arret:反対意見が付されたことを判示事項に記した例(URL記載正犯事件)
裁判所のHPにおける判示事項に、「児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項の「公然と陳列した」には当たらないとする反対意見が付された事例」として下記の裁判が紹介されている。
最決平成24年7月9日(決定全文PDF)
裁判所HPの日付記載は誤りで、決定全文PDFの日付に合わせ修正した。
事案は、児童ボルノの公然陳列罪で、共犯者がインターネット上に開設したウェブページに、第三者が他のウェブページに掲載して公然陳列した児童ポルノのURLを改変して掲載した行為が公然陳列罪に当たるとされたものである。
これ自体、とんでもない話であり、全く支持できないのだが、最高裁の法廷意見としてはこれに対する上告が「刑訴法405条の上告理由に当たらない」との理由で上告棄却の決定を下している。
ちなみに刑事訴訟法には詳しくないのだが、単なる法令違反の主張であっても、「判決に影響を及ぼすべき法令の違反があ」り、かつ「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認め」られる場合には、原判決を破棄することができるとされている(刑訴法411条)。
そして、大橋正春裁判官と寺田逸郎裁判官は、この411定に基づく破棄差戻しが相当であるとの反対意見をつけている。
この反対意見は、要するに、公然陳列罪に該当するというためには所在情報としてのURLを単に記載しただけでは足りず、「当該児童ポルノ自体を不特定又は多数の者が認識できるようにする行為が必要」とするもので、URLをウェブサイトに記載するだけなら雑誌に記載するのと同じことであるので、公然陳列罪の正犯には当たらず、せいぜい幇助犯の成立が可能となるだけだというものである。
そして、罪刑法定主義について次のように述べている。
なお,被告人の行為は社会的には厳しく非難されるべきものであり,また,新たな法益侵害の危険性を生じさせるものであるという原判決の指摘も理解できないではない。しかし,そのことを強調し,URL情報を単に情報として示した行為も, 「公然と陳列した」に含まれると解することは,刑罰法規の解釈として罪刑法定主義の原則をあまりにも踏み外すもので,許されるものではなく看過できない。
当罰性に目が眩んで法律の解釈として可能な範囲を踏み越えてしまうのは罪刑法定主義違反であるというこの指摘は、極めて重要であり、特に最近は蔑ろにされる傾向が強いようにも思われるだけに、注目されるべきだ。
かくして、判示事項に反対意見がついていることを挙げるのは、私見としては至極まっとうで、反対意見こそが重要だと思う。が、裁判例の先例的価値としては、少数意見は重要性がないのであり、反対意見が付せられていることを判示事項に記したのは判示事項の機能を正解していないと言わざるをえない。推測するに、判示事項を作成した人は、先例的価値のある部分を示すよりも、反対意見が重要だと考えたのかもしれない。あるいは逆に、反対意見がついているということに驚きを感じたのか?
なお、本決定の先例的価値としても、URL情報をWEBページに掲載したことが当該URL先の内容による犯罪に正犯として関与したことを一般的に認めたものと解することは広すぎるであろう。あくまで児童ボルノに限って、しかも公然陳列に限っての判断であり、かつ本件被告人と共犯者のウェブサイトの記載・傾向全体が前提になっての話というべきである。
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コメント
ただ今札幌は暴風雪ですか?
このブログ、当事者外のある特定のどこかの誰かさんを非難攻撃するために書かれているみたいで、。
名和さんの思惑どうりでオカシイ。
投稿: 鹿島渡 | 2012/10/21 17:17
少し古いところにコメントで恐縮ですが。
中野次雄編『判例とその読み方』には、最高裁判例集の登載基準として、「判例そのものとしては目新しいものではなく普通ならば登載されないものでも、新しく任命された裁判官が少数意見を附したときは、これを登載することにしている。」(手元の初版では106頁)との記載があります。
もしかすると、そういった経緯で判例集登載となるために、webサイトにも掲載されたのかも、と思ってみたりもしていますが、今回の少数意見が初のものだったかは確認していません。(^^);
投稿: えだ | 2012/10/30 23:04