菅首相「第3の道」その3
『増税を財源に雇用を拡大』
菅首相の言う「第3の道」は、増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策だ。
首相によれば、「第1の道」は、道路やダム建設など公共事業を通じた需要拡大策で自民党政権の伝統的手法だ。「第2の道」は規制改革を掲げ、小さな政府を目指した小泉内閣の構造改革路線だ。
「第1の道は国の借金を増やした。第2の道は企業の効率化がリストラを招き、格差社会を生んだ」として、首相はどちらも失敗と評価している。
小野善康 阪大社会経済研究所長
…失業率が10年以上も高止まりしている今の日本で供給サイドの潜在成長率を高めれば失業率はさらに悪化する。デフレと雇用不安を引き起こして消費がさらに落ち込むし税収も減る。それが小泉構造改革が失敗した原因だ。
…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。
<経済学的には・・>
小野善康 阪大社会経済研究所長
…そもそも何が成長産業であるか確定的に判別できることなどないのではないか。
この「第3の道」「増税で得た財政資金を社会保障等の成長分野に投入をすることで雇用を拡大し、成長につなげようという一連の政策」について、前回、「政府ではなく、市場」を拡張する必要があることを述べました。
「政府が財政支出をすれば、その分だけGDPは増加します」が、「成長」は、公的規制分野(医療・介護分野)からは、生まれないからです。
識者はどのように考えているのでしょうか。
小林慶一郎 経済産業研究所 日経『経済教室』H22.6.17
…医療や介護の需要はますます大きくなる。医療介護施設などの建設ニーズや必要とされる労働力も膨大になる。そのために財政支出を社会保障分野に重点的に回すという菅政権の考え方は適切である。
…しかし、医療や福祉分野への財政投入が雇用を生み出して経済成長をもたらす…という議論は大いに疑問である。
…医療・介護分野が成長産業になることを阻害している最大の問題は、この分野が政府による資金補助と統制を受けていることである。政府が医療・介護人材の報酬額を規制で低く抑え、高価格でのサービス提供を制限しているために、看護師、介護士などの人材が慢性的に不足し、サービスの供給が不足している。
…医療、介護分野での新規参入や価格設定の自由度が上がれば、市場メカニズムにしたがってサービスの供給が増える。
…要するに、財政支出を社会保障に重点配分することは重要だが、それと連動して、医療福祉分野の規制緩和(参入と価格設定の自由度の拡大)が本筋の課題であろう。
続いて、社会保障政策の専門家です。
鈴木亘 学習院大学 社会保障論・医療経済学・福祉経済学
『社会保障で成長 疑問』日経H22.6.18
…増税して社会保障を手厚くしても、一般の産業に回っていたお金が引き上げられるだけだ。…医療や介護が産業として伸びているのは自律的ではない。…安い税金が入っているので、安い料金で提供できる。自動車や電機のような産業と違う。…経済成長のけん引役とするのはおかしい。
…公共投資や環境対策は先々に生きる投資だが、医療も介護も消費して終わる。社会資本として蓄積しないので投資効果はない。
…規制緩和などで体を鍛えて基礎体力を上げるべきだ。…公費をどんどん入れるのではなく、対価を得るようにすることだ。…現状分の公費は仕方ないが、これから増える分は自己負担で賄うべきだ。
…混合診療を解禁したらどうか。最低限の医療、サービスは保険で用意するが、それ以上のサービスは全額自己負担にし…自己負担の医療・介護が増える分には…自律的な経済成長となる。
…負担に悲鳴を上げる人には勤労者税額控除などで直接支援し、実質的に負担が増えないようにすればいい。
市場メカニズムを導入すれば(官製市場ではなく)、伸びる業界のようです。
介護・保育分野も、規制漬けです。
参考文献 鈴木亘『サービス拡大への規制緩和』日経H21年3月16日
介護分野の参入規制 介護保険開始以降も自治体・医療法人・社会福祉法人以外参入できない
保育所の待機児童が、「2009年4月現在で25,384人であり、半数が首都圏(東京、神奈川)に集中している:出典ウィキペディア」そうですが、これは認可保育園における、待機児童数で、民間保育園(無認可)には、誰でも入れます。
ただし、無認可は「高い」のです。一切、補助金が入っていないからです。認可保育園は、「公費」で運営されます。ですから、「安い」のです。
さらに、認可保育園は、「公務員」で運営されている公立保育園があり、給与は、「民間私立保育園」の倍~数倍もらっています。
民間保育園の保育士の給与の安さは、つとに有名です。
「補助金」を投入するところは手厚く、「未認可」には、補助金を入れない。これが「官製市場」なるものの実態です。
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