私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

THEY ARE KILLING US(彼等は我等を殺しに殺す)

2019-08-27 23:15:29 | æ—¥è¨˜ãƒ»ã‚¨ãƒƒã‚»ã‚¤ãƒ»ã‚³ãƒ©ãƒ 

 中南米の多くの国で、先住民の社会活動家が毎日のように殺されています。見出し(THEY ARE KILLING US)の原語はスペイン語(Nos Estan Matando)で、さる8月10日に暗殺されたコロンビアの先住民の葬儀で掲げられた横断幕の文字です。先住民所有の土地を収奪して身勝手に使用しようとする農業資本、林業資本、鉱業資本の手先になった殺し屋の仕業です。葬儀の写真を含む次の記事:

https://libya360.wordpress.com/2019/08/14/indigenous-movements-in-colombia-declare-a-state-of-emergency-over-assassinations/

によると、イバン・ドゥケが2018年8月にコロンビアの新大統領に就任してからの1年間に97人の先住民が暗殺され(assassinated, murdered)、多数の負傷者が出ています。先住民社会活動家の暗殺はベネズエラ、ブラジル、ホンデュラスなどでも盛んに行われていて、合計すれば、毎週数人の割合になるでしょう。(彼等は我等を殺しに殺す)は普通の日本語表現ではありませんが、例えば、「走りに走る」という表現が許されるならば、この500年間、ヨーロッパの植民地政策によって、ひたすら続けられてきた先住民殺戮の事実を「殺しに殺してきた」と表現したい強い気持ちが私にはあります。最近こうした殺人行為はとりわけ盛んになり、その報道もしげく行われています。古い方から、いくつか挙げておきます:

https://www.commondreams.org/news/2019/07/30/more-three-eco-defenders-killed-week-2018-while-fighting-protect-wildlife-homes-and

https://www.commondreams.org/views/2019/08/19/remembering-colombian-land-defender-hernan-bedoya

https://libya360.wordpress.com/2019/07/26/protests-planned-across-colombia-in-defense-of-social-leaders/

 いま、先住民とか原住民とか(aboriginal, native, indigenous inhabitants)とか呼ばれる人間たちの動きに私は大きな関心を持っています。「米国人がアメリカ・インディアンにしたのと同じ事を我々はアイヌの人々にしたのだ」と反省するレベルの意識ではありません。何の誇張もなく、ここには、地球上の全人類が醜悪無残な滅亡に向かうのか、それとも、生き残れるのかの命運がかかっていると言いたいのです。

 最近、日本のマスメディアを含めて、ブラジルのアマゾン熱帯雨林での巨大規模の火災が盛んに取り上げられています。前にも引用させてもらったニューヨークの独立放送局Democracy Now!(日本語):http://democracynow.jp

の記事の冒頭部分をコピーします:

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ジャイール・ボルソナーがブラジルのアグリビジネスをつけ上がらせてアマゾンに放火させ先住民を攻撃させるやり方 

アマゾンの熱帯雨林で数千の火事が発生してブラジルとボリビアの一部に甚大な被害を与え、世界最大の熱帯雨林の急激な破壊と破滅的な気候変動に繋がるのではという恐れが高まる中、国連はアマゾンの保護を求めています。山火事は濛々たる煙を南アメリカと大西洋に拡散し、その様は宇宙からも見ることができます。これは有史上で前例のないことであり、環境保護専門家によれば、火事は違法な鉱山業者や牧場経営者によって意図的に放火されて発生しました。ブラジルの先住民は、極右の大統領ジャイール・ボルソナーロがこの破壊活動をけしかけているとして非難しています。ボルソナーロ大統領は今年1月に就任して以来、アマゾンをアグリビジネスや木材業や鉱山業者に開放する規制緩和を進めています。アマゾン・ウォッチ(1996年の設立された熱帯雨林アマゾンとその先住民の権利の保護をめざす非営利団体)の広報責任者であるアンドリュー・ミラーから詳しく聞きます。

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 この放送プログラムの英語元版は

https://www.democracynow.org/2019/8/23/jeff_merkley_us_nuclear_policy_green

で見ることができます。トランスクリプトも付いていますので、ご覧ください。

類似の記事はこの他にも多数ありますが、任意の選択として、一つだけ下に挙げておきます:

https://www.commondreams.org/news/2019/08/25/new-fires-rage-amazon-global-calls-urgent-action-avert-astronomical-impacts-life

アマゾンの熱帯雨林はブラジル、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ボリビア、ペルーなどにも広がっていて、そこに住む多数の先住民たちは、襲いかかってくる暴力に対して、必死の抵抗を試みています。

 ブラジルの現大統領ジャイール・ボルソナーロは、信じられないような悪質の選挙操作を米国(CIA)が行なった結果として生まれた極右大統領であることはこのブログでも報告しました。最近、ブラジルのアマゾンで老女性の先住民指導者が殺害されたニュースも流れました。米国の政治的経済的支配の下にあるエクアドルやコロンビアで先住民殺しがしきりに行われているだけでなく、国家的には反米の立場を持ちこたえているベネズエラでさえも、国内の農業、林業、鉱業資本勢力による熱帯雨林地域の開発で、先住民の土地と人命の破壊が続行されているのです。8月27日の朝日新聞朝刊第一面のG7の記事に「3日間の会議では、サミット直前に国際問題化したアマゾンの森林火災をめぐり、消化活動や森林の持続可能な開発に向け支援することで合意した」とありますが、これは誤報です。ボルソナーロの後ろ盾のトランプ大統領は合意に参加していません。

 私の年代の人間の語彙には「野蛮人(savage)」という語がまだ生きています。savage には「残忍」という意味もあります。アマゾンの大火の動画にも「野蛮人」のイメージに沿った裸体の先住民たちが登場します。そうした人たちも存在するのでしょう。しかし、この人たちは「野蛮人」ではありません。1580年に刊行されたモンテーニュの『随想録』の第1巻第31章「カンニバルについて」は(カンニバルは人食い人種を意味します)、誰が野蛮人かという問題を見事に論じました。誰もが一読に値する先住民論ですが、現在差し迫った理由から、新しい先住民論の出現が切に望まれます。“彼等は我等を殺しに殺す”—— 彼等とは誰か? 我等とは誰か?

 2014年11月19日付けのグログ『アルンダティ・ロイ』で、私はインド人女性作家アルンダティ・ロイ(Arundhati Roy)のことを書きました:

https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/fb29d519cc0e516ac3f1e18fcd3e09c8

そこに引いた彼女の文章を以下に転載します:

「ここインドでは、すさまじい暴力と貪欲のさなかでも、大いなる希望がある。誰かにできることなら、私たちにだってできる。ここには、消費の夢によってまだ完全には植民地化されていない人たちがいる。・・・・・ いちばん大事なことは、インドには一億人ものアディヴァシの人たちがいまだに生存しているということだ。彼ら彼女らは持続可能な生き方の秘密をいまだに知っている。もしこの人びとが消滅してしまえば、その秘密も消えうせる。「緑の捕獲」作戦のような戦争は、彼女たちを消滅させてしまうだろう。だからこうした戦争の実行者に勝利がもたらされることがあれば、それは、自分たちの破滅の種を蒔くことであり、アディヴァシだけではなく、いずれ人類全体の破滅につながる。だからこそ中央インドの闘いが重要なのだ。・・・・・」

ついでに、英語原文も写しておきます:

「Here in India, even in the midst of all the violence and greed, there is still hope. If anyone can do it, we can. We still have a population that has not yet been completely colonized by that consumerist dream. ・・・・・Most important of all, India has a surviving adivasi population of almost 100 million. They are the ones who still know the secrets of sustainable living. If they disappear, they will take those secrets with them. Wars like Operation Green Hunt will make them disappear. So victory for the prosecutors of these wars will contain within itself the seeds of destruction, not just for adivasis but, eventually, for the human race. That’s why the war in central India is so important. ・・・・・」

ここでアディヴァシと呼ばれているのはインド中央部の広大な森林丘陵地帯に主に住んでいる先住民的な人々で、単一の民族の呼称ではないようです。人口一億といっても、インドの総人口は12億ありますから、約8%です。

 この稀有の女性作家アルンダティ・ロイに、人類全体を破滅から救う方途を指し示す「先住民論」をぜひ書いて貰いたいと私は思います。彼女は次のようにも書いています:

「The corporate revolution will collapse if we refuse to buy what they are selling – their ideas, their version of history, their wars, their weapons, their notion of inevitability… Remember this: We be many and they be few. They need us more than we need them…Another world is not only possible, she is on her way. On a quiet day, I can hear her breathing.」

「企業の目指す革命は、彼等の売っているもの、つまり、彼等の考え方、彼等が捏造した歴史、彼等の戦争、彼等の武器、彼等が不可避だと考えること、などなどを買うことを、もし、我等がきっぱり拒否したら、崩壊するだろう。・・・肝に銘じておこう:我等が多勢で、彼等は無勢なのだ。我等が彼等を必要とする以上に、彼等には我等が必要だ。・・・もう一つの別の世界は可能であるだけではない、もうそこまでやってきている。静かな日には、彼女の息吹が私の耳には聞こえる。」

 

藤永茂(2019年8月27日)