jugement:競売で買った土地が、実は存在しない土地だったという話
非常に奇妙な話だが、裁判所の競売で土地を買い、所有権移転登記も済ませたところ、その土地が別の土地と重複していて、存在しない土地であったというのである。
そのことを看過して現況調査を行い、また評価を行ったことに過失があるとして国家賠償を求めた事件に判決が下された。
福岡地判平成24年6月19日(判決全文PDF)
判決文を読んでも事実関係が必ずしも明らかではないが、土地甲と土地乙とが隣接していて、甲地はJ、K、Fの所有名義であったところ、乙地所有者であるIが土地甲の一部について自己の所有に属する(乙地の一部だと主張したらしい)ことの確認を求める訴えを、J、K、Fに対して提起し、勝訴確定判決を得ていた。
その後、経緯は不明ながら、甲地は担保権実行のための競売に付され、A社代表取締役Xが73万円で競落し、所有権移転登記を得た。
そして、乙地はA社が別のN社から購入しており、上記のIとNとの関係は不明ながらも、ともかくA社が乙地、A社代表取締役Xが甲地の所有者となった。
ところが、Xは甲地が乙地と重複していて、甲地は存在しない土地だったとし、甲地の不動産登記簿の表題部登記を抹消するよう法務局に申し立て、法務局が表題部登記を抹消した。
これに基づきXが現況調査を行った執行官の過失等を原因とする国家賠償を求めたのが本件訴訟である。
Xの主張は、乙地と重複して存在しない土地である甲地を、よく調べないで存在するものとして競売に付したことに過失があるということだが、国側は、Iの所有権確認確定判決を入手し、乙地およびIが所有権を認められた土地の範囲を可能な限り調べ、甲地のうちF所有部分の全部とJ・K所有部分の一部、全部で81%はI所有に属すると推定し、これに基づいて評価額も低廉に抑えていたのであるから、可能な限りの調査は尽くしており過失はないと主張した。
そもそも甲地と乙地とが全く重複していると判断したのはXであって、これに基づいて甲地の登記が抹消されたのもXの申請に基づくのだし、しかもその結果膨らむことになる乙地所有者はXが代表取締役を務めるA社なのだから、いわばXの都合での登記の修正に過ぎないというわけである。
裁判所は、端的に執行官等に過失はないといい国賠請求を棄却している。
I所有からNを経てA所有に譲渡された経緯とか、甲地の担保権が設定された経緯およびその当事者が明らかでないので、隔靴掻痒な感じがするが、結論は落ち着くべきところに落ち着いているような感じがする。
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