arret:弁済者代位が財団債権にも及ぶ事例
弁済による代位により財団債権を取得した者は,同人が破産者に対して取得した求償権が破産債権にすぎない場合であっても,破産手続によらないで上記財団債権を行使することができる
第三者が弁済した場合、民法は以下のような規定を置いている。
(任意代位) 第四百九十九条 債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。(2項略)(弁済による代位の効果)
第五百一条 前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。(以下略)
ところで破産法は、賃金債権について以下のような保護を与えている。
(優先的破産債権) 第九十八条 破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(次条第一項に規定する劣後的破産債権及び同条第二項に規定する約定劣後破産債権を除く。以下「優先的破産債権」という。)は、他の破産債権に優先する。(使用人の給料等)
第百四十九条 破産手続開始前三月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
2 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前三月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前三月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前三月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。
従業員の給料は、民法306条、308条で「一般の先取特権」があると規定されているので、破産法98条により優先的破産債権となる。他方、破産法149条は破産手続開始前3ヶ月分の賃金債権を財団債権としており、財団債権となると「破産債権に先立って、弁済する」(151条)、つまり破産手続によらないで直接管財人に請求できることになる。
民法の規定に基づく弁済者代位により原債権(賃金債権)を立替弁済した者が行使できるというのであれば、それは財団債権として行使できるというのが論理的帰結である。従って本判決は論理的である。
もっとも、従業員の未払い給与が財団債権となったのは、平成16年の現行破産法制定時においてであり、それ以前は優先的破産債権となるのみであった。それが財団債権に格上げされたところ、その趣旨は労働者保護であるから、労働者のために立替払いをした者にまで保護を及ぼすかどうかはまた別だという議論も成り立つ。
原判決はこの趣旨を説くわけだ。
田原裁判官が補足意見で述べるように、他の破産債権者にとっては、もともと財団債権として優先的に弁済されてしまう債権が、その債権者が入れ替わったとしても、損も得もないし、かえって財団債権が一般債権になるのであれば棚ぼた的利益を得ることにもなる。その意味では論理的帰結を貫いた方が簡明ではある。
また、労働者の生活保障という目的で財団債権化して保護したことは、その立替払いをした者に同趣旨での保護が必要とは言いがたいが、立替払いをしたのが労働者健康福祉機構であるならば、その機構の財政基盤を保護して賃金確保制度を維持するという目的から、従業員と同様の保護が与えられるべきということもいえる。
以上の形式的理由と実質的な理由から、本判決の結論は支持できる。
| 固定リンク
「裁判例」カテゴリの記事
- Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例(2024.03.12)
- Arret:欧州人権裁判所がフランスに対し、破毀院判事3名の利益相反で公正な裁判を受ける権利を侵害したと有責判決(2024.01.17)
- jugement:大川原化工機の冤罪事件に国賠請求認容判決(2023.12.27)
- arret:オノアクト贈収賄事件に高裁も有罪判決(2023.10.24)
- arret: 婚姻費用分担請求に関する最高裁の判断例(2023.08.08)
コメント
ツイッターに流し、先生もフォローさせていただきました。
投稿: ばんぶう | 2011/11/23 13:10