LSAT:法科大学院適性試験は有用か?
司法試験受験に法科大学院修了が必須となり、その法科大学院は多様性・公平性の理念のもと、法律を含む特定の専攻によって有利不利がでないような学力試験で選抜するということがマストとなった。そこで考案されたのが、法科大学院適性試験である。
ところが、この試験はすこぶる評判が悪い。
その主な理由は、法科大学院での勉強と関係ない、法科大学院の成績と相関性がない、司法試験合格との関係もないなどと言われている。
しかし、中教審の法科大学院特別委員会に提出された資料を見ると、これらの批判は根拠がなく、感覚的なものにすぎないようである。
→法曹養成制度検討会議第5回(平成24年12月18日開催)【資料1】事務局提出資料 [PDF]
資料3-2 適性試験スコアと法科大学院成績・司法試験合否との関連(19頁)参照
これによれば、まず適性試験成績とロースクールの一年次の必修科目の成績とは相関関係があり、未修者の場合に特に高い相関性が見られる。つまり、適性試験の成績が良い入学生は、一年次の成績もまた良いということになる。
司法試験合格と適性試験成績との関係も極めて顕著である。
司法試験合格者の適性試験成績を偏差値にした数値は、概ね55から60までのレンジにあるのに対し、それ以外の者の適性試験成績偏差値は50を下回っている。
さらに、司法試験を1年目で合格するか、2年目か、3年目かという合格時期ごとに適性試験成績の偏差値を比較してみると、2004年適性試験受験者(つまりロー1期生)と2005年適性試験受験者については1年目より2年目の合格者の適性試験成績の方が高いが、3年目、4年目の合格者は適性試験成績が低くなる。
2006年と2007年の適性試験受験者については、1年目合格者の適性試験成績が最も高くなっている。
このように、適性試験成績が良い者は、ロースクールの成績も良く、司法試験合格にもつながっているということが一応言えそうである。もちろん適性試験成績が悪いからといって司法試験合格ができないということではないので、誤解なきよう。
ところで、この統計は、各大学独自で入試成績と学内の成績とが相関していないという主張と矛盾する。しばしば、そのように言われるわけで、どうなってるのか、適性試験の運営側が出している資料はおかしいのではないかという批判につながっている。
しかし、各大学が入学者に限って適性試験成績の分布と入学後の成績分布との相関性を調査しても、そこにはいわゆる選抜効果というバイアスがかかり、相関性を判断できないという問題がある。
このことを如実に示すのが、上記資料の22頁に掲載されているデータだ。
そこには、医学部入学者のセンター試験成績と入学後の学業成績との相関性の結果がでているのだが、数学や理科の入試成績と学業成績とでは、なんと負の相関を示している。
選抜効果によるバイアスを修正することなく、学内のデータのみで相関性があるとかないとか議論しているのは、全く根拠を欠いているということなのだ。
ただし、適性試験が法科大学院の入試として最善だというつもりはない。勉強する能力を図るテストとしては十分機能しているが、やはり法科大学院の課程で法律学・法律実務の勉強をして能力を高めるには、法律知識がある程度習得されていることが必要だ。そのことを選抜要素に加える必要がどうしてもある。
未修者コースを残すかどうかにも関わるが、少なくとも未修者コースから進級するに当たって、法科大学院の既修者試験を課して、既修者として入学する受験生と同一条件で選抜するとか、あるいは予備試験の短答式試験程度のバーを二年次進級に課すとか、法律の知識を試すテストが入試段階でもあって良いし、そうあるべきであろう。
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