私の闇の奥

藤永茂訳コンラッド著『闇の奥』の解説から始まりました

シリアは米国の「シーザー法」によって滅ぼされた

2024-12-20 21:28:27 | æ—¥è¨˜
 シリアは「シーザー法」と略称される米国の残忍極まりない経済制裁によって滅ぼされました。「シーザー法」のことが、シリアの崩壊についての報道や論説にほとんど現れないのは、大いに注目しなければなりません。このシリアの人々に対する残酷な制裁の正式の名前は「シーザー・シリア市民保護法」です。何と悪臭に満ちた欺瞞的名称ではありませんか。今、ネット上に見られる諸々の解説では「シーザー法」の本当の姿がわかりません。シリア市民の腕をねじ上げ、首を締め上げて、アサドのシリアから離反させようとした、この悪魔的制裁の真の恐ろしさ、真の残忍が白日の下に曝される日が、あまり遠くない将来、必ずやってくると私は信じています。

 現時点で、バッシャー・アル=アサド氏を弁護しても一文の得にもなりません。私が正論を唱える言論人だと思っていた人たちの多くも「シリアの独裁者アサド」という言葉遣いをしています。次に紹介する論考の著者二人も過去のアサド贔屓の論調を展開していたことの自己弁解をしているのかもしれませんが、我々が、読者として、よく読み込めば、シリアの崩壊の真相が見え始めてくるように、私には、思えます。表題は

Evaluating Bashar al-Assad’s Human Rights Record in Syria


できたら読んでみて下さい。

バッシャー・アル=アサド氏は、いわゆる政治家ではありません。普通の人です。奥さんも、物理学者になることを目指している息子も普通の人です。

ロバート・フィスクという尊敬すべきジャーナリストが居ました。残念ながら4年前に亡くなってしまいましたが、生きていれば、シリアで何が起こったかを教えてもらいたかった第一番の人でした。近いうちにこの人の事をお話しします。

藤永茂(2024年12月20日)

バシャール・アル=アサドの声

2024-12-18 21:44:09 | æ—¥è¨˜

 シリアの前大統領バシャール・アル=アサドの声明(statement)が出ました。こうした場合にこうした地位の人物が発する声明としては些か異様な響きがあるように、私には感じられます。それで、「声明」ではなく、「声」としました。強かな政治家の父親が死に、それを継いだ兄もまた病死したため、英国で歯科医としての研鑽を積んでいたバシャール・アル=アサドは突然祖国シリアに帰って大統領になりました。私はその頃から、この人物の発言を無数に聞いてきました。
 以下に訳出した声明は、個人的なブログとして発表されたもののようです。The Cradleというウェブサイトから転載されたものです。内容については、次回のブログ記事で論じます。


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「テロがシリア全土に広がり、最終的に2024年12月7日土曜日の夜にダマスカスに到達すると、大統領の運命とその居場所についての疑問が生じた。これは、国際テロをシリア解放革命として見かけを作り替えることを目的とした、真実とはかけ離れた誤った情報や言説が氾濫する中で起こった。
国家の歴史において真実が優先されるべき重要な局面で、こうした歪曲に対処することが不可欠だが、残念ながら、安全上の理由による完全な通信遮断など、当時の状況により、この声明の発表は遅れた。これは、起こった出来事の詳細な説明に代わるものではない。詳細はそれができるようになる機会が訪れた時に提供されるであろう。
第一に、私のシリアからの出発は計画されたものではなく、一部の人が主張しているように、戦闘の最後の数時間に起こったものでもなかった。それどころか、私はダマスカスに残り、2024年12月8日日曜日の早朝まで任務を遂行した。テロ勢力がダマスカスに侵入したため、戦闘作戦を監督するためにロシアの同盟国と連携してラタキアに移動しました。その朝フメイミム空軍基地に到着すると、わが軍がすべての戦線から完全に撤退し、最後の軍陣地が崩壊したことが明らかになった。この地域の現場状況が悪化の一途をたどり、ロシア軍基地自体も無人機による攻撃の激化にさらされた。基地を離れる有効な手段がないため、モスクワ政府は基地司令部に対し、12月8日(日)の夜にロシアへの即時避難を手配するよう要請した。これはダマスカス陥落の翌日、最後の軍事陣地が崩壊し、その結果として残っていたすべての国家機関が麻痺したことを受けて起こった。
これらの出来事が起こっている間、私はいかなる時点でも辞任や避難を考えたことはなく、またいかなる個人や政党からもそのような提案はなかった。唯一の行動方針は、テロリストの猛攻撃と戦い続けることだった。
戦争の初日から、国家の救済を私利私欲と交換したり、数々の申し出や誘惑と引き換えに国民を危険にさらすことを拒否した人物は、最も危険で熾烈な戦場でテロリストからわずか数メートルのところにいる最前線で軍の将校や兵士とともに立っていた人物と同一人物であることを、私は改めて断言する。戦争の最も暗い時期に、14年間の戦争中、爆撃や首都へのテロリストの侵攻の度重なる脅威の下でテロと対峙しながら、国民とともに家族とともに立ち去らずに留まった人物と同一人物だ。さらに、パレスチナとレバノンでの抵抗を放棄したことも、味方してくれた同盟者を裏切ったこともなかった人物が、国民を見捨てたり、所属する軍や国家を裏切ったりする人物と同一人物であるはずがない。
私は個人的な利益のために地位を求めたことは一度もない。常に、シリア国民の信念に支えられ、そのビジョンを信じる国家プロジェクトの管理者であると自負してきた。これまで、私は、シリア国民が国家を守り、その機関を守り、最後の瞬間まで自らの選択を貫く意志と能力を持っていると、揺るぎない信念を抱いてきた。
国家がテロの手に落ち、意義ある貢献をする能力が失われた時、いかなる地位も目的を失い、その地位は無意味なものとなる。しかし、これは、いかなる立場や状況にも揺るがないシリアとその国民への私の深い帰属意識を弱めるものではない。それは、シリアが再び自由で独立した国になるという希望に満ちた帰属意識である。」

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藤永茂(2024年12月18日)

『天網恢恢疎にして漏らさず』への追加

2024-12-15 21:34:03 | æ—¥è¨˜

このサイトを開けると、The Islamic House of Wisdom(IHW)という、米国にあるイスラム宗教団体の諸記事を見ることができます。その「おすすめ」のトップに

Imam Elahi's response to Netanyahu's message to the Iranian People

という、この在米イスラム宗教団体の主導者Imam Elahiの激烈なネタニヤフ批判(非難)の講演があります。是非、この人の語るところを聞いてください。

藤永茂(2024年12月15日)

天網恢恢疎にして漏らさず

2024-12-15 20:24:33 | æ—¥è¨˜
The Unz Review・An Alternative Media Selection というウェブサイトがあります。12月9日付で、シリアを論じた記事が出ました。主な点は、今後、トルコのエルドアン大統領がどう出るかという事ですが、私はその書き出しのところに注目しました。


Turkish Opportunism and Multipolarity In Syria
ERIC STRIKER • DECEMBER 9, 2024

私は次に引用し訳出する文章の内容を補填すればシリアという国で何が起こっていたかを良く理解できると考えます。

(原文)
The fall of Bashar al-Assad’s government in Syria marks a turning point. Prior to the start of the 2011 civil war, Syrians were among the most highly educated people in the Arab world. Syria’s flourishing middle-class, high quality universities, and advanced pharmaceutical industry allowed them to punch above their weight class in influencing the Middle East. As a middle power, Assad’s Ba’athist social-nationalist government sought to retain good ties with all players, including the United States at one point, though its commitment to combating Zionist expansionism ultimately led to its targeting for destruction by the very United States it had sought to keep good terms with.
With Iran and Russia behind it, Syrian forces emerged victorious over Zionist backed Islamist forces in 2018, but this victory was incomplete and led to a period of stagnation in the country. Syria has been unable to recover from the brain drain wrought by the exodus of educated professionals — teachers, physicians, engineers, etc — to Europe and Turkey. The strict sanctions regiment imposed on Syria by the United States and other Zionist powers has made it difficult for the state to participate in global commerce, leading to economic isolation and stagnation. A culture of corruption and cynicism has flourished under the weakened and demoralized Assad, seen everywhere from organized crime groups recruiting the country’s unemployed chemists to become the region’s top producer of crystal meth and Captagon, to the sad display of Syrian Arab Army forces unable to move tanks and airplanes to confront rebels due to their commanders having stolen and sold all the fuel.

(日本語訳)
シリアにおけるバシャール・アル・アサド政権の崩壊は転換点を示している。 2011年に内戦が始まる前は、シリアはアラブ世界で最も教育水準の高い人々の国の一つであった。シリアの繁栄する中産階級は、質の高い大学と先進的な製薬産業のおかげで、シリアを、ボクシングに例えれば、その重量階級を超えて中東にパンチを与えることが出来る国にした。ミドル級の国として、アサド政権のバース党社会国家主義政府は、一時は米国を含むすべての関係国との良好な関係を維持しようとした。しかし、シオニストの拡張主義と闘うという政府の一貫した方針は、最終的には、まさに、アサドのシリアが良好な関係を保とうとしていた当の米国による破壊の標的となる結果をもたらした。
イランとロシアの後押しを得て、シリア軍は2018年にシオニスト支援のイスラム主義軍に勝利を収めたが、この勝利は不完全で、国内を停滞期間に導いた。シリアは、教育を受けた専門家(教師、医師、エンジニアなど)のヨーロッパやトルコへの流出による頭脳流出から立ち直ることが今日まで出来なかった。米国および他のシオニスト勢力がシリアに課した厳しい制裁によって、同国が国際貿易に参加することが困難になり、経済的孤立と停滞につながってしまった。弱体化して意気消沈したアサド政権下では汚職とシニシズム(犬儒主義)の文化が栄えるようになり、組織犯罪集団は国内の失業中の化学者を集めて結晶覚醒剤とキャプタゴンの地域最大の生産者に成り上がり、シリア・アラブ軍といえば、司令官たちが全てのガソリン燃料を盗んで売却したので、反体制派に立ち向かうための戦車も航空機も動かせないという悲惨に陥ってしまったのだ。

<ここからは私の考えによる、上掲の記事への、訂正と補填です>

(1)シリアの擾乱は内戦ではありません。
(2)上に、「米国および他のシオニスト勢力がシリアに課した厳しい制裁によって、同国が国際貿易に参加することが困難になり、経済的孤立と停滞につながってしまった。」とあります。私たちは「シーザー・シリア市民保護法(略称シーザー法)」なるものを十分理解しなければなりません。シリアという国は、その住民に対して、外から課せられた残忍な経済制裁によって、絞殺されたのです。サダム・フセインのイラクでは、米国主導の経済制裁で50万人のイラクの子供達が死にました。米国国務長官になったオールブライトは「それだけの値打ちがあった」という歴史的大失言をしました。これについては、私の2010年年末のブログ記事「マドレーヌ・オールブライトの言葉」を読んでください。


「シーザー法」については、青山弘之氏による2020年6月6日日付の詳しい解説があります。


この記事とともに、青山氏の次の記事もお読みください:


(3)イラクが亡ばされ、リビアが亡され、今度は、シリアが亡されました。2005年の愛知万博、「愛・地球博」を憶えていますか?その「リビア館」を見ましたか?カダフィのリビヤは、色々の意味で、見事な国でした。

今の私の脳裏には、「神も仏もあるものか」という情けなくも凶暴な声もありますが、一方では「天網恢恢疎にして漏らさず」という言葉や、人間の傲慢(ヒューブリス)に対するギリシャ女神ネメニスの神罰への想いも浮かびます。

藤永茂(2024年12月15日)

シリア哀悼

2024-12-11 12:47:59 | æ—¥è¨˜
 バッシャール・アル=アサドが懸命に維持しようとしたシリアという国に対する哀悼の気持ちを胸に抱く人間は、勿論、私だけではないことが、日を追って明らかになりつつああります。私のブログは微々たる存在ですから、個人名を挙げても御迷惑をおかけすることにはならないと思いますので、個人名を挙げさせていただきます。これまで、青山弘之氏から実にたくさんの事実を学んできました。感謝しています。また、トルコ・シリア大地震(2023年2月6日)の際に、シリアに対する支援を阻もうとした米国の意向に逆らって、支援行動を実行したジャイカの中にもアサドのシリアの実態を知っていた人々がいたに違いありません。

 惜しくも崩壊してしまったシリアについて、最近のいくつかの発言を紹介します。


このVanessa Beeleyという女性ジャーナリストの報道と発言もこれまで長い間フォローしています。


この記事の中に極めて注目すべき動画があり、その中の発言者シリア在住のジャーナリストKevork Almassianは、この数年月の間に急に成長を遂げたニュース解説番組Syrian Analysisの主宰者です。ご存知なかった方々は次のサイトをあけてみて下さい。


ここには100を超える過去の報道動画が挙げられています。興味を持った動画をクリックしてアルマシアン氏の言うことを聞いて見てください。
一部の報道によると、イスラエル空軍は崩壊後のシリアの各所を数百回にわたって爆撃しているようです。その表向きの言い訳がなんであれ、何でもないで普通の人間たちが多数殺されているのは明白です。

藤永茂(2024年12月11日)