私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

AUN APRENDO(まだまだ私は学ぶ)

2024-01-24 13:24:30 | æ—¥è¨˜
 スペインの首都マドリッドにあるプラド美術館に、スペインの画家ゴヤがその最晩年に描いたAUN APRENDO ã¨é¡Œã™ã‚‹çµµãŒã‚ります。このタイトルの意味は「まだ俺は学ぶぞ」とか「わてはまだまだ学ぶぞよ」とか「それでもまだ学ぶぞ」とか「I am still learning」とか色々に訳されています。「私はヨボヨボの老人になったが、まだまだ勉強を続けるぞ」という老いたゴヤの心意気を描いた絵だと思います。



この絵とゴヤについては、また後で語ることにして本題に入ります。

 今の世界についての私の知識は周辺的な事柄に偏って狭くなっている傾きがあることを自覚しています。この面で今までにも何度か大橋晴夫さんから助言を頂きましたが、今回はイスラエル問題の権威である板垣雄三氏の論説発言についてご教示をいただきましたので、まず紹介いたします:


次のような動画もあります:
イスラエル・パレスチナ問題の動画(岡真里氏の発言も含む)

是非ご覧ください。

<ここまでは体調を崩す前に書き記していました>

 その後、ブログ記事『ONE STATE SOLUTION』に対して、山椒魚さん、名無しの整備士さん、近藤英一郎さんから貴重なコメントを頂きました。人間が個人として、また、集団として発揮する残虐性については「人間は人間に対して狼である」をもじって「人間は人間に対して人間である」という些かふざけた言葉で私見を述べたことがありますが、ガザについては、これは、先住民排除の植民地政策が許容されることか否かという問題に限定して考えるべきことだと私は思います。米国がイスラエルに対して「良くないからやめろ」と言えないのは、そう発言してしまっては、そもそも米国建国の正当性を否定することになってしまうからです。
 山椒魚さんの申される「この残虐な行いをやめさせてくれるひと」は私たち世界中の普通の人間です。世界中の普通の人間の声がこの残虐行為を阻止するのです。阻止すると信じます。ガザ戦争の世界史的意義がこの一点にあることを私は固く信じています。
 名無しの整備士さんが教えてくださった塩野七生さんの見解は、私はすぐには了解できません。この所、米国の著名な修道僧トマス・マートン(1915年〜1968年)の著作を読んでいますが、マートンも、塩野七生さんの見解には賛成しなかったであろうと考えます。ガザの地に、今、受肉したキリストが降り立ったとすれば、暴君ネタニエフの暴行を決して許しはしなかったと思います。
 近藤英一郎さんが「私も、一国家解決案だけが唯一の解決だと思うのです」と言って下さったのをとても嬉しく思いました。今の南アフリカ共和国の黒人白人合同の弁護団がパレスチナのために国際法廷で堂々と戦っているのを目の当たりにすると、パレスチナ人とイスラエル人が共々に力を合わせて国を建てる日が、50年を待たずして訪れるのではないかという希望を持ってしまいます。しかし、久しぶりにコメントを頂いた近藤さんからは、やはり、音楽のことをお伺いしたかったという思いも持ちました。前に、拙ブログでスペイン発祥の「フォリア」について書いた事がありましたが、老いが進むにつれて、ますますこの曲の調べが胸に滲みるようになってきました。音楽家として近藤さんは「フォリア」についてどの様な感興をお持ちでしょうか。お気が向いた折に、お聞かせ頂ければ幸甚です。
 桜井元さんは、私の危うげな投稿ぶりから体調不良を察知して、代打と言えば全く礼を失しますが、私が書きたかった事を何倍にも増幅した内容のコメントを寄せてくださいました。有り難うございました。

 さて、冒頭に絵を掲げたスペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746年〜1828年)の話に戻ります。ウィキペディアには「当時のスペインの自由主義者弾圧を避けて1824年、78歳の時にフランスに亡命し、ボルドーに居を構えた。1826年にマドリードに一時帰国し、宮廷画家の辞職を認められるが、1828年、亡命先のフランスのボルドーにおいて82年の波乱に満ちた生涯を閉じた」と記されています。
 ゴヤは最晩年に『戦争の惨禍』という戦争反対の版画集を制作しましたが、この版画集について、土橋さんという方の極めて興味深い論考がありますので是非覗いてみて下さい:
この論考の結語をコピーさせていただきます:
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『戦争の惨禍』は複製可能で安価な、民衆にも手に入れやすい版画の技法で制作された。ここには政治や教会批判といった内容が含まれている。フェルナンド 7 世による反動政治の中、恐らくこの内容が国王の逆鱗に 触れることを恐れ、生前『戦争の惨禍』を出版することはなかった。宮廷画家であるはずのゴヤは王ではなく 民衆のために『戦争の惨禍』を制作したのである。『戦争の惨禍』が世に出ないとしても、ゴヤはこの戦争を 描いた。老齢で耳が聞こえず、戦場に立てない画家が戦うには、絵を描くしかなかった。『戦争の惨禍』は、 スペイン独立戦争に取材した戦争版画であると同時に、ゴヤ自身の戦いの記録でもある。 
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<<付記>>
驚くべき文書を見つけました。1月21日にハマスが発表した『Our Narrative … Operation Al-Aqsa Flood』:

16ページの英語版PDFで見ることが出来ます。ハマスは屈服しないでしょう。

藤永茂(2024年1月24日)

頂いたコメントの続き

2024-01-11 10:45:03 | æ—¥è¨˜
ブログ記事『ジョン・ピルジャーが亡くなった』に送られた櫻井元さんからのコメントの後半が正当に記載されず、その理由が私には分からないので、以下にその全文を記載します。同様の困難が生じた場合にはお知らせください。

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アンドレ・ヴルチェク氏よ、ジョン・ピルジャー氏よ、永遠に

藤永先生のブログを通して、主流マスコミが歪めたり無視したりする事実を、労を惜しまず勇敢に伝えてくれる記者たちの存在を知り、これまでネットでそうした方々の報告に触れてきました。2014年2月27日付のブログ記事「アメリカがはっきり見える場所」で紹介されたアンドレ・ヴルチェク氏、ジョン・ピルジャー氏もそうした記者ですが、ヴルチェク氏は数年前に、ピルジャー氏はこのほど逝去されてしまいました。本当に残念でなりません。

「アメリカがはっきり見える場所」

ピルジャー氏の「The War on Democracy」のことを藤永先生のブログで初めて知り、視聴して当時たいへん感銘を受けた私は、その後、輸入盤のDVDまで購入しました。

The War on Democracy

汚いクーデターの裏側、米国の中南米への汚い介入の歴史、米国に後押しされた軍事独裁政権のおぞましさ、ウゴ・チャベスという人物の魅力、チャベスの危機を救ったのが誰か他の傑物などではなく民衆の力そのものだったという真の民主主義が放った力強い希望の光、こうした事実を見事に記録した非常に意義深く感動的なドキュメンタリーでした。

米国の中南米への汚い介入、その象徴的な人物としてのヘンリー・キッシンジャーについては、以下の記事が参考になります。

『南米で「戦争屋」と呼ばれた男=軍事独裁政権を支持したキッシンジャー』

米国による汚い介入は、なにも中南米に限られず、このことは藤永先生が長年にわたるブログを通してアジア・アフリカ・中東など世界中の数々の例を丹念に取り上げて解説してくださいましたが、東欧のウクライナで起きてしまった悲劇の背景にも、そうした汚い介入があったようです。このことを、ピルジャー氏のように見事なドキュメンタリー作品に仕上げて示してくれたのが、オリバー・ストーン氏の「Ukraine on Fire」でした。

映画『ウクライナ・オン・ファイアー』(英題:UKRAINE ON FIRE)
花崎哲さん(憲法を考える映画の会)解説

ウクライナ・オン・ファイヤー日本語字幕(字幕改正版)

藤永先生は以前、「現代アメリカの五人の悪女」というブログ記事を連載されましたが、このストーン氏のドキュメンタリーに登場するビクトリア・ヌーランドも、間違いなくそうした現代アメリカの悪女の1人に入るでしょう。

現代アメリカの五人の悪女(1)

現代アメリカの五人の悪女(2)

現代アメリカの五人の悪女(3)

ピルジャー氏とヴルチェク氏は多くの労作を残されましたが、次の二作品も、あらためて注目したいものです。一つはピルジャー氏の「Stealing A Nation」、もう一つはヴルチェク氏の「Oceania」です。

ピルジャー氏の「Stealing A Nation」は、以下でご覧になれます。

Stealing A Nation

映像には、何不自由ない豊かな暮らしを送れていたインド洋チャゴス諸島の島民に対して、英国と米国が裏で取り引きをし、英国が自国領として島を接収し、島民を暴力と詐術を使い、遥か遠くアフリカ東岸の島に追放、その後に米国が軍事基地(対アフガニスタン攻撃、イラク攻撃の拠点となったディエゴ・ガルシア)を建設していったという許しがたい経緯が描かれています。

追放の際には、島民たちの大切なペットの犬が集められ、米軍車両の排ガスで一斉に殺されたそうです。また、追放の際に乗せられた船では、馬が甲板に上げられた一方で、島民たちは子供も含め、肥料用の鳥の糞が積まれた船倉に押し込まれたそうです。あまりに身勝手・理不尽な英米による島の強奪、島民の追放に加え、その手段もあまりに冷酷・非道であり、かつての奴隷船を想起させるような相手を同じ人間とみなさないひどい人種偏見・差別意識に満ちた所業です。

追放された島民を待っていた悲惨は壮絶なものでした(島民に与えられたのは、水も電気も窓も屋根もない廃屋のみで、貧困と絶望のなか、人々は心身を蝕まれ、自ら命を絶つ者も出たそうです)。英国のひどい仕打ちはそれだけではありません。その後、補償金を渡すのに必要だと偽り、島への帰還権を放棄する書面に拇印を押させた騙し討ちの手法にしても、のちに公文書で明らかになった、外務省が練り、首相まで了承したという、「そこに島民などもともといなかった」という国際社会向けの国家ぐるみの大ウソにしても、また、エリザベス女王の命令までをも使って島民の帰還を阻止しようとした英国政府の策動にしても、ことごとく卑劣なやり口の連続でした。

チャゴス諸島の島民の悲劇について、ピルジャー氏は、映像だけでなく、以下のような文章も記しています。

The world war on democracy

この文章の日本語訳については、藤永先生が常々高く評価されている「マスコミに載らない海外記事」さんの以下の翻訳をご参照ください。これは現在の世界を知るうえで必読の内容です。

民主主義に対する世界戦争

ピルジャー氏のこの文章とその日本語訳について、藤永先生は2016年6月15日付のブログ記事「ノーマン・フィンケルスタイン(シュティーン)」の中でご紹介くださっていました。藤永先生のこの記事は、イスラエルのパレスチナへの非道が続くいま、あらためて多くの方々に再読して頂きたいものです。

ノーマン・フィンケルスタイン(シュティーン)

ところで、ピルジャー氏のこうした映像や文章に接し、日本人の一人として想起するのは「沖縄」のことでした。米国が軍事基地を作るために「銃剣とブルドーザー」で、慣れ親しんだ土地、生活の場を追われ、いまなお、反対の声を踏みにじられ、かけがえのない美しい自然を破壊され続ける沖縄の人々のことでした。

「銃剣とブルドーザー」(ウィキペディア)

海鳴りの島から(目取真俊氏のブログ)

次に、ヴルチェク氏の作品「Oceania」ですが、同書の目次は、以下からご覧になれます。

核・ミサイルの実験場、強制移住、放射能の人体実験、深刻な人的被害と環境破壊、恣意的な国境画定と移動の制限、伝統文化の破壊、ジャンクフード漬けと糖尿病はじめ病気の増加、観光客向けの贅沢なリゾートと現地住民の貧困スラム、大量の廃棄物と環境汚染、現地住民の傭兵化と米国の戦争への駆り出し、人口の流出、仕送りと宗主国の援助頼みの依存的な経済、地球温暖化による水没の危機などなど、欧米に翻弄され続け、従来の自由で健康的で豊かだった暮らしを破壊された島民たちの様々な苦悩が、実に丁寧に取材・記録されています。

ピルジャー氏の「Stealing A Nation」、ヴルチェク氏の「Oceania」、これらの作品に触れると、安倍政権以降、声高に叫ばれる「自由で開かれたインド太平洋」の掛け声が、いかに欺瞞・偽善・虚飾に満ちたものかが分かります。

今回、ピルジャー氏の訃報に接し、ネット上で以下の追悼記事を読むことができました。ピルジャー氏の偉大な業績が、現在の危機的なマスコミの状況とともに(ピルジャー氏はマスコミからパージ・追放されたと表現されています)、簡潔ながら丁寧にまとめられていました。

Iconic journalist John Pilger dies

この追悼記事の最後の方で、ウィキリークスのジュリアン・アサンジ氏をピルジャー氏が擁護した活動に触れられていました。たしかに、ピルジャー氏の公式サイトには、アサンジ氏を熱心に擁護し続けた足跡がうかがえます。

THE TRUE BETRAYERS OF JULIAN ASSANGE ARE CLOSE TO HOME

ピルジャー氏の上の記事には、そうした活動の中での一つの場面が記されています。アサンジ氏の裁判の法廷内で、ピルジャー氏の姿を目にした裁判官から悪罵を投げつけられたそうなのですが、その裁判官とは、かつてチャゴス島の島民追放に関する悪名高い裁判に関わった人物だったそうです。本当に皮肉な運命の巡り合わせです。ピルジャー氏は、そのような人物からの、そのような言葉は、かえって自分への賛辞になると、なんともたくましい精神で淡々と受け止めていました。

ピルジャー氏とヴルチェク氏に共通するのは、「帝国主義批判」「植民地主義・新植民地主義批判」という確かな視座であり、歴史上、欧米に顕著に出現し、世界中に不幸をもたらし続けてきた傲慢・差別・独善・強欲・収奪・搾取・支配・暴力・偽善・欺瞞といったものへの激しい嫌悪・拒絶・抵抗だったのだと感じます。だからこそ、横暴に権力をふるう政治的・経済的支配層に対し、なんら忖度することなく、敢然と立ち向かい、その偽善と欺瞞のベールを剥ぎ取り、堂々と伝えるべきことを伝えることができたのではないでしょうか。

二人の尊敬すべきジャーナリストたちに、藤永先生のブログを通して出会えることができて、本当にありがたいことと感じております。

二人が残した作品群は、今後とも、多くの人々が折に触れて参照し、学び、その高潔な精神に感化されるべき、普遍的な価値をもつものだと確信します。

彼らの生涯をかけた勇気と人間愛に満ちた取材活動、虐げられた側に立った取材活動、虫ケラのように扱われる人々の声なき声に真摯に耳を澄ました取材活動に、あらためて敬意を表し、心からその冥福を祈ります。
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追記:1月12日に、私の不注意による冒頭の一部の重複を除去しました(藤永茂)


ONE STATE SOLUTION

2024-01-04 21:18:43 | æ—¥è¨˜
 パレスチナ問題の解決は、イスラエルのユダヤ人と先住民のパレスチナ人が一緒に暮らす一つの国土が出来ることしかないと私は思います。その状態が出現しなければ、人間、あるいは人類の未来には絶望があるのみです。根源的な悪(Radical Evil)に人間世界の支配を許すということですから。
 先頃、悪の顕現を伝えるニュースに接しました:


その中にIDF(Israel Defense Forces, イスラエル防衛軍) がイスラエルで兵士や人々に配布しているT-シャツの絵柄が示されています。ご覧下さい。妊娠したパレスチナ女性のふくらんだお腹に銃の焦点十字(クロスヘア)が定められていて、 その下に 1 SHOT 2 KILLS ã¨æ›¸ã‹ã‚Œã¦ã„ます。「一発の銃弾で母親と赤ん坊の二人を殺せ」、これがイスラエルの兵士と民衆に対するメッセージです。




このT-シャツの絵柄について次の説明がついています:
「The Israeli Defense Forces hand out t-shirts that say, “one shot, two kills,” and they show a pregnant Palestinian woman with a target on her belly. They are proud of killing children. Ayelet Shaked, the former Justice Minister, is notorious for calling for the mass murder of Palestinian children. She called them “little snakes.” And she said Israel should also kill their mothers. So there is something deep in the Israeli psyche that is twisted, mentally ill. They hate Palestinian children and want to kill them.」

 これが今のイスラエルであるならば、この国は消滅しなければなりません。パレスチナの土地に遥かな昔から住んでいる先住民パレスチナ人とその土地に流れ着いたユダヤ人が一緒に住む一つの国が、一つの土地が出来なければなりません。五十年かかるか百年かかるか、実現には長い年月が必要でしょう。これは賭けではありません。もしこれが出来ないのであれば、人類は存在するに値しません。滅亡がその運命であって然るべきです。

藤永茂(2024年1月4日)

ジョン・ピルジャーが亡くなった

2024-01-02 19:10:07 | æ—¥è¨˜
山椒魚さんがいち早く知らせてくださいました。痛恨の極みです。冥福を祈ります。

この世では、真実はプロパガンダに、美はショックによって取って代わられてしまいました。『ライ麦畑で捕まえて』のホールデンならば、PHONYと大声で叫ぶところでしょう。

Mr.Tさんからも知らせて頂きました:

藤永茂(2024年1月2日)