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<憲法について、学んでみる その4>

<憲法について、学んでみる その4>

 「小さな政府論の蹉跌」という連載で、「法律(憲法)・人権」について扱ってきました。この憲法について、高校で教えられている内容を再確認したいと思います。
 
憲法は、基本法中の基本法ですが、実は案外、知られていないことも多いのです。

<クイズ>

<回答・解説>は、下にあります。

質問 

 問題となる規制の様態が「事前抑制」に当たり、なおかつ、最高裁判例の趣旨に合致しているものはどれか、○×で答えましょう。

1 

外国から輸入しようとしたわいせつな表現が含まれている場合、これを税関が輸入禁制品として没収するのは、違憲である。




裁判所が、仮処分の形で、名誉棄損的表現を含む書物の出版を前もって差し止めるのは、当事者に十分な意見陳述の機会が与えられていれば合憲である。




新しく小売市場を開設しようとするものに対して、既存の小売市場との距離が接近していることを理由に、知事がこれを不許可とするのは違憲である。




勤務時間外に公務員が支持政党のポスターを公営掲示場に貼りに行った行為を、公務の政治的中立性を理由に処罰するのは合憲である。




高校の日本史の教科書を執筆し、その出版を企てるものに対して、国があらかじめその内容を審査し、記述の変更を求めるのは、違憲である。



<教科書無償配布>

第26条2項
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育はこれを無償とする。


 小学校・中学校の教科書は、現在、無償で配布されています。私立中学では、もらったとたんに捨てられる運命にあることもあります。私立校は、独自の(別な)教科書を使用するからです。配布された教科書は使用しないのです。

 例えば、ある自治体で、財政難から、この教科書無償配布を止めたとします。これは憲法第26条「義務教育の無償」に対して「違憲」でしょうか「合憲」でしょうか。

 正解は、「合憲」です。教科書無償配布は、「義務教育はこれを無償とする」に違反しないのです。

事件名

義務教育費負担請求事件


争点

義務教育期間中の教科書代金を国が負担すべきであるとしている児童の保護者が原告となり、訴えた。


判決要旨

「義務教育を無償」とする憲法26条2項は、授業料を徴収しないことを意味するものである。教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものではない。 
最高裁大法廷昭和39年2月26日




 違憲ではありません。無償は、授業料のことなのです。ですから、家庭科の実習費は、徴収されています。

 逆に、余裕があれば高校の教科書を、自治体が無償で配るのも構いません。

 教科書の無償配布は、「サービス」でやっているのです。2年前からの「高校授業料無償化」と本質は同じなのです。いずれも、財政的に厳しくなったら、法律改正で取りやめることができるのです。

もっとも前者予算は395億円、後者は4500億円ほどです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901/013.htm
 無償給与 13.教科書無償給与の仕組み


<回答>

1 ×

 税関検査事件と言われるものです。

 最高裁判例の趣旨にあてはまりません。最高裁は、税関検査につき、「一般にそれらの表現物は国外で発表済みであり、税関でそれらが没収・廃棄されるわけではなく検閲とはいえない(最高裁 S59.12.12)」と、「違憲」であるとはしていません。
 
 これは、外国図書などの輸入(といってもわいせつな本)に関して、税関が審査し、「輸入禁止」の措置をとることは、「検閲」にあたるかどうかを巡っての裁判です。

 最高裁判断は、「すでに諸外国で発表されている」ものであり、税関は「思想・内容等」を対象として規制する機関ではなく、「検閲」に当たらないというものです。



2 ○

 いわゆる、「北方ジャーナル」事件です。事前抑制に当たり、かつ最高裁判例に合っています。裁判所が仮処分の形で名誉毀損的表現を含む書物の出版を前もって差し止めるのは「事前抑制」です。

 しかし、最高裁は、「公共的事項に関する表現に対しての仮処分による事前差止めには、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経なければならない(最高裁S61 .6 .11)」とし、予(あらかじ)め十分な意見陳述の機会が与えられていれば、合憲となるとしています。

 また、差し止めているのは「裁判所」であり、「行政」が主体となっていないので、「検閲」ではないとしています。



3 ×

 すでに前回のブログで解説した、小売市場事件です。
事前抑制に当たらず、最高裁判例にも合っていません。「事前抑制」とは、表現行為を規制する、表現の自由に対する制約をいいます。

 小売市場開設に対する不許可処分は、営業の自由に対する制約であって表現の自由に対する制約ではないので、「事前抑制」ではありません。また、最高裁は、小売市場開設に対ずる規制(距離制限)を違憲とはしていない(最高裁47.11.22)ので最高裁の判例にも合っていません。



4 ×

 猿払事件といわれています。公務員の政治的中立について、争われました。

 事前抑制に当たりません。最高裁は、「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼の確保という規制目的は正当であり、その目的のために政治的行為を禁止することは目的との間に合理的関連性があり、禁止によって得られる利益と失われる利益との均衡がとれている」ことを示し、合憲である(最高裁49.11.6)としています。

 ですが、ここで問題となる規制は、そもそも表現される思想内容自体を審査し、この発表を事前に禁止するものではないため、いわゆる「事前抑制」に当たらないと考えられます。



5 ×

 家永教科書訴訟といわれる事件です。教科書について行われる、「教科書検定」は「検閲」にあたり、違憲ではないかと争った一連の訴訟です。

 最高裁判例の趣旨に合っていません。第一次教科書裁判上告審(最高H5.3.16)において「一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの牲質がないから、検閲に当たらない」とし、教科書検定を違憲であるとはしていません。

 それは当然で、教科書としてダメでも資料集や、一般図書として販売することを規制しているわけではないからです。一般本としては「でたらめ日本史」「ギャグ日本史」でも売れればかまいません。

<おまけ>

日経H23.8.7『中外時評 マードックの教訓』

 5年前に東京地裁が出したひとつの決定をいまも時折思い出す。以下のような内容だった。

 公務員は仕事で知った秘密を漏らしてはいけないと法律が定めている。その秘密をメディアが報じたら、公務員が法を犯した結果なのだから、加担した記者は取材源を明かさねばならない。取材源を明かすと以後は公務員の協力が得られなくなるだろうが、それで公務員に守秘義務違反がなくなるのなら結構な話ではないか-。

 もちろんメディアは徹底的に批判した。その後、東京高裁が地裁決定を取り消して記者の取材源秘匿を認めたから、東京地裁の判断にはいまやなんの法的な力もない。

 …特段の事情がなければ取材源の秘密は守られねばならないこと。こうしたことには最高裁もお墨付きを与えている。

 国民の「知る権利」に奉仕するための報道の自由は必要であり、報道の自由は表現の自由と表裏一体の関係にある。そのことも最高裁が認めている。
 

 さて、「取材源の秘匿」や「記者の証言拒否」について、最高裁はどのように判断しているのでしょうか。



 問題 ○×で答えましょう。

 取材の自由は取材源の秘匿を前提として成り立つものである。医師そのほかに刑事訴訟法が保障する証言拒絶の権利は新聞記者に対しても認められる。

答え ×

 石井記者事件
 
 その取材源について司法権の公正な発動について必要不可欠な証言の義務まで犠牲にして証言拒絶の権利まで保証したものではない(最高裁S27.8.6)。



問題 ○×で答えましょう。

 取材の自由は、表現の自由を規定した憲法第21条の保護のもとにある。

答え ×


事件名

博多駅テレビフィルム提出命令事件


内容

 昭和43年1月、アメリカ空母の佐世保寄港阻止の闘争に参加した学生約300人が福岡の博多駅に降りた際、警察の警備規制を受け、公務執行妨害罪で逮捕、起訴された。
その裁判で、福岡地裁が、事件を撮影したテレビ局に対し、裁判の証拠として用いるため、撮影したフィルムの提出を命じた。


争点

取材フィルムの提出を命じることは、取材の自由を侵害し、違憲ではないか。


判決要旨

 報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するもので、報道の自由は憲法第21条の保障の下にある。 

 このような報道機関の報道が正しい内容を持つためには報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法第21条の精神に照らして十分尊重に値するものと言わなければならない。  

 しかし、この自由も公正な裁判の実現のために制約を受け、諸般の事情を比較衡量した結果、裁判所が報道機関に対し、取材活動によって得られたものを証拠として提出することができる場合もある(最高裁S44.11.26)。




 報道の自由については、憲法第21条の保障の下にありますが、取材の自由については「十分尊重に値する」もので、直接第21条の保障の下にあるとは、されていないのです。

theme : 政治・経済・時事問題
genre : 政治・経済

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