なぜ、物価が上がらないのか?
<なぜ、物価が上がらないのか?>
2017年11月01日16:19
池田信夫
社会保険料が消費を浸食する
きのう総務省が発表した家計調査速報によると、9月の実質消費支出は前年比0.3%の減少で、2014年から減り続けている。これが日銀がいくらお金をばらまいても、物価の上がらない原因だ。これを安倍首相は消費増税のせいだと信じているようだが、それは誤りである(2016年家計調査年報)。
池田信夫によると、物価が上がらないのは、消費が増えないからだそうです。相変わらず、何を言っているのかさっぱり分かりません。
実質GDPは増えています。


生産GDPを買ったのは、家計+企業+政府+純輸出(外国)です。企業にとっては、生産したモノ・サービスを家計が買おうが、企業が買おうが、政府が買おうが、かまいません。
家計消費はGDEの60%を占めますが、その家計消費が減り続けているから物価が上がらない・・・など、支離滅裂です。
さて、本題です。
基本的に物価はプラスであれば構いません。2%目標は「目標」です。日本・英ではTargetとされています。ECBはdefinition、米ではGoalです。しかし、目標ではありますが、2%目標を掲げた金融政策そのものは「手段」です。
マクロ政策の最大の目的は「供給>需要」時の「経済の回復」です。アベノミクスは十分に合格点です。
目的 経済回復
↑
手段 金融政策
↑
金融政策の目標として 2%物価上昇率

ここで、基礎基本を押さえましょう。マクロ政策にできるのは、「需要」を伸ばすことであり、「供給GDP」を増やすことはできません。もしも「GDPを増やす政策」がこの世に存在するなら、発展途上国などあっという間にこの世からなくなります。「需要と供給」は別物です。そこが、一般の人には理解できないところのようです。
「供給=需要」という均衡式(グラフは式を図式化したものです)であって、需要→供給、あるいは供給→需要という「因果関係」など、ありません。

「需要をコントロールできれば、経済はうまくいく」は、1960年代前半に死滅したケインジアン政策です。もう、50年以上前に終わった話です。
参照 拙著 図解使えるマクロ経済学
中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇
P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009
経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかということや、経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない。
齋藤誠他「マクロ経済学」有斐閣2010 p646
マクロ経済学の最大公約数的な考え方。実際のGDPが潜在GDP(筆者注:日本の持つ労働者や工場などの生産資源を過不足なく使った供給力)を下回る不況、その場合、財政政策や金融政策のマクロ政策によって、実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げることは、理論的にも実証的にも正当化できる。しかしマクロ経済政策には、潜在GDPを増大させる効果がまったくない。
井堀利宏 「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」 KADOKAWA 2015p204
拡張的な財政金融政策によっては、長期的にはGDPを増加させることは不可能になります。総需要を刺激する財政金融政策は短期的な効果はあっても長期的な効果はないのです。
松尾匡
2014.05.29 Thu
ケインズ復権とインフレ目標政策――「転換X」にのっとる政策その2
ケインズ政策が高度成長を前提しているなどという誤解のもとには、働く人手や機械や工場などの生産能力の成長と、モノやサービス全体が売れる量(総需要)の成長とを混同しているところがあると思います。ケインズ嫌いの新自由主義政策が目指したのは、生産能力の成長の方(「サプライ・サイド」)です。それに対してケインズ政策が目指すのは、失業が出て生産能力が余っている状態から、失業者が雇いつくされた状態までもっていくことです。そのために、完全雇用の天井にぶつかるまでは総需要を成長させますが、成長自体が自己目的ではありません。
世界中の経済学の教科書を調べても、「GDPを増やす方法」という項目はありません。「財政政策と金融政策で総需要Yを拡大させる(原因)と、総供給Yが増える(結果)」のなら、日本の場合、毎年毎年、政府支出を50兆円ずつ増やしていけば、毎年毎年10%の経済成長が、自動的に達成できてしまいます。
そんなことは、この世にありません。
GDP(生産量)を増やすには、①ヒトの投入量を増やすか、②設備の投入量を増やす(機械化など)か、③生産性を上昇させるかしかありません。公共投資(政府予算拡大)をすれば③生産性上昇する!など、バカか?という話なのです。
さて、本題に戻ります。
デフレは100%悪=投資Iに影響です。ですから、少しでもインフレになっていることが大事です。インフレでありさえすればいいのです。
※ 不況は、投資Iの増減によります。消費Cは好不況で変動しません。不況だから家賃や電気ガス水道の光熱費を減らしたり、病院・薬サービスを減らしたりなどできないからです。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h28/h28_kaku_top.html
内閣府 国民経済計算
フロー編
Ⅴ.付表
(12) 家計の目的別最終消費支出の構成

不況はケインズが見つけたように投資Iの増減で起こるのです。ですから、不況の場合、減った投資Iに代わって、政府投資「財政政策」+民間投資回復のための「金融緩和」なのです。
インフレ・ターゲットの2%目標は、1%台~3%台のインフレを示します。世界共通です。
ですが、米もEU圏も日本も、インフレ率が上がりません。米FRB議長イエレンは、「コナンドラム(謎)」と言っています。

フリードマンがマネタリズムを提言したのは、固定相場制末期、そして人類初体験の「変動相場制」に移行した時期でした。未経験の変動相場制が、どのような体制になるのか、誰も予測できない状況でした。
固定相場制の時代であれば、インフレの原因は簡単にわかりました。

マクロの市場は
①財・サービス市場
②労働市場
③貨幣/債券市場
の3つです。③の貨幣/債券市場について、③貨幣市場④債券市場と分ける場合もあります。
この3つは、「均衡(バランス)」しています。「一般均衡」です。
※ このバランスが崩れたのが、大恐慌でした。ケインズはその原因は③市場にあると分析しましたね。
参照 拙著 図解使えるマクロ経済学
中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇
均衡(バランス)は、「固定相場制」=閉じた世界での話です。

フリードマンがケインジアンを責めたのは、「裁量による金融政策」です。少しでも経済成長が滞ると、為政者は「財政拡大」と「金融緩和」を求めます。実際に民主党政権下、財政と金融緩和は拡大し続けました。
※もっとも当時は、経済(GDP)はコントロールできるものと考えられていました。
その結果、
①財・サービス市場
②労働市場
③貨幣/債券市場
の③市場だけが拡大したのですから、バランス(均衡)が崩れます。その崩れがインフレという形になって顕在化しました。

ですからフリードマンは、金融の拡大についてはk%ルールを唱えました。GDPのk%拡大と貨幣市場のk%拡大を一緒にしろ!という政策です。「預金準備率100%」も唱えました。
固定相場ですから、インフレは各国に普及します。日本の場合、360円、308円の上下1%以内にしなければいけなかったので、アメリカのドルが安くなれば(米の金融量拡大)、日本も当然金融緩和をしなければなりません。結果、アメリカのインフレは固定相場制の下、世界中に波及しました。

これが「固定相場制」です。

その後、固定相場制が放棄され、フリードマンが主張した「変動相場制」が取り入れられることになりました。
そうすると、フリードマンでさえ予測できない「世界」になったのです。フリードマンは、マネタリーベースとマネーストックM1の関係を分析し、k%ルールを提言したのですが、変動相場制になると、マネタリーベースとマネーストックM1に一定の相関関係が見られなくなってしまいました。これは当然です。
<変動相場制下の合理的行動>
変動相場制で、企業はどのような合理的行動をとるでしょうか?
1ドル=100円だとします。今、1万ドルの車をアメリカで販売します。100万円です。
固定相場制であれば問題ありません。ところが、変動相場制で「円高」になると、大変なことになります。
半年後、1ドル=50円になると、本当は100万円売り上げがあるところ、50万円しか入ってきません。
輸出入企業は、自社の経営計画を、こんな不安定な相場に任せておくことはできません。
そこで登場するのが、「先物取引」です。あらかじめ6か月後に100万円手に入るように、為替予約(オプション)しておきます。
相手もいます。「1ドル=200円」のドル安になったら困る企業です。
さらに、今の相場「直物取引」と「先物取引」をセットにするスワップという金融商品が登場します。この商品は状況によって使ったり使わなかったりします。1ドル=100円が、1ドル=200円の円安になれば、1ドル=100円のスワップ権利は使わない方がトクです。
東洋経済オンライン 2017.11.8
トヨタは…2018年3月期の営業利益…1500億円増額の2兆円となる業績予想を発表。…為替を円安方向に見直したことが効き、利益を押し上げた。…為替だけで…1750億円の増益…。さらにスワップ評価損益も含めると利益押し上げ効果は1900億円に上る。…為替が1ドルに対して1円動くだけで利益は約400億円も変動する。
このように、変動相場制になると、為替取引は実物取引(輸出入)の倍になります。最低限でも2倍です。これで輸出入企業は、為替変動のリスクを抑えることができます。
韓国と取引している企業は、ウォン円取引、円ウォン取引に加え、ドルウォン取引、ウォンドル取引、円ドル取引ドル円取引を加えます。こうすると、円・ウォン相場がどのようになっても、為替のリスクを完全に封じ込めることができます。倍々・・・になります。
このようにして、「為替取引額>実物取引額」になります。このように、リスク・ヘッジするための取引が商品化し、デリバティブ市場を作り出しました。
※ このオプション取引・スワップ取引があるので、円を借りてドルで投資するキャリートレードが可能になります。金利の低い国で借りて、金利の高い新興国に投資できるのです。金融緩和した円→新興国投資に回るのです。
今日の、日本のデリバティブ市場取引は、1日あたり559億ドル(16年4月:BIS統計)であり、取り引き残高は58兆ドル(17年6月末:日銀)、世界残高は493兆ドル(15年:BIS)となっています。

金融市場の動きは、フリードマンの予測を超えるものになりました。経験や実証研究が積み重ねられ、マクロ経済の変動を、すべてマネーで説明することには、無理があることが分かりました。フリードマンは、M1だけを指標に「インフレ率を予想しては外す」ということを繰りかえしてしまいました。

1980年代は、新たな金融商品が登場し、貨幣の波及経路が増え、マネーストックM1とかM2だけに焦点を当てるのは、難しくなったのです。貨幣と、貨幣に近い資産(債券や、デリバティブ商品)との移転が簡単になり、貨幣そのものの希薄化が進み、貨幣は金融政策の現場や理論において、注目されなくなったのです。
フリードマンのとなえた、「マネーサプライを安定化させれば、マクロ経済は安定する」というマネタリー・ターゲットは、資本の自由化の下では、結局、実現できませんでしたね。
しかも、為替取引には、実物取引以外、今や「金利差」や「国際間の株・債券取引」も加わります。日本の場合、株と国債だけの取引に限っても、貿易輸出額(70兆円)の18倍、1248兆円です。

この株や国債を買うにも、「為替取引」が必要です。その結果、日本市場の為替取引は、実物取引の235倍!、世界市場でも91倍の取引量となっています。

日本

世界


この凄まじい為替取引の結果、世界の「金融資産」は、固定相場制時代には
実物資産1:1金融資産
で対応していましたが、現在の日本では、
実物資産1:2.5金融資産
になっています。

世界では、金融資産残高は、GDPの3.21倍です。

このような資本取引の時代に、1国の中銀だけで、金融市場をコントロールなどできません。1985年のプラザ合意(主要中銀の為替介入)の再現など、絶対にできません。
<為替市場で起こるインフレ>
市場という超巨大な為替取引で、インフレ(自国通貨安)など、簡単に起こってしまいます。


この実質と名目の乖離はインフレです。(これだけのインフレになると、逆に金融引き締め政策を取らざるを得ません)。世界の市場から「見捨てられた」のです。アルゼンチンは、巨大な財政赤字を補うため、物価連動債まで発行しています。
2015年12月為替を自由化→2016年初頭に30%ほどペソが切り下がり。輸入品の価格が上昇。
公共料金と賃金のアップ。
公共料金の補助金を削減し、それまでの約40%アップ、17年末にその約40~50%アップ。
労働組合が強いアルゼンチンでは賃金の上昇率も高。
国債発行は加速。公共料金の補助金削減で国民に負担をかけているため、急激な供給量減少にならず。
.Domingo 03 de Diciembre de 2017
EL CRONISTA

小国だけではありません。英国もEU離脱以後、ポンド安・インフレに見舞われています。
サイモン・レン=ルイス「イギリスで利上げすべきでない理由: 手短に」
2017年10月31日 by optical_frog Leave a Comment
木曜に金融政策委員会が利上げするだろうと誰もが予想している.そんなことをすれば,失敗になるだろう.金利変動をめぐる報道の議論は,通例,経済状況に関する大量のデータやグラフが盛り込まれる.ここでは,その反対のことをやりたい:つまり,イギリスでいますぐ利上げするのが過ちだということを理解するのに必要最小限のことだけを提示したい.
目下イギリスのインフレ率がだいたい 3% になっているのは EU離脱によるポンド安が理由だという点は,誰もが知っておくべきだ.
服を買わなくなったイギリス人 —— イギリス経済に何が起こっているのか?
Jim Edwards
Apr. 10, 2017, 06:15 PM
最近変化したのは、インフレ率だ。インフレが存在しない経済では、低賃金でも成り立つ。ここ数年、イギリスでは特段のインフレは発生していなかったが、ブレグジットによってポンド安が加速。突如インフレ率が2%を超えた。イギリスのインフレはさらに進行すると予測されている。

このポンド安・インフレは、英中銀が「金融緩和」して生じたわけではありません。
イギリスは、利上げに動きました。
英中銀:政策金利0.5%に上げ、7対2で決定-約10年ぶり利上げ
Lucy Meakin
2017年11月2日 21:24 JST 更新日時 2017年11月2日 21:58 JST
日本が突如インフレになる・・・・ゴジラが現れ、東京・名古屋・大阪を壊滅させたときでしょうか・・・。
2017年11月01日16:19
池田信夫
社会保険料が消費を浸食する
きのう総務省が発表した家計調査速報によると、9月の実質消費支出は前年比0.3%の減少で、2014年から減り続けている。これが日銀がいくらお金をばらまいても、物価の上がらない原因だ。
的外れなのがお分かりでしょう。
おまけ
日本では、物価は「消費者物価指数」以上に、確実に上がっています。値段は変えずに「量」を減らすというものです。
食品でもそうですね。ハムやチーズやお菓子まで・・・。価格は上げずに量が減る・・・これも値上げです。
https://forbesjapan.com/articles/detail/17108
David Schrieberg
英国ではこの商品のほか、練り歯磨き、トイレットペーパー、チョコレートクッキーなど、何千もの商品(正確には2525品目)が、過去5年の間に価格は据え置かれる一方で「縮小」している。
英国民は、「シュリンクフレーション(shrinkflation)」に直面している(「shrink」は縮む、の意味で「flation」はインフレーションの語の一部)。つまり、消費者は少ない量の商品に、これまでと同じ金額を支払っている。そして、この現象は5年ほど前から続いている。
同局によると、2012年1月~2017年6月までの間、英国の消費者物価指数はほとんど変化していない。だが、調査対象の商品カテゴリーのうち、「砂糖、ジャム、シロップ、チョコレート、菓子」だけは大幅に変動していた。
また、ブレグジットの決定以降、英国の通貨ポンドが下落したこともあり、食品会社は輸入コストの増加分を何らかの方法で相殺する努力をしている。商品を小型化することは、その方法の一つだ。
http://blog.esuteru.com/archives/20020450.html
Twitterのハッシュタグ「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」が話題に
値上げされたり内容量が少なくなった食品の実例が挙げられる
※ ただし、インフレ・デフレは通貨価値の上昇・下落をいうので、個々の物価の話ではないことに注意。
<アベノミクスの成果 課題は目の前>
