私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

朗報!!JICA がシリアへの支援を始めてくれた!

2023-02-28 00:16:03 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 ブログ記事『シリアの人々にも救援を』(2023年2月22日)に、Oseitutu.Miki さんがコメントを寄せて下さって、JICA(ジャイカ、Japan

International Cooperation Agency、国際協力機構、外務省の管轄)が国連を通して、直接、アサド政権下のシリアの首都のダマスカス空港に救援物資を載せたジャンボジェット機を着陸させてくれた事を知りました。その様子は

https://www.facebook.com/SYRedCrescent/posts/pfbid0p3wBozBD9ysLsZRHHGZMy2UPHVN9t74Jc1g6uCgFxqHVjQF9pbzxkigwcbTEHRpel

https://www.facebook.com/SYRedCrescent/videos/أول-شحنة-مساعدات-يابانية-تصل-إلى-دمشق-لدعم-استجابة-الزلزالاستلمت-منظمة-الهلال_ال/1306273163282171/

で視聴できます。5分16秒の動画です。Oseitutu.Mikiさんは「・・・JICAが直接シリア支援をしたようです。動画をみつけて興奮しました。・・・」と書いておられます。私もすっかり興奮しました。始めの発言者は多分シリア政府の役人でしょうが、まことに立派な発言です。次にはJICAの日本人があらわれて英語で現地の人々に話かけています。この動画の中ほどのシリア政府の係官の発言の英語字幕を少しコピーします:

・・・The number of victims is large. There are more than 7000 victims in Idleb alone. They are our fellow people and being in area out of the government control. ・・does not make any difference for us. And you can imagine the huge number of the victims in Aleppo, Jableh, and Lattakia. Half of the buildings in Jableh are on ground. ・・・

ここで、Idleb が特別に言及されていることに注意しましょう。後のAleppo, Jableh, Lattakia はシリア政府の管轄下にあって、米国とEUの苛酷な制裁(サンクションズ、前回解説)に痛めつけられて、燃料、食料、医薬品などが欠乏し、地震の後片付けをする土木機器類も不足して、住民はまさに途端の苦しみに(大地震以前から)陥っていますが、Idleb はオバマ大統領時代からのアサド政権に対するレジームチェンジ政策の遂行を目指す反政府勢力の支配下にあります。ですから、この地域に対しては、米欧は制裁を全く加えず、積極的にその軍事活動、経済活動を支持して来たのです。この地域の住民の多くはクルド人で自分たちの、シリア国内での自治権は要求しても、シリアが米欧の支配下に入ることを望んでいた訳ではありません。今回、この地域が大地震に見舞われた時、反政府勢力の権力者たちは何をしたか?簡単に言うと、めちゃくちゃなピンハネです。米欧諸国はアサドのシリアには何も送らず、イドリブには救援資金、物資を注ぎ込んでいますが、それはまず反政府勢力の権力機構の手中に収まり、クルド人がその多数を占める一般住民には高値で売りつけられるという事態が生じているのです。この事情を知れば、上掲の動画でシリア政府の係官がイドリブの被災者について語っていることの意味合いとその立派さが分かるというものです。

 JICAが救援物資を満載したジャンボ機を着陸させたダマスカス空港はイドリブからはるか南に位置します。私はこの隔たりを見ながらも、「JICAはよくこの英断を下したなあ」と感心してしまいます。トルコ・シリア大地震の救援に関するこのビッグニュースをビッグニュースとして報じた例はまだ見つかりません。JICAと外務省の発表は次のとおりです:

https://www.jica.go.jp/information/jdrt/2022/230210s.html

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_009608.html

藤永茂(2023年2月29日)


シリアの人々にも救援を

2023-02-22 10:31:26 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 この記事には、ひどい大地震に見舞われたシリアの人々にも日本から支援を送ってほしいという願いも、勿論、含まれています。出来れば助けたいと思う人々がこの世界にはあまりにも沢山います。今ひょいと私の心に浮かんだのは、最近、どこかのテレビで見た、癌の発病に苦しむ幼い子供たちのいたいけな姿です。胸が痛みます。

 しかし、この記事の中心的な願いは、米国が、米国の支配者たちが、排除してしまいたいと考える国家、政府、人間社会、個人に対して加える諸々の制裁措置

(sanctions) の残酷さと悪魔性を、アサド政権下のシリアを具体的例として、多くの人々に理解して貰いたいということです。

 まず「シーザー法」と呼ばれる米国の法律から説明します。正式の名称はThe Caesar Syria Civilian Protection Act of 2019 で、2019年12月に時の大統領トランプが署名して米国の法律となり、2020年6月17日から実施されました。名称から見ると、これはシリアの一般市民を保護する為の法律ということになります。

 では、このシーザーとは何者か? 法案を米国議会に提案した議員の名前などではありません。これは2014年に米国で発表された「シーザー報告」というものから来ています。正式の称号はA Report into the credibility of certain evidence with regard to Torture and Execution of Persons Incarcerated by the current Syrian regime です。「現在のシリア政権によって投獄された人々の拷問と死刑執行に関する証拠の信用性についての報告書」と訳しておきましょう。この報告書はシリア軍の警察(憲兵隊、ミリタリーポリース)内に潜り込んでいた一人のカメラマンの筆になるもので、その安全を守る為に、シーザーという仮名が使われたのだそうです。

 次に、「シーザー法」が実施に移された前後のシリア情勢を振り返ります。これまで何度も書きましたが、これは内戦ではありません。「アラブの春」という扇動の手口を使って国外勢力が仕掛けた政権打倒の為の戦争です。シリアは一時国土の半分以上を失うまでに追い詰められましたが、ロシアとイランの救援を得て、2019年の終わり頃には国土の7割を取り戻して、レジームチェンジを目指した米国の試みは失敗したように見えました。そこから見事に盛り返して、アサド政権下のシリアを、シリア住民を、悲惨な苦境に追い込むことに米国が成功したのは、この「シーザー法」のお蔭でした。今度の大地震以前の話です。

 もう一度、この米国の立法の正式名称を見てください。「シリアの一般市民を保護するための法律」と書いてあります。まさに悪魔的偽善ではありませんか!当時の日本語のニュースは次のように報じています:

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【6月18日 AFP】米国は17日、シリアのアスマ・アサド(Asma al-Assad)大統領夫人らを新たに制裁対象に指定し、内戦下のシリア経済を揺さぶってきた圧力作戦を新法の下でさらに強化していく構えを示した。

 米国は、17日に発効したシーザー法(The Caesar Act)に基づいた措置の第1弾として、アサド大統領夫妻を含む39の個人・団体を制裁対象とした。対象者は米国内に保有する全資産が凍結される。

 アスマ夫人が米国の制裁対象となるのは初めて。アサド氏は2011年に反体制派弾圧を開始して以降、米国の制裁対象となっている。

 シーザー法はアサド氏に協力する企業を罰するもので、シリア再建への取り組みに暗い影を落としている。

 マイク・ポンペオ(Mike Pompeo)米国務長官は声明で「われわれはさらに多くの制裁を見込んでおり、アサド氏とその政権がシリア国民に対する不必要で残忍な攻撃を停止するまでやめるつもりはない」と表明。「経済的・政治的圧力をかける作戦の継続」を宣言した。

アスマ夫人が米国の制裁対象となるのは初めて。アサド氏は2011年に反体制派弾圧を開始して以降、米国の制裁対象となっている。

**********

シーザー法の制裁はアスマさんの長男のハフェズ(18歳)にも適用されています、これらの日本語記事を見たければ:

https://www.afpbb.com/articles/-/3288920

https://ameblo.jp/gekifutoriyagineko/entry-12604885959.html

https://www.afpbb.com/articles/-/3296335

にあります。

 具体的にどうやってシリアの一般市民を塗炭の苦しみ追い込んだのか?例えば、シリア政府あるいは貿易業者が食糧、医薬品、医療器具、建設機器などを国外からシリアへ輸入しようとするとします。それに応じて国内外の企業体が、あるいは、個人が、シリア向け輸出入を実行すると、米国は「シーザー法」をそうした企業や個人に対して適用して米国がコントロール出来る資産を取り上げてしまいます。商売相手として、シリアは小国ですから、米国と比べれば、モノの数に入らない取引相手です。大切な顧客である米国を失い、その上、企業や個人の銀行資産を取り上げられるという選択肢を選ぶ馬鹿が一体どこにいるでしょうか!

 キューバに対して、米国はこれと同じような制裁を加えています。今度のコロナ禍で、キューバは自力で良質のワクチンを開発製造して国民の健康を守ろうとしましたが、米国は、キューバ国内では十分の量の注射器が生産出来ない状況につけ込んで、キューバが海外から注射器を輸入出来ないようにしています。

 「シーザー法」のような経済制裁の徹底性を如実に示すコメントを一人のカナダ人女性が投稿しているのを偶然見つけましたので引用します。カナダの銀行を通じて、アサド政権下のシリアに地震見舞金を送ろうとしけれど、どうしてもうまくいかなかったという内容のものです:
Dolores Mitchell

I have tried to make a donation by bank transfer and it wants the 3 digit code for Royal Bank of Canada which is not in your bank information. Then I proceeded to make a Globat Money Transfer and it wants to know what country it is in. I tried Canada and Syria, both of which were not in the options to choose from. Is there an easier way to send a donation? Even the debit transfer didn't work. I would like to donate.

私には彼女のいうことを信じるに十分の個人的経験があります。昨年のことですが、日本国内の銀行を通じて、イタリアのベニスに在住する身内の者に、暮らしの助けとして、200ユーロのお金を数回にわたって送金したことがありました。すると、その銀行の外資取り扱いの係から呼び出されて、根掘り葉掘り、2時間近くも、訊問されました。いわゆる「マネーロンダリング」の疑いがかかったのでした。

 外国送金を依頼するといろいろの注意事項を読まされますが、その中に、「米国OFAC規制の確認」というのがあります。OFACとは米国の財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control ï¼‰ã®ã“とで、外交政策・安全保障上の目的から、米国政府が指定した国・地域や特定の個人・団体などについて講じている、取引禁止や資産凍結などの措置だと記されています。私のようなものもOFACの監視下にあるわけです。

 日本にSSJ(Stand with Syria)という団体があるのを知ってのぞいてみました:

https://standwithsyriajp.com/new/wp-content/uploads/2023/02/SSJ_Emergency_Declaration-NW_Syria-2.pdf

https://syncable.biz/campaign/4228

始めのものは『緊急事態宣言』とあり、どうやらホワイトヘルメット組織と親密な関係にある団体のようです。二番目のものはシリア北西部(アサド政権が支配していない部分)のシリア人の国内避難民への緊急支援金の寄付を訴えるものですが、記事の終わりに、

※別視点にはなりますが、シリア政権は今回の震災を理由に国際援助を求める可能性が大いにあります。主な被災地域は非政権支配地域であり、経済崩壊を迎えているシリア政権としては外貨獲得、資金調達のための好都合な出来事としてこの震災被害を悪用される可能性があるため、国際社会はシリア政権の動きに対して注意深く対処する必要があることをここに付しておきます。

とあります。つまりSSJは米国の側に立って、アサド政権下のシリアの崩壊を目指す団体です。

 政治的支配の云々を問わず、トルコ・シリア大地震のすべての被災者の支援を呼びかける世界の17のアナーキスト団体の集合体による支援金の要請もあります。参加団体のリストは次の通り:

https://anfenglish.com/news/internationalist-anarchist-call-for-solidarity-with-earthquake-victims-65583

☆ Alternativa Libertaria (AL/FdCA) – Italy
☆ Aotearoa Workers Solidarity Movement (AWSM) – Aotearoa/New Zealand
☆ Federación Anarquista Uruguaya (FAU) – Uruguay
☆ Embat, Organització Llibertària de Catalunya – Catalonia, Spain
☆ Libertäre Aktion (LA) – Switzerland
☆ Organisation Socialiste Libertaire (OSL) – Switzerland
☆ Grupo Libertario Vía Libre – Colombia
☆ Karala – Turkey
☆ Corodenação Anarquista Brasileira – Brazil
☆ Die Plattform – Germany
☆ Anarchist Yondae – South Korea
☆ Rusga Libertária – Brazil
☆ Federação Anarquista do Rio de Janeiro (FARJ) – Brazil
☆ Organização Anarquista Socialismo Libertário (OASL) – Brazil
☆ Coletivo Mineiro Popular Anarquista (COMPA) – Brazil
☆ Union Communiste Libertaire (UCL) – France
☆ TekoÅŸîna AnarÅŸîst (TA) – Rojava

ここには日本からの参加は見当たりません。幸徳秋水、菅野すが、大杉栄、伊藤野枝などの伝統を継ぐアナーキストは居ないのでしょうか。

 この記事を結ぶ前に、皆さんに是非覗いて欲しいウェブサイトを紹介します。私はこの貴重なサイトから学ぶのを日課にしています:

シリア・アラブの春 顛末記:最新シリア情勢

http://syriaarabspring.info/?page_id=2

これを開いて、「本ブログについて」をクリックすると

本ブログは科学研究費補助金(基盤研究(B))「現代東アラブ地域の政治主体に関する包括的研究:非公的政治空間における営為を中心に」(課題番号21310157 実施年度2009~2011年度(平成21~23年度) 研究代表者:青山弘之)における研究活動の一環として、開設されました。・・・・・・

とあります。つまり、このブログは日本のアラブ地域研究者・政治学者。東京外国語大学大学院総合国際学研究院(国際社会部門・地域研究系)教授の青山弘之氏が文部文化省から科学研究費を貰って運営しているブログサイトです。

 このサイトの「最新記事」には、この数日の間に夥しい数の(50以上)のシリア関係の記事が立て続けにアップされました。数人がかりの作業だとしてもこれは大変な仕事量です。この記事の奔流は、アサド大統領が2023年2月16日の行ったビデオ演説のトランスクリプトの全文の日本語訳が掲載されてから始まりました。青山氏のおかげで、シリア人民に対するアサド大統領の心からの呼びかけを日本語で読むことが出来ます。ぜひ読んで見てください。これは、自国民を冷血に惨殺する独裁者の声ではありません。青山氏の翻訳は原語からの直接翻訳で貴重なものです。

http://syriaarabspring.info/?p=97853

 しかし、そのことを超えて、私が有難いと感じるのは、反アサド、親アサドの両方のニュースを公平に我々に伝えてくれる点です。文部文化省からのお金の出方を忖度する気配は見えません。青山氏のお考えがプーチン寄りかバイデン寄りかに私は余り興味がありません。ものを研究し、ものを人々に教える学者というものの精神的姿勢を問題にしているのです。メディア報道人や言論人が青山氏の姿勢を見習ってくれることを切に願っています。

藤永茂(2023年2月22日)


これが人間か

2023-02-17 14:42:04 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 プリーモ・レーヴィ著竹山博英訳の『これが人間か』(朝日新聞出版)という本があります。原語のイタリア語タイトルは『Se questo è un uomo』で、イタリア語の知識のない私にははっきりとは意味が分かりません。Stuart Woolf による英語訳では『IF THIS IS A MAN』となっています。この本はアウシュヴィッツ強制収容所から解放されて最初に発表した著作で、人間が強制収容所で直面した極限状態下でどのような様相を示したかを描いたものです。「そうか、これが人間というものか」という断定とも「もしこれが人間というものなら」という暗鬱な悲嘆とも違うように、私には、思えました。

 私はプリーモ・レーヴィという人に強い親近感を抱いています。彼が化学者(自然科学者)、であり、自然科学的認識に信を置いていたこともその理由の一つです。ですが、この話は別の機会にいたします。今は「これが人間か、人間とはこんなにもむごたらしく性悪の生き物なのか」という、老い先短い私自身の、めちゃくちゃ八つ当たりの腹立ちと鉛の様に重い失望を開陳します。

 世界は大嘘つきの政治家たちで満ち満ちています。米国や英国やベルギーで、嬉しそうな偽笑顔を作ってゼレンスキーを迎えている政治家たち高級官僚たちが、そのマスクの下で、本心ではこのコメディアンをどう思っているか、それを想像しただけでも虫唾が走ります。

 大金持ちのソロス輩の言いなりになって、自分の内心では分かっていても本当のことを我々大衆に告げようとしないジャーナリストたちや言論家たちも同じことです。彼らにしてみれば“お呼びがかかるか否か”の問題、身入りの多寡の問題、さらには、“首を切られるか否か”の問題かもしれません。しかし、もともとこうした仕事は、天下に事の真実を告げることに生き甲斐を感じる人々が目指した生業ではなかったのですか?

 この嘘の大洪水の中でアップアップ浮き沈みしている我々は、分かりやすくストレートに真実を語る声に出会うと「アアいいなあ」と喜びの叫びを挙げてしまいます。語り手は、南米コロンビアの副大統領の黒人女性フランシア・マルケス、私のこのブログで二度取り上げた女性です:

『美しい女性』

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/3e024ed3352ac1a45cc31324694b95b8

『コロンビアの歴史的選挙 夜は必ず明ける』

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/6762ae8ddbe7a335d5c5f012823d971a

今度皆さんに是非見て頂きたいのは次の新しい動画です。これはフランシア・マルケスさんが毎年キューバのハバナで行われる国際ブックフェア(書籍見本市)に出席した機会をとらえて、キューバの「Belly of the Beast」という報道機関の黒人女性記者リズ・オリヴァ・フェルナンデスさんが行った独占インタビューの記録です。その主要な政治的メッセージは「米国はこの数十年続けている過酷な対キューバ経済封鎖をやめるべきだ」という事ですが、私がすごく感銘を受けたのは、前半、マルケスさんが黒人として、その容貌、肌の黒さ、頭髪の縮れについて、どんなに、どんな具合に、悩んだかを、ビックリする率直さで語る部分です。実際、大いに驚き、かつ、感動しました。言葉は黒人流のスペイン語ですが、分かりやすい英語字幕がついていますし、たった13分半ほどの長さですから、読み落としたところを読み返すこともすぐ出来ます。是非ともご覧ください。

 会話は、フランシア・マルケスさんの祖母たちがアフリカから奴隷として南米に運ばれてきた事から始まります。苦難は母親の世代、さらにはマルケスさん自身へと受け継がれます。しかし彼女らは決して屈しなかった。画面からは、“In difficult situations, we are able to smile”、“we live and enjoy life to the fullest”、“I think joy is our biggest strength”、“People have used their music, art, culture”、”People are able to live with joy”、といった、今の我々にとってはまるで別世界から聞こえて来るような言葉が読み取れます。

https://libya360.wordpress.com/2023/02/15/belly-of-the-beast-exclusive-interview-with-colombian-vice-president-francia-marquez/

 後半では、キューバの医療面での国際的貢献に対する称揚感謝の言葉が語られていますが、我々日本人の多くは、米国が長年キューバに科してきた残酷な経財封鎖についても、医療面でのキューバの国際的貢献についても、殆ど無知の状態です。今度のトルコ・シリアの大地震でも、キューバは多量の医薬品と医療器具を携えた十数人の医師団を長期的に被災地に送っていますが、大多数の日本人は知らないでしょう。褒めてやれ、とは言いません。せめて事実だけでも報道してもらいたい。米国がアサド政権下のシリアに科している経財封鎖もひどく残酷な殺人的なものです。米国はシリアの穀倉地帯と油田地帯を国際法的に全く不法に占領して、シリアから食料とエネルギーを奪い、その上、食糧や医薬品などの輸入をも阻止しています。そのため多数の犠牲者が、大地震以前に既にシリアでは出ていましたが、我々の内の何人がこの事実を知っていたでしょうか。昔、イラクに対する米国の侵略戦争で、同じ様な事情から、約五十万人の子供たちが犠牲になりましたが、時の米国国務長官マドレーヌ・オルブライトが「それだけの価値はあった」という暴言を吐いた時、それを聞いた国連の事務官三人が抗議を唱えて辞職しました。今の国連にはその気骨さえもありません。ただ国連事務総長が「アサド政権下のシリアにも大地震で被害を受けた地域に救援物資を送るべきだ」と恐る恐る発言しているだけです。国連事務総長も、本当の事情を知っていながら、はっきりと真実を言えない嘘つきの一人に成り果ててしまいました。

 私の想いは、再び、プリーモ・レーヴィに戻っていきます。竹山博英氏の訳書には80頁を超える立派な「訳者解説」がついています。大変有用な解説です。

1987年4月11日、プリーモ・レーヴィは自宅のあった集合住宅の4階の階段の手すりを乗り越えて飛び降り自殺を果たしました。竹山氏の解説(310頁)には

**********

彼は1987年に自死を遂げた。重度の鬱病にかかっていたためだとされている。その鬱病の原因としては多くのことが指摘されている。自分の母の看病以外に、妻の母の面倒も見ていて、疲れ切っていたこと、前立腺の手術の予後が思わしくなく、それを悲観していたことなどである。だがこうしたことと並んで、「アウシュヴィッツの毒」が彼の鬱病を悪化させた可能性は否定できないと思う。

**********

とあります。しかし、私は意見を異にします。プリーモ・レーヴィは実に心の優しい人でした。イスラエルの住民と政府が、原住民として長年住んでいたパレスティナ人達に迫害を加え、その土地から追い出そうとするのをプリーモ・レーヴィは黙視できず、反対の声を上げました。そのためユダヤ人として裏切り者呼ばわりをされてしまいます。これは極限状態下の人間の変貌崩壊(Se questo è un uomo)に立ち会うことではなく、『これが人間か』という直截なストレートな絶望に突き落とされることであったに違いありません。この絶望の故にプリーモ・レーヴィは自らの命を絶ったのだと私は思います。ユダヤ人、ロマ人、心身障害者問題に対する最終的解決策を遂行しようとしたナチスドイツの政治家、思想家、官僚たちは極限状態下にあったわけではありません。言ってみれば、普通の状態の人間たちでした。“banality of evil”です。その悪は今も健在です。

つい最近、次の様なタイトルの記事を目にしました:

Does Israel Seek a “Final Solution for Palestinians?”

https://www.unz.com/pgiraldi/does-israel-seek-a-final-solution-for-palestinians/

 

藤永茂(2023年2月17日)


シリアの人々は今

2023-02-10 20:17:52 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 2月6日早朝(現地時間)、トルコの南東部に震源を持つ大地震が発生して、トルコの南東部、シリアの北西部、北部に甚大な被害を引き起こしています。死者数は、やがて、数万、負傷者数は数十万の規模に膨れ上がることでしょう。一般的な被害者総数は千万人を超えると予想されています。大変な災害です。宗教信仰者ならば、これは何らかの天啓であるとして受け取る人も多いかもしれません。

 現在、シリアの国土の3分の1は米国勢力とトルコ勢力によって、実質上、占領されています。トルコの占領地域はシリアとトルコの国境の北西端のアフリン地域、米国はその東からイラク国境に及ぶ広大な三角形の地域を占領支配しています。トルコの占領面積は小さいので、シリアのほぼ3分の1は全く不法に米国が占領しているわけで、しかも、この地域は元々シリアの農産物と石油の生産地帯であり、米国はその両方をシリア国外にせっせと持ち出して金儲けとシリアのアサド政権いじめを行なっています。米国はシリアのレジーム・チェンジを試みていて、シリアに対して残酷な制裁措置を加えています。その仕組みの中核は次のようなものです。

 シリアの人々が必要とする物資物品をシリアに輸出すると、その生産会社、貿易商社、関連銀行などに脅しをかけて、それが出来なくするようにするのです。このやり方で、食糧を始めとして、医薬品や医療機器や戦禍復興用重機などをシリアが輸入するのを阻害してきました。米国が実質上支配占領している地域でも、米軍当局は、その占領地域の一般住民の生活をよく世話している訳ではなく、食糧や薬品や公共サービスなどの不足はシリアの他の地域と同じような状態で推移してきました。この残忍なサンクションの影響は深刻で、シリアの人々、特に子供たちの、主に食糧難と医療不足による苦難は、もはや、看過できないレベルに達していました。

 ところが今度の大地震です。米国の顔色を伺っている国々は、大っぴらにシリアに対して援助を申し出てはいません。救助隊を送ることもしていません。米国は今からどうするか?シリアの人々に対する殺人的制裁をこのまま続けるのか、それとも、一時的にでもあれ、止めるのか?

 この大地震について、私にとって、最も悲しいことは、トルコ/シリア国境を跨ぐ広大な被災地帯にはとりわけ大きなクルド人人口が分布しているということです。シリア戦争の勃発以前から、エルドアンのトルコ政府は国内のクルド人に対して厳しい同化政策を強行し、一部からは「クルド人のジェノサイド」という声も上がっていました。この数日、「クルド人住民密度の大きな地域にはトルコ政府は救援の手を差し伸べていない」という声がしきりに聞こえてきます。これは大変なことです。人間もここまで堕ちて来てしまったか!?

 トルコ・シリア大地震とクルド問題の連関については日を改めて考えてみます。

<東様へ>お送りいただいた葉書三枚のうち最後の一枚が配達されませんでした。返事を差し上げたいと存じますので、お勤め先の図書館の宛名をお知らせください。

藤永茂(2023年2月10日)