1. 基本コンセプト:秩序輸出論(Order‑輸出論)
劉仲敬は「西洋の国際秩序」がどのように東アジアにもたらされ、中国や周辺地域でどのように再生(=輸出)されたかを、1912年以降のおよそ百年間を通じて追跡します。本書では、
秩序の輸入:ウェストファリア体制以降、植民地化や不平等条約、国際連盟・国連体制など西洋発の国際制度が東アジアに持ち込まれたプロセス
秩序の輸出:中国や日本、共産主義運動が独自の「大帝国」モデルを再輸出し、周辺地域や内陸アジアに影響を及ぼしたプロセス
という双方向の流れを「秩序輸出論」として体系化し、従来の一方向的な「西洋化論」を批判的に改編しています
本書は序論+10章+結論で構成され、主な論旨は下表のとおりです。
章 節題の例 主な議論
序論 歴史神話の解体 東アジア史に残る「神話」を洗い出し、秩序輸入/輸出モデルの必要性を説く
第1章 秩序輸出論の理論モデル 秩序の流れを「入力→再構築→再輸出」という三段階のメカニズムとして提示
第2~3章 不平等条約と立憲運動 清末の列強侵入と、中華民国成立後の憲政・立憲論を「西洋秩序の部分輸入」と捉察
第4章 国民政府の模倣と限界 国民党政権における米英「外交・情報システム」の導入と、その矛盾
第5章 暗躍する世界革命 20世紀前半、コミンテルン/レーニン主義が東アジアに「革命秩序」を輸入した事情
第6章 世界革命の失敗 冷戦末期のソ連・中国・米台間の「非公式同盟」と、台湾戦略地位の低下を分析
thinkingtaiwan.com
第7章 冷戦体制の安定と裂け目 『台湾関係法』以降の米台中三角関係を、「秩序の柔性規訓」と捉える
第8章 改革開放と秩序の再輸出 鄧小平以降の中国が「市場経済+自党支配」をセットで周辺に拡散した構造
第9章 新大国の興隆と東アジア秩序 21世紀初頭の中国台頭を、再び「大帝国モデル」の輸出兆候として描く
第10章 多元連合体としての未来 「諸夏主義」の萌芽を示し、東アジアの多元的秩序共存の可能性を展望
結論 歴史神話の刷新 中国の建国神話と党国語りを脱構築し、新たな地域秩序を提示
3. キー・セクションの詳解
◇ 第6章「世界革命の失敗」
主張:レーニン主義・スターリン主義の「世界革命」モデルは、社会を敵―味方に切り分け、一気呵成の破壊と軍拡を標榜したため、結局は内部消耗を招き、外部への拡張も継続できず頓挫した。
台湾戦略地位の低下:1970年代、米中ソの三角関係で台湾は米国秩序の「柔性規訓(技術支援・情報協力)」に依存するだけの立場に転落。南ベトナムと同様に「前線国家」から外され、戦略的価値を大きく失ったと解説します 。
◇ 第8章「改革開放と秩序の再輸出」
主張:鄧小平以降、中国は市場主義と一党支配を「パッケージ輸出」し、途上国や内陸アジアで「経済的自由+政治的統制」モデルとして受け入れられた。
意義:ソ連型共産主義とは異なる「中国モデル」の国際的地位を確立し、東アジア秩序に新たな亀裂を生む。
主張:東アジアを複数の「文明圏(夏)」が緩やかに連合する多元的秩序として再編する可能性を探る。これが後の「諸夏主義」理論の根拠になります。
4. 本書の意義
歴史神話の脱構築:従来の「中国一貫史観」「西洋単線的近代化論」を批判し、歴史を多層・多元的に再読解
地域秩序の相互依存性:西洋と東アジア、中国大陸と海洋諸国の相互影響を「秩序の輸入/輸出」で可視化
劉仲敬(リュウ・チュウケイ)とは? 劉仲敬は中国出身の歴史学者、思想家、作家であり、東アジアの歴史・民族問題、政治思想に関する独自の視点で知られています。特に「中国史の...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 《民國紀事本末》(2013年) いわゆる「共和国時代」の出来事を時系列に整理しつつ、従来の教科書的な叙述を批判的に再解釈した作品。史実の列挙にとど...
1. 基本コンセプト:秩序輸出論(Order‑輸出論) 劉仲敬は「西洋の国際秩序」がどのように東アジアにもたらされ、中国や周辺地域でどのように再生(=輸出)されたかを、1912年以降の...
劉仲敬は《遠東的線索》のなかで、日本を次のように位置づけています。 西欧秩序の最初期の「輸入国」 – 明治維新以降、日本はいち早く欧州のウェストファリア体制(主権国...
劉仲敬(リウ・ジョンジン)の著書《中國窪地:一部內亞主導東亞的簡史》は、漢族中心の「中国史観」を根底から問い直し、「中国」とは本来「窪地(デプレッション、Basin)」であり...
1. 全体構成 本書は大きく5部構成(+序論・結論)で、古代から20世紀までの「滿洲(満洲)」地域をめぐる勢力と、その中で生まれた「満洲国」――20世紀の民族・国家発明――を一...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬と従来の中国反体制派の違い 項目 従来の中国反体制派(民主派・自由主義派) 劉仲敬の主張 中国の国家観 既存の「中華人民共和国」を民主的に改...
諸夏主義(しょかしゅぎ)とは? 「諸夏主義」は劉仲敬が提唱した概念で、中国大陸を「単一の中華民族国家」としてではなく、複数の独立した文化圏・文明圏(=夏)からなる連合体...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬から見た日本の特徴と位置づけ 1. 日本は独自の文明圏(「夏」の一つ)として捉える 劉仲敬の「諸夏主義」の枠組みでは、中国大陸以外の地域も...
https://anond.hatelabo.jp/20250727121621 劉仲敬は、日本を「アジアのイングランド」として捉える 「帝国システムからの脱却」 — ヨーロッパでは、神聖ローマ帝国の解体(1648年のウェス...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬から見た台湾の位置づけと評価 1. 台湾は独立した「夏(文明圏)」の一つ 劉仲敬は台湾を中国大陸の一部として一律に扱うのではなく、歴史的・...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬から見た香港と反送中デモ 1. 香港は独自の文明圏(「夏」の一つ)として捉えられる 香港は歴史的に中国本土とは異なる植民地時代を経て、独自...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬が語る中国が民主化できない理由 1. 中国は多民族多文明の連合体であり単一民族国家ではない 中国は「中華民族」という単一民族で統一された国...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬の米中対立観 1. 米中対立は単なる国家間の力関係ではない 米中対立は単なる二つの大国の争いではなく、文明圏や政治体制、価値観の衝突である...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬の考える「脱中華」とは? 1. 「中華」の枠組みを根本から疑い解体すること 劉仲敬は「中華」や「中華民族」という概念を政治的な神話・プロパ...
~ワイの脱中華~ 「昨日もラーメン、おとといもやがな…😔」 「よっしゃ、今日はココイチにしよ!😋」
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 劉仲敬思想と日本の反中保守派の相性・補完性 1. 共通点:対中批判・警戒の姿勢 劉仲敬は中国の中央集権的な大中華主義や中華民族統一神話を強く批...
https://anond.hatelabo.jp/20250727120239 日本・台湾・香港・アメリカの反中言論人の違い 項目 日本の反中言論人 台湾の反中言論人 香港の反中言論人 アメリカの反中言論人 主な動機・背景 安全...
https://anond.hatelabo.jp/20250727122739 項目 劉仲敬の特徴 反中言論人(日本・台湾・香港・米国)との違い 相性・補完性 思想的深さ・視点 歴史的文明圏論、多民族多元連合体「諸夏主義」重視...
日本の反中言論人との相性 日本の保守派言論人は、安全保障や経済・技術の現実的リスクを重視し、「中国」という単一の大国モデルに立脚して警戒を表明します。一方で劉仲敬は中国...