服部茂幸 『偽りの経済政策-格差と停滞のアベノミクス』岩波新書 のでたらめ その1
ひどい本です。経済学者を名乗るのに、「経済学の基礎基本」を理解していません。想像ですが、学部は他学部で、院だけ経済学部なのかもしれません。
例)学部は工学部・経営学部・法学部・政治学部etc 大学院が経済学部
そんなヒトはごろごろいますが、みな、「基礎基本=土台」を学んでいないので、やってること・言ってることが、ムチャクチャになります(本人自覚なし)。
例えは変ですが、用心棒あがりや格闘技の経験がない「プロレスラー」は、ガチンコ(真剣勝負)だと、アマレスや柔道や相撲出身の「同業者」には、歯が立たないようなものでしょうか?
一見「華やか」に見えても、中身は所詮「シナリオのある興業=パフォーマンス」にすぎません。本当は、本物の格闘技者には手も足も出ません。
では、間違い点を挙げていきましょう。
1.
まえがきP5
アベノミクスと日銀の金融緩和…デフレ脱却にも、実体経済の復活にも失敗した。
2.
まえがきp7
筆者の考える政策評価の基準は次の四点である。
1 目標を達成したかどうか
2 目標が持続的に達成できているかどうか
3 より大きな目標を阻害してないかどうか
4 どのような経路で目標が達成できたのか
ここで筆者は、1消費者物価は上がっていない、2雇用の回復は政策の成果ではない、3企業利益の回復もその増加はわずかだとして、
「p9アベノミクスの成果と言えるものは存在しないのである」
と言います。
この教授、「マクロ経済政策とはそもそも何か? 何を目標にしているのか?」を全く理解していません。マクロ経済政策とは、次のことです。
齋藤誠他「マクロ経済学」有斐閣2010 p646
マクロ経済学の最大公約数的な考え方。実際のGDPが潜在GDP(筆者注:日本の持つ労働者や工場などの生産資源を過不足なく使った供給力)を下回る不況、その場合、財政政策や金融政策のマクロ政策によって、実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げることは、理論的にも実証的にも正当化できる。しかしマクロ経済政策には、潜在GDPを増大させる効果がない。
井堀利宏 「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」 KADOKAWA 2015p204
拡張的な財政金融政策によっては、長期的にはGDPを増加させることは不可能になります。総需要を刺激する財政金融政策は短期的な効果はあっても長期的な効果はないのです。
マクロ経済政策の目標は、
「実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げること」
です。つまり、潜在GDP=完全雇用の達成のことです。
日本の現在の状況は、失業率が2.8%とか3.1%の水準であり、すでに完全雇用状態=潜在GDP水準を達成できている状態です。
ですから、経済成長=GDP増をどんなに望んでも、この「完全雇用GDP=潜在GDP」を超える成長は不可能です。これが供給制約です。
数研出版 現代社会 p231
…景気の拡大はやがて壁にぶつかる。景気拡大を制約し、好況から景気の後退へと転換させる要因には、生産能力の上限などがある。また労働の供給や原材料の供給の制約によっても、生産活動の拡大は止まる。
滝川好夫 「超超入門ミクロ経済学+マクロ経済学」 泉文堂 平成24年 第2部p20
日本経済を車に例えて言えば、潜在成長率は日本経済という車がフルスピードで走った時の速さです。潜在成長率(フルスピード)を決定しているのは、労働投入量、資本投入量、TFP(全要素生産性:技術)の3つです。
しかも、動かせるのは、「総需要AD」であり、総供給=実際のGDPや潜在GDP(垂直のAS曲線)を動かす方法など、経済学のどこを探してもありません。当然ですが、「マクロ経済政策の目標」には「物理的にできない」のです。
P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009
経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかということや、経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない。
日本の潜在成長率は、0.8%程度です。
「内閣府 月例経済報告(平成29年6月14日更新)」
すでに、業種によっては「人手不足倒産」も生じている状態です。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1707/10/news136.html
「人手不足」による倒産、17年上半期は大幅増の49件
2017年上半期(1月~6月)に従業員の離職や採用難など人手不足が原因で倒産した企業は、前年同期比44.1%増の49件だった。集計結果が40件を超えるのは、13年の調査開始以来初めて。
業種別では、4年半累計で「建設業」(105件、36.2%)がトップ。「サービス業」(92件、31.7%)も多く、この2業種で全体の7割弱を占めた。
日本は、もうフル・スピード状態に突入しているのに、
まえがきP5
アベノミクスと日銀の金融緩和…デフレ脱却にも、実体経済の復活にも失敗した。
p9アベノミクスの成果と言えるものは存在しないのである
「p203
「…初めの予想通り、異次元緩和は経済復活にもデフレ脱却にも失敗したと、最終的に結論することができる」
P68
アベノミクス下の日本経済は危機もないのに低成長と言う異常な事態を迎えている。
P175
アベノミクスの真実は単純である。…デフレ脱却にも、実体経済の回復にも失敗した。
「高度経済成長なみ、中国なみの成長を達成しないと、成功したとはいえないんだ!」と定義するのでしょうか?
http://jp.reuters.com/article/imf-g20-outlook-idJPKBN17K29B
2017年 04月 19日 03:31 JST
ロイター
IMF、17年の世界経済成長見通し3.5%に引き上げ 保護主義を警戒
17年の日本の成長率見通しは1.2%で、1月時点から0.4%ポイントの上方修正。ユーロ圏と中国は1.7%と6.6%を見込んでいる。ともに0.1%ポイント引き上げだった。一方、米国の見通しは2.3%に据え置いた。
一方で、
「P205
…現在の日本経済は緩やかな回復傾向にある。経済成率は1%程度で低いが、プラス成長だから、この認識は間違っているわけではない」
「p15 そして、ほぼ完全雇用が実現したために、経済成長の余力がなくなり、現在の低成長が生じているのである」
P68
それは日本経済に成長余力がなくなっている結果であって、これからも持続する可能性が高いであろう。
と言います。
しかも実は、日本の成長は、「実はすごい」とも言います!
P52
2000年代からの日本の経済成長は人口1人当たりで見れば、アメリカに匹敵する。しかも日本で人口が増加しているのは老人である。現役世代(15-64歳)人口1人当たりの経済成長ならば、日本の方がアメリカよりも高くなる。この事実は今では欧米の経済学者の間では広く受け入れられている。
何を言いたいのか、さっぱりわかりません。
本当に、大丈夫でしょうか?
<中高の教科書でわかる経済学 ミクロ篇 書評>
坂上二郎ラモ
素晴らしい内容。ねちっこいくらいに中学高校の教科書類を丁寧に引用して、解説を加えていく手法は類書を見ません。もっと詳しく説明して欲しいというところもありますが、時事問題から経済モデルの説明をするスタイルはかなり好印象です。図表の意味の説明などはもっと言葉を尽くして説明してくれる方が判りやすいだろう。誤植の多さ、本の紙圧の選択の拙さも含め、もう一工夫出版社には期待したいけど…是非お勧めしたい1冊。巻末付近の「政府の失敗」は加計の「問題化」の愚かしさを知る上での基礎知識が得られます。それだけでも必読だ。