杉野です。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180330-00165153-diamond-bus_all&p=3 以下、部分です。
● 「原発再稼働」でも 首相側近が官邸を仕切る
こうした「崩壊」現象が顕著になったのは、福島原発事故の処理から始まっているように思える。
3月17日付の朝日新聞によれば、福島原発事故が起き、1~4号機が次々に水素爆発を起こしていた2011年3月12日~15日に、松永和夫経産事務次官(当時)は寺坂信昭保安院長に「再稼働を考えるのが保安院の仕事だ」と言い放ったという。
新潟県と東京電力ホールディングスとの合同検証委員会によれば、清水正孝東京電力社長(当時)が、事故を過小に見せるために、炉心溶融(メルトダウン)という言葉を使わないように社内に指示していたとされる。
未曽有の原発事故という危機の状況で、情報の混乱や情報の開示自体が新たな不測の事態を招きかねないリスクを考えざるを得なかった面があったことは確かだ。
だがこれ以降、情報を隠蔽し、内々で物事を進めるやり方に抵抗が薄れ、一部の首相側近が情報を管理し、さらには情報を統治に都合よく使って、ということがひどくなった。
「原発再稼働」でも、今井尚哉政務秘書官を筆頭に、経産省(資源エネルギー庁)や電力会社などの「原子力ムラ」の面々が、公安警察出身の長田和博官房副長官と戦前の特高警察を礼賛する論文(「外事警察史素描」(『講座警察法』第三巻)を書いた北村滋内閣情報官らと連携して、政権を動かしている。
ちなみに、今井政務秘書官は、昭恵首相夫人付き政府職員で、財務省の田村国有財産審理室長に、森友学園の土地取引について「問い合わせ」をするファックスを送った谷査恵子氏の上司にあたる。
国民に対しても、前言を翻し「嘘」をつくようなことも起きている。
自民党が政権を奪回した2012年12月の総選挙では、安倍自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を掲げていた。
ところが、第2次安倍内閣は発足早々、政府と国会の事故調査委員会の報告書を無視し、フォローアップする有識者会議も設けずに福島原発事故の原因究明を放り投げ、十分な避難計画も整備しないまま原発再稼働へ動いてきた。
そして、2013年9月7日、東京オリンピック・パラリンピックを誘致するために出席したIOC総会では、安倍首相は、福島原発の状況を「アンダーコントロール」と述べ、公然と嘘をついた。
その後も、政府のエネルギー計画策定で、原発を「ベースロード電源」とし、全電源に占める原発の比率を「20~22%」と、「脱原発」の流れを逆戻りさせ、再稼働に邁進していく。
2016年12月9日に、経産省「東京電力改革・1F問題委員会」は福島第1原発の事故処理費用が11兆円から約22兆に倍増したと発表。東電幹部の経営責任や監督責任を問わないまま、処理費用のうち2兆円を税金でまかない、7~8兆円を託送料金に乗せる方針を出したのである。
● 長年の友人や近い関係者を“優遇” 異論や批判は封じ込める
森友問題をはじめとした様々な疑惑や国民を欺くような背信行為を生み出した背後にあるのは、安倍政権の時代錯誤的なクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)にある。
縁故資本主義とは、民主主義的チェックが働かず、権力者周辺に利益がばらまかれる経済体制をさす。
「アベ友」と呼ばれる一部の親しい関係にある人や逆らわない人に利益を誘導する一方で、異論や批判を力で封じ込めてしまうやり方だ。
このことが典型的に現れているのが金融政策だろう。
まず、日銀の政策委員の多くを「リフレ派(インフレターゲット派)」で固めることによって、「2年で」としていた2%の物価上昇目標実現時期が6回の延期を余儀なくされても、「政策的失敗」に対する根本的な批判を封じ込めてしまった。
その結果、いまや日銀の金融緩和政策は出口のないネズミ講のようになっている。
日銀が金融緩和を止めたとたん、株価が暴落し、金利が上昇して国債価格が下落して日銀を含む金融機関が大量の損失を抱え込んでしまう状況だ。
産業政策もおかしな事例が続出している。
新しい生命科学(ニューライフサイエンス)分野で、国家戦略特区の事業者に指定されたのは、鳥インフルエンザの研究実績のある京都産業大学を押しのけて、加計学園獣医学部だった。
加計学園は高齢化した教員構成や設備の不備も指摘されていたが、モデル事業者として選ばれた。
コンピュータ開発では、ペジー・コンピューティング社による補助金の不正受給、詐欺事件が起きた。
スパコンにかかわって成立した国際特許がなく、高度な科学計算論文もなく、実用性がなく民間納入はない、ただベンチマークとなるコンピュータ速度だけを上げるスパコンに100億円近くの資金が注ぎ込まれてきた。
とくに科学技術振興機構(JST)は2週間緊急募集でまともな審査を行ったかも疑わしく、しかも9割返還の必要のない52億円の融資を垂れ流した。
社長の斉藤元章は自ら役員に収まっていくつも会社を作るという手法を使っていた。そして同社への助成金支給を媒介したのは、「準レイプ疑惑」の元TBS記者だと言われているが、この人物も、『総理』という著作で知られ、安倍首相と近い関係が指摘されている。
原発でも、アメリカで相次ぐ原発の建設中止・中断によって東芝が経営危機に陥っているにもかかわらず、政府は、総額3兆円という日立のイギリスへの原発輸出プロジェクトを推進するために、政府系金融機関を使って出資させ、メガバンクの融資についても政府保証をする方針を出している。
福島原発の事故処理・賠償費用を国民負担させている東京電力にも出資させる計画だ。
原発はいまや採算がとりにくくリスクが高い事業で、へたをすれば事業の失敗は国民の税金で後始末を余儀なくされる可能性が高い。
この時代錯誤的な原発輸出を担う日立会長の中西宏明氏も安倍首相と近い関係にあり、しばしば会食する間柄だ。
大手建設会社4社の談合が表面化し逮捕者も出たリニア新幹線の場合も、JR東海の葛西敬之名誉会長が安倍首相の長年の友人として知られている。
安倍首相と友人関係にある人物らが担う事業に多額の国家資金が注ぎ込まれている構図だ。
すでに、日本の産業競争力は衰弱の道をたどっている。
この“縁故資本主義”は、競争力を失った遅れた産業に巨額の資金を注ぎ込んで旧体制を支える一方で、新しい先端産業分野では不正・腐敗行為をもたらしている。
だが公正なルールを失ったところに健全な競争はなく、やがて国際競争力を一層失わせていくことになるだろう。
「一強政治の弊害」は日本経済までも蝕む事態になっている。
(立教大特任教授・慶応大名誉教授 金子 勝)