arret:処分権主義
1 甲乙の共有に属する不動産につき,甲乙丙を共有者とする所有権保存登記がされている場合における,甲の丙に対する上記登記のうち丙の持分に関する部分の抹消登記手続請求は,更正登記手続を求める趣旨を含む
2 甲乙の共有に属する不動産につき,甲乙丙を共有者とする所有権保存登記がされている場合において,甲は,丙に対し,甲の持分についての更正登記手続を求めることができるにとどまり,乙の持分についての更正登記手続までを求めることはできない
この事件では、まず法令違反の主張をするのに、最高裁に通常上告をしたらしい。
玉砕戦法なのだろうか?
優しい最高裁は、上告を機縁とする職権による検討を加えて、破棄自判してくれた。ただし、上告人の主張が容れられたというわけでは必ずしもない。
被上告人は、Bの妻X1と子X2で、Bのもう一人の子Aは当事者となっていない。
妻、子、AがBの所有建物を相続して共有している。
ところが当該建物の保存登記では、上告人が2分の1の共有持分を登記していた。X1,X2,Aは残る2分の1の中で、X1が4分の1、X2とAとがそれぞれ8分の1の共有持分を登記している。
どうしてそうなったのか、上告人と被上告人らないしBとの関係はどうなっているのか、判決文には一切説明がない。
そして、被上告人ら、すなわちX1とX2とが、保存登記のうち上告人の共有持分部分を抹消登記せよと請求したのが本件訴えだ。
原審は、上告人の共有持分部分の保存登記だけを抹消登記することが出来ないと解した上で、本件保存登記全部の抹消を命じた。
しかし、これはX1X2の請求の範囲を超えている。彼らは被上告人の持分にかかる保存登記の抹消を求めているからである。
さりとて、保存登記のうちの一部の持分部分のみを抹消することは登記法上できない。さてどうするか?
最高裁は以下のように判示した。
被上告人らの本件登記部分の抹消登記手続請求が意図するところは,上告人が持分を有するものとして権利関係が表示されている本件保存登記を,上告人が持分を有しないものに是正することを求めるものにほかならず,被上告人らの請求は,本件登記部分を実体的権利に合致させるための更正登記手続を求める趣旨を含むものと解することができる/
共有不動産につき,持分を有しない者がこれを有するものとして共有名義の所有権保存登記がされている場合,共有者の1人は,その持分に対する妨害排除として,登記を実体的権利に合致させるため,持分を有しない登記名義人に対し,自己の持分についての更正登記手続を求めることができるにとどまり,他の共有者の持分についての更正登記手続までを求めることはできない
以上の結果、「被上告人らの請求は,被上告人X1の持分を2分の1,被上告人X2の持分を4分の1,上告人及びAの持分を各8分の1とする所有権保存登記への更正登記手続を求める限度で理由がある」とした。
この最高裁のやり方は、本来持分権がないはずの被上告人について、8分の1の持分権があるという保存登記へ更正登記手続をするという点で、落ち着きの悪さを感じるが、それはやむを得ないのであろう。
どのみち、登記請求権では前提となる所有権(持分権)の帰属について既判力が生じるものではなく、また当事者でないAが本件被上告人に別訴で更正登記手続を求めることは妨げられないのだから、認定に反する権利関係が確定してしまうということはないのだから。
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コメント
形式的なところだけ。
判文に、「上告人の上告理由について」と書いてあるところをみると、弁護士の訴訟代理人がついていないように思います。
弁護士の訴訟代理人がついていれば、「上告代理人何某の上告(受理申立て)理由について」と書くのが通常ですからして。
投稿: えだ | 2010/04/20 20:22
先生のおっしゃるとおり、まさに、玉砕戦法ですね!
上告受理申立てなら、一発アウトのはずです(多分)が、「憲法違反
だ!」と申し立てれば、判断してくれるのでしょうか?でも、そんな
訳は無いので、高裁判決を最高裁としては許せなかったのでしょう。
当事者の争いなんか、どうでもよくって(あ、上告の目的論につなが
りそうな気がしてきました)。
代理人弁護士がついていたら、間違いなく上告は選択しない(怖くて
出来ない?)ので、やはり「一番怖いのは、本人訴訟」という言葉を
思い出させていただきました。
投稿: はる | 2010/04/20 20:50
もし,上告が棄却されていたとします。
原審(第1審)は,本件保存登記全部の抹消を命じています。
でも,この判決主文では,法務局において登記手続がでできないような気がします。
最高裁判決の第2 3 (1)記載のとおり,不動産登記法上許容されない,登記手続を命じているからです。
じつは,得したのは・・・
投稿: しょし | 2010/04/20 22:04
保存登記の全部の抹消も出来ないんですか?
投稿: 町村 | 2010/04/20 23:24
>保存登記の全部の抹消も出来ないんですか?
申し訳ありません。誤解している点がありました。
登記官は,形式的審査主義ですので,処分権主義違反は,咎められないような気がします。
原審(第1審)は,本件保存登記全部の抹消を命じていますが,「不利益を受ける訴外Aの協力がなければ,法務局において抹消登記手続ができない」に改めます。
投稿: しょし | 2010/04/21 09:21
ああ、そうですね。Aの承諾というか協力はいりそうですね。
この事件でAは基本的にX側の人だと思いますが、敢えて当事者になっていないところをみると、もしかしたらY側に立っているかも知れませんね。
事案の解決を考える上では、重要なポイントでした。
投稿: 町村 | 2010/04/21 09:38
ついでに,一言申し上げます。
事案からは,上告人が,なぜ,登記名義人になれたのかよく分かりません。
相続以外に,所有権「保存」登記というのが,ポイントかもしれません。
投稿: しょし | 2010/04/21 11:23