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2020/12/03

発信者情報開示請求に関する改正のPublic Comment

発信者情報開示請求に関する研究会の最終取りまとめが公開され、これに対するパブリックコメントが12月4日締め切りで募集されていたので、今日の午後を費やして書いてみた。

なお、対象となる最終とりまとめは、こちらにある。

ファイルも貼っておこう。

ダウンロード - e69c80e7b582e381a8e3828ae381bee381a8e38281e6a188.pdf

 

<要旨>
Justicestatut_20201203193301  現在の二段階・三段階の裁判手続は被害者にもプロバイダにも不相当な負担となっており、一刻も早く是正する必要がある。 発信者情報の範囲は、省令で決めるにしても、限定列挙ではなく例示とすべきである。基本的に発信者の特定につながるものはすべて開示対象とする必要がある。
 またログイン時情報も発信者の特定に資する情報として当然開示対象とすべきである。開示された情報が示す者が真の発信者かどうかは本案裁判で明らかにすることであって、裁判提起段階で確定する必要はない。
 新たな裁判手続の創設は基本的に賛成だが、まだ厳密さを欠いた内容にとどまっている。現在の開示請求権に「加えて」非訟手続を創設するとある割には、非訟手続と訴訟手続は同一の権利実現の手続で、並行しては行使できないものとなりそうだが、それ以外の制度も考えられる。
 提案されたフローには、まずCPにAPを特定できる情報を開示する命令が欠けているが、それではAPに裁判所が開示命令を出せないことになるので、APの情報を開示させる必要がある。それを被害者に秘密にする必要はない。むしろ、被害者と裁判所の調査官ないし専門委員がCPとともにAPを特定する作業をする必要もある。なお、CPへの命令を強制する手段が必要である。
 発信者の手続保障は、現行法の意見照会を非訟手続では裁判所がAPに命じることにし、発信者の書面提出や意見陳述も発信者の責任において認めるべきである。なお被害者に立ち会わせない発信者の意見陳述も非訟では認められてよい。
 開示要件は、CPへの開示命令は申立てだけで出せるようにすべきだし、APへの開示命令も被害者が本来の発信者に対する訴訟で要求される以上の要件事実を主張立証しなければならないというのは背理であり、権利侵害の「明白性」は緩和すべきである。
 海外事業者への法執行や複数CP・APの関与の場合の仕組みなども検討した上で立法されることを望む。

意見全文
<第1章 発信者情報開示に関する検討の背景及び基本的な考え方について>
1.検討の背景等
・立法時には電子掲示板サービスが想定されていた(第2段落)
 立法時にはアクセスプロバイダ(経由プロバイダ)が開示請求の相手方として想定されていなかった点を踏まえる必要がある。アクセスプロバイダへの請求が認められるようになったのは長期に渡る下級審判例の積み重ねを踏まえ、最高裁判決によるものであった。
 つまり立法当初は発信者への訴えの前に二段階の裁判手続が必要とは想定していない状態で立法したものであり、本来はもっと迅速な手続として立法されたはずのものである。
 二段階の裁判手続が必要な現状は、一刻も早く是正する必要がある。

2.発信者情報開示の概要
2-⑴プロバイダ責任制限法における発信者情報開示制度の概要
 開示対象の範囲を症例に委ねたのは技術進歩に後れることなく迅速に必要な対象を追加するためであるが、発信者の電話番号を追加する過程を見ると、省令に委ねても適時の追加が可能ではないという状況が露呈している。
 省令改訂の仕組みを再検討する必要がある。

2-⑵発信者情報開示の実務の現状
・コンテンツプロバイダに対する仮処分申請(4頁1段落目)
 仮処分に際して担保金が必要であり、その返還を求めるためにコンテンツプロバイダにも本訴を提起する例が多く見られるようであり、開示請求者はその点でも負担を強いられていることを見落とすべきではない。

2-⑶現状の発信者情報開示の実務における課題
 IPアドレスからアクセスプロバイダでの発信者情報開示が技術的に困難ないし不可能な場面は、もっときちんと調査して明確にすべきである。発信者情報開示制度の限界を意味するので。

<第2章 発信者情報の開示対象の拡大>
1.概要
・省令によることの趣旨を記載した逐条解説について
 上記第1章2(1)に記したように、省令の適時の改正が現実には行われておらず、限定列挙方式を改めるか、少なくとも事件ごとの拡張解釈の許容性を認めるべき。

2.ログイン時情報
2-⑴発信者の同一性
・権利侵害投稿とログインとが同一の発信者によるものである場合に限り開示できるとする点について
 発信者情報開示請求は、請求者が発信者に対する責任追及の法的手段(訴訟)を起こすことを可能にすることを目的としており、裁判を受ける権利の行使を可能にするための被告特定を可能にするものであるが、その被告が権利侵害投稿の発信者であるかどうかは、それによって可能となる訴訟の中で、本案の問題として決せられるべきものであり、被告特定の段階で被告が侵害者であることを要求するのは理論的に矛盾している。
それに発信者情報開示請求権はプロバイダに対する権利なので、発信者に対する損害賠償請求権の存在を前提にする必然性はなく、蓋然性で足りることになる。
 なお、発信者ではない者の情報が開示されて法的責任が追及されても、その者が侵害情報を発信したわけではないのであれば、その情報発信に対する萎縮効果にはつながらないはずである。

2-⑵開示の対象とすべきログイン時情報の範囲
ア 補充性要件
 ログイン時の情報は侵害情報投稿時の情報で発信者が特定されない場合に必要となるという意味では、補充的なものだが、補充性を要件とすると、例えば侵害情報投稿時の情報を請求し、それでは権利行使ができなかったときにログイン時の情報を開示できるという事になりかねない。それでは二度手間が三度手間になるおそれもある。つまり、補充性要件が不奏効要件とならないようにしていただきたい。
 加えて、なお書きの部分から侵害情報投稿時のログがないことを被害者側に立証させる前提がうかがわれるが、ログを保有していないことはブロバイダ側に証明責任を負わせてよいのではないか。

イ 権利侵害投稿との関連性
  厳密な同一性を求める必要がないとはいっても、権利侵害情報の発信者である蓋然性は必要である。もっともイの部分で制限すべきといっている要素は、おしなべて、発信者との蓋然性がある情報でも制限しようとするものとなっており、発信者の特定に必要な情報まで開示対象外にするおそれがある。10頁第一段落にある「一定の関連性」として要求されるものは、ログインされたIDで権利侵害情報が投稿されたことに尽きるのではないか。もちろん反証の余地はあるが。


第1章2(1)への意見に記載したように、省令で限定列挙する建前が裁判を受ける権利の不当な制約につながってきたのがこれまでの歴史であり、またログイン時情報に見られるように、結局は裁判で例外を認める余地もあった。省令での限定列挙という発想を転換し、例示列挙とすべきである。

<第3章 新たな裁判手続の創設及び特定の通信ログの早期保全>
1.非訟手続の創設の利点と課題の整理
・利点①〜⑤
 非訟事件として家事事件手続をモデルに考えるのであれば、調査官ないし調停官に相当する立場を設け、開示請求者が求める発信者の特定を職権で調査する仕組みが必要である。なお19頁ウエも参照。
・問題点①
 発信者の保護については、本来発信者自身が当事者となった訴訟において十分な手続保障が与えられることで足りるが、現在の発信者情報開示請求訴訟での発信者の手続保障より非訟手続の方が弱くなるという根拠はない。
・問題点②
 同一趣旨の申立てを繰り返す場合に、発信者が特定できない場合は何度でもチャレンジできるようにすべきだが、取り下げと申立てを繰り返す場合は濫用的として却下することを明示すればよい。
・問題点③
 非訟手続だからといって原則的に非公開とすることは、論理必然的ではない。

2.実体法上の開示請求権と非訟手続の関係について
 手続全体の設計に関わる重要なポイントである。請求権に加えて非訟事件の可能性を設けるということの意味が、本来訴訟で決するべき請求権の存否を簡易迅速な代替手続で決定するものという意味に理解され、非訟手続の決定も開示請求権の有無について行われるものとされているようであるが、そうだとすると、一方で開示請求訴訟を提起しながら他方で非訟手続を続けるということは二重起訴になる可能性があるのでできないと解すべきか。この点では消費者裁判手続特例法の集団的消費者被害回復裁判手続と消費者個人の請求訴訟との関係規律が参考になるほか、手形訴訟と原因債権の訴訟との関係規律などを考えると、シングルトラック、すなわち非訟手続とこれに対する異議訴訟のみを認め、それと同時並行で現在の発信者情報開示請求訴訟を提起することはできないと解すべきか。「加えて」という文言からそうは理解されていない向きも多数あるようなので、その点は留意されたい。
 なお、「加えて」という文言から素直に受け取る制度は、現行の仮処分・本訴という手続とは別個独立に、発信者情報開示非訟手続を起こせること、その際の決定の対象は現在の実体法上の請求権ではなく、一種の行政的な命令となり、そのエンフォースメントは行政罰や刑事罰、あるいは民事執行力付与も考えられる。参考となるものとしては、DV保護命令が、人格権に基づく差止請求権とは別に設けられている例である。あるいは、子の引渡しに関する人身保護請求と家事審判または仮処分+民事訴訟とが併存していることも、参考となりうる。

3.新たな裁判手続(非訟手続)について
3-⑴裁判所による命令の創設(ログの保存に関する取扱いを含む)
(1)17頁〜18頁
 開示申立て→提供命令→消去禁止命令→開示命令というフローについて、まず非訟手続で律儀な処分権主義を維持する必要はないので、被害者の開示申立てがあれば、裁判所が職権で提供命令をだし、またAPの特定情報が裁判所に分かれば職権で消去禁止命令を出すとともに、CPとAPに対する開示命令を出すということでよく、提供命令・消去禁止命令の申立ては不要である。
 加えて、このフローではAPを特定する情報をCPが裁判所に伝えるプロセスが欠けているが、それでは消去禁止命令も開示命令も出せない。
 さらに、CPの保有していてAPに提供する発信者情報および提供先のAPの氏名住所を被害者に秘密にしたままにするとされている(②)が、その必要はないし、次のアでCPがAPを特定できないと言う場合に被害者が関与できないのは不当であるし、二度手間的な二段階プロセスを残すという話になってしまっている。
 この3点は改善が必要である。

・18頁ア
 CPがAPを特定できない場合にCPのみに開示命令を出して、改めてAPへの開示命令申立てを求めるとあるが、これは二度手間であり、もともとAPしか特定できない情報であれば発信者のプライバシーへの侵害度合いは低いので、APを特定する情報は被害者にも開示し、AP特定作業に被害者も初めから関与させるべきである。

・19頁イ
報告書の案では、CPに対する提供命令にも一定程度緩和された要件があるとのこと(21頁オ)だが、CPが提供命令にも開示命令にも応じない場合は考えられる。その場合、非訟手続は終わってしまって、あとは本訴で争うことになるのか? CPに対する提供命令・開示命令は中間的な命令ではあるが、それに対する不服申立て手段やサンクションが必要である。

・19頁ウ・20頁エ
 APの特定作業をCPとするというが、CPにはそのインセンティブが現状ではないので、任意の履行は期待できない。被害者に秘密にしたままにするという制度設計がそもそもおかしいし、AP特定のためだけの情報であればその必要もない。
 非訟手続であるから本来はAPの特定に裁判所が職権で関わってもよい。そのためには、現行法の調査官・調停官・専門委員などの仕組みを参考に、調査担当者の制度を設けるべきで、報告書は新しい制度をつくるは大変だと述べているが、新たな裁判手続を構想することに比べたら些末な点に過ぎない。
 20頁エで述べられていることは、国内プロバイダには当てはまっても、海外のCPには妥当しないので、やはり裁判所と被害者とが捜索の責任と権限を有するべきである。

・21頁オ
 発信者の身元を明らかにする要件ではないのであるから、通信の秘密の一部を構成するとの前提から当然のように要件が必要というのは思考停止である。特に非訟手続の中では、申し立てがあれば無条件でAP特定のための情報開示と、APへの消去禁止命令が発令されて良い。このように解しても、倒産手続における発令前の保全処分よりも悪影響は少ないであろう。

3-⑶発信者の権利利益の保護
・22頁ア
 まず前提として、発信者に意見照会ができるのは、APだけで、発信者の身元情報を直接知り得ないCPは意見照会はできない。その点は明確にして、CPに対する開示命令・提供命令は意見照会を必要とせずに出されることを明示すべきである。
 もっとも、直接知り得ない場合でも、メールアドレスがあったりSNSでの連絡は付けられるといった場合には、なお意見照会をした方が発信者の手続保障には寄与するであろう。こうした場合により可能な意見照会は、可能な限りで必要的とすべきである。

・23頁②について
 現行法は、裁判外の開示請求も含めて、開示するにはまず発信者の意見照会をすべきとしているのであり、裁判上の開示請求においていつの段階で意見照会すべきかは規定していない。まして非訟手続で意見照会は義務的としても、その時期は、23頁で書かれているような「裁判所が開示要件を満たすとの心証を得た段階で裁判所がプロバイダに意見聴取」を求めるということも可能であり、嘱託ではなく義務的な命令ないし指示とすれば、意見照会義務を廃止したことにもならない。また、このような仕組みなら、24頁の「他方で」に記載されているような、プロバイダに自分で照会の要否を判断しなければならないことにもならない。

・24頁③について
 発信者が書面を提出する方法は、発信者が身元を特定されない情報に限りで主張を述べるのであればよく、二部用意する必要もない。匿名版と顕名版とを用意して裁判所には顕名版を、被害者には匿名版をというやり方こそ一方当事者の吟味できない証拠を用いる点で望ましくないし、不服申立て後の訴訟でもそれが維持できるのかは疑問である。発信者が身元特定を恐れて匿名でも主張を書けないという事案であれば、そもそも発信者の意見を取り入れることは無理である。
 発信者の事情聴取については、家事事件手続法65条により子の意思の把握を裁判所や調査官に行わせる方法が参考となりうる。あるいは、民事訴訟法上のインカメラ手続もあり、両当事者に直接立ち会わせない聴取が「他に例のない制度」(25頁)というのは言いすぎである。もともと非訟手続であって訴訟手続の保障が別にあることから、柔軟な手続構造が構想可能で、証拠調べも「自由な証明」であることを忘れるべきではない。

・26頁イ
 発信者の異議申立てへの関与は、認めるのであれば一種の匿名参加となるが、それが困難であれば、プロバイダに異議申立てを義務付ける必要はない。発信者の利益保護をよく考えろとプロバイダに釘を刺すと、現在の任意開示が殆ど行われないのと同様に、異議申立てがほぼ必ず行われる結果を招く。あくまで、プロバイダが主体的に判断できるようにすべきである。

3-⑷開示要件
 「権利侵害の明白性」は、蓋然性で足りるものとすべきである。より正確に言うなら、被害者が発信者に対して法的手段を用いる場面で要求される主張立証責任の範囲を超えて、主張・立証を要求されることはないように、要件の文言を工夫すべきである。
 発信者情報の開示請求の段階では、発信者が関与していないのであるから、その手続で発信者に法的責任があるかどうかを終局的に決定することはできないし、判決の効力面でも「権利侵害の明白性」が認められたとしてもその点に効力は生じない。他方、被害者は、発信者の身元が不明であることからその法的紛争を裁判によって解決する機会を阻まれており、本制度はそのような裁判を受ける権利が損なわれている状態を是正するものであって、その段階で本来の裁判で要求される以上の主張立証を要求されるのは、背理である。
 なお、この点は、非訟事件とする場合に限らず、現在の請求権についてもいえることであり、ただ簡易迅速な開示を実現するためには一層妥当するというものなので、非訟手続創設を機会に再検討を願いたい。

3-⑸手続の濫用の防止
 発信者に対する嫌がらせなどの禁止については、例えば内部告発を匿名で行ったような場合に開示された発信者情報を利用して報復に出ることなども禁止されるべきである。
 他方で、同一の発信者により多数人が権利侵害を受けているような事例で、被害者が、あるいは代理人弁護士が、ある一人の被害者のために開示された発信者情報を他の被害者の権利行使にも利用したり共有したりすることは認められるべきである。
 こうした具体的な事例を念頭に、規定の改正を検討されたい。

3-⑹海外事業者への対応
 海外のCPに対して命令を出すことが事実上の協力を引き出すのに有用である限りは良いと思われるが、非協力的なCPに対しては、本来の訴訟手続によらざるを得ない。

4.まとめ
 新たな裁判手続として非訟手続を考えるに際して、同一の発信者から複数のCPを経て権利侵害がされた場合に、併合して提起できるのか、ログイン情報なども開示対象とするのであれば複数のAPが発信者情報を保有していることが考えられるが、その場合の手続をどうするのか、裁判所は複数のAPに対して開示命令を出せるのか、などの諸点も検討された上で立法されることを望む。

<第4章 裁判外(任意)開示の促進>
 現在の任意開示の仕組みが、名誉毀損・プライバシー侵害のみならず著作権侵害についても期待通りには進んでいないことは明らかであり、その原因は「権利侵害の明白性」要件の重さにあるし、開示した場合の免責がないことも重大な欠陥である。
 なお、第三者機関による開示の可否を判断する仕組みは、単に相談機関とするのみならず、裁判外紛争解決機関として設けることが考えられ、そのための条件整備を立法すべきである。

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