく、事故時に混乱のあっ
た避難の手立てなども十分ではありません。
■2.私たちは、改めて、原子力災害ハザードマップを作成し、避難指示範囲を適正
に設定することを求めます
福島原発事故の経験は、わが国だけでなく人類全体にとっても極めて貴重なもので
す。我々日本人にはこの経験を科学的に記録に残しておく義務があると思います。福
島原発事故の結果を科学的に解明し開示することは、わが国の世界への貢献であり、
また責任です。
強い放射線を出し甲状腺がんの原因となるヨウ素131の、事故当時の飛散状況を
知ることは健康被害調査のため重要です。しかしその半減期が8日と短いため、これ
まで正確にはわかっていませんでした。最近、原発事故由来で半減期が長い(157
0万年)ヨウ素129を高感度で分析することにより、ヨウ素131の事故当時の降
下量を復元し汚染マップを再現する新しい手法が開発されました(注7)。福島県が
実施している甲状腺検査(注8)と、再現された汚染マップとを組み合わせれば、健
康被害がより正確に疫学的解明されることになるでしょう。
この汚染マップに加え、さらに改良された緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク
システム(SPEEDI)などを活用することによって、将来起こりうる原発事故で
の放射性物質汚染を、具体的に知ることが可能になります。私たちは地域住民に判り
やすい形のハザードマップ(予想汚染マップ)として公表すること、またそれに基づ
いて避難指示範囲と避難方法を科学的に見直すよう求めます。現在運転を停止してい
る原発にも大量の核燃料(使用済を含む)が保管されていることを考えれば、ハザー
ドマップや適正な避難準備計画を、現存するすべての原発について策定することが必
要です。
■3.私たちは原発の再稼働に反対し、稼動中のすべての原発の停止を求めます
一昨年の声明(注2)で指摘したように、また国際原子力機関が「福島第一原子力
発電所事故─事務局長報告書」(注9) で指摘したように、日本は地震・火山爆発
等の自然災害が多く、また国土も狭い等、放射性物質汚染に弱く、原発を運用するに
は世界一危険な地理的条件下にあり、「新規制基準に合格」という評価のみを根拠に
再稼動を進めることには同意できません。福島原発事故では、広い地域が放射性物質
で汚染され、甲状腺の病変が議論され、未だに廃炉や汚染除去の技術的・資金的見通
しが立たない状況にあります。原発事故が極めて厳しい影響をもたらすことは明白で
す。
私ちは、原発再稼動に反対します。ことに第2項に述べたような減災への努力を
することなく再稼働されている原発を直ちに停止するよう求めます。
■4.原子力発電を除外したエネルギーミックスへの政策転換を求めます
「第4次エネルギー基本計画」(注10)では、「原発依存度は可能な限り低減」
するものの「2030年度20-22%」の電源構成をめざし、「安全最優先の再稼
働」をすることを「エネルギーミックスの方針」としています。「再稼働のメリッ
ト」としては「電気料金の引き下げ」、「エネルギー安全保障への貢献」、「CO2
の削減」を掲げています(注11)。しかし、再生可能エネルギー、特に太陽光発電
・風力発電は急速にコストが下がり(注12,13)、エネルギー安全保障、CO2
削減にも貢献するため、上記の「再稼働のメリット」はもはやありません。地球環境
問題に係るCO2排出量についても、2015年度から2030年度に向け、電力、
業務・家庭部門、運輸部門は25~30%程度削減するが、産業部門では3%程度の
増加を許しています(注11)。しかし、これは産業部門のCO2排出量の削減、省
エネなどにより解決するべきで、原発再稼働の理由にはなりません。
資源エネルギー庁「エネルギー白書2017」の第2部第2章第2節(注14)に
掲載されたデータ(第222-2-1)、(第222-2-11)、(第222-2
-12)によれば、全世界の発電設備量で風力発電が原子力をぬき、太陽光とあわせ
ると原子力の約1.5倍に達しました。我が国の再生可能エネルギーも現行の保護・
規制に適切な見直しをするならば発電コストも下がり、一層普及するでしょう。私た
ちは、原発に依存しないエネルギーミックスへの転換と省エネルギー推進に伴う技術
開発は、日本経済を支え、地域振興を支える柱の一つになると考えます。早急な政策
転換を求めます。
■5.原自連提案の「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」に賛成します
今年1月10日「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟(原自連)」は、記者会見
で、「全ての原子力発電の廃止及び自然エネルギーへの全面転換の促進に関する基本
法案」の骨子を発表しました(注15)。その内容に私たちは全面的に賛成します。
このような法案が国会議員の超党派の賛成で一日も早く成立することを願います。こ
の基本法案に書かれているように、「原子力が低コストで安定的という考え」(注
10)を根本的に見直し、競争原理を導入し産業を活性化すれば、全電力を再生可能
エネルギーによって供給することが可能になります。「エネルギー白書2017」
に記載されているデータ(注14)を見れば、これは世界の趨勢であることは明らか
です。
(注1)
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/touden_1f/pdf/161220_teigen.pdf
「東電改革提言」 (平成28年12月20日東京電力改革・1F問題委員会)
(注2)
http://www.asahi-net.or.jp/~xy3t-ysd/jiji.html;(注3)
http://www.env.go.jp/press/files/jp/102816.pdf「地球温暖化対策計画」
(平成28年5月13日閣議決定)
(注4)
http://www.genanshin.jp/facility/map/ (原子力安全推進協会)
(注5)
https://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html (原子力規制委員会)
(注6)
https://www.nsr.go.jp/data/000024441.pdf 「原子力災害対策指針」(原子力規制委員会))
(注 7)
http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2015/201505wadai.pdf(注8)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/143676.pdf (福島県)
(注9)
http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/10962/The-Fukushima-Daiichi-Accident (IAEA報告文書)
(注10)
http://www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001-1.pdf (経済産業省)
(注11)
http://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/023/pdf/023_005.pdf (資源エネルギー庁)
(注12)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4072/(注13)
https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/WEO_2017_Executive_Summary_Japanese_version.pdf (国際エネルギー機関(IEA))
(注14)
http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2017html/2-2-2.html (資源エネルギー庁)
(注15)
http://genjiren.com/