基礎基本 需要と供給 「需要を増やせば供給が伸びる」ことなどない。
2015年 入試問題 早稲田商学部
需要量をQd、供給量をQs、価格をPとする。ある市場における重要曲線供給曲線は次のように表されるとする。
需要曲線 Qd=20-2P
供給曲線 Qs=2+P
この需要曲線と供給曲線は与えられた価格に対する消費者と生産者の反応を示している。この式から例えば、価格が1単位上昇すると需要量は A することがわかる。需要曲線と供給曲線が交わる点では価格に対応する需要量と供給量が等しくなる。ここで決定される市場価格は B 価格と呼ばれることもある。市場で決定される価格は C 、数量は D となる。何らかの理由で価格が市場価格とは異なることがある。今価格が4であると使用この時、 E の状態となっている。市場メカニズムによると、 E の状態となっている時には F する。このような市場の働きを G の法則と呼ぶ。
市場メカニズムの基本的理解を問う問題です。
需要曲線 Qd=20-2P
供給曲線 Qs=2+P
通常はこれだけで問題を解きますが、分かりやすいようにグラフも入れましょう。
需要量の変化を求める場合は、需要曲線の式に値を代入して変化を求めます。
例)P=1のときQdは18です。P=2のときQd=16ですから、2単位減少します。Pの係数が-2であることからも導けます。
例) 連立方程式を解けば、Qd=QsとなるPが求められます。
例) Pが与えられれば(P=6)、QdまたはQsに代入して求めることができます。
例えばP=4であれば、Qd=12、Qs=6となり、Qd>Qs、すなわち超過需要であることが分かります。
<需要増と供給増は別物>
供給増=需要増ではありません。需要と供給は別物です。
需要増→需要曲線右シフト→供給増ではありません。
需要と供給の一致する点は、「均衡点」であり、今の需要と供給がその点になくても、市場は存在しています。失業の場合は均衡点をずれて、下記のようになっています。
実質賃金高どまり=失業が多い状態
アベノミクスで、実質賃金が低下し、失業率が改善したのです。
<総需要管理政策=需要曲線をシフトさせる>
このように、需要を増やす場合には、下記の式はこうなります。
需要曲線 Qd=20-2P +2
供給曲線 Qs=2+P
需要曲線をシフトさせる(需要を増やす)ことはできますが、供給曲線をシフト(供給を増やす)ことはできません。
ここで、基礎基本を押さえましょう。マクロ政策にできるのは、「需要」を伸ばすことであり、「供給GDP」を増やすことはできません。もしも「GDPを増やす政策」がこの世に存在するなら、発展途上国などあっという間にこの世からなくなります。「需要と供給」は別物です。そこが、一般の人には理解できないところのようです。
「供給=需要」という均衡式(グラフは式を図式化したものです)であって、需要→供給、あるいは供給→需要という「因果関係」など、ありません。
「需要をコントロールできれば、経済はうまくいく」は、1960年代前半に死滅したケインジアン政策です。もう、50年以上前に終わった話です。
参照 拙著 図解使えるマクロ経済学
中高の教科書でわかる経済学 マクロ篇
P・クルーグマン『経済政策を売り歩く人々』ちくま学芸文庫 2009
経済学者は、どうすればハイパーインフレーションを避けられるかといった助言は確実にできるし、不況の回避方法も、たいていの場合教えることはできる。しかし、貧しい国をいかに豊かな国にするかということや、経済成長を再現させるにはどうしたらよいかといった問題に関する解決策はいまだにない。
齋藤誠他「マクロ経済学」有斐閣2010 p646
マクロ経済学の最大公約数的な考え方。実際のGDPが潜在GDP(筆者注:日本の持つ労働者や工場などの生産資源を過不足なく使った供給力)を下回る不況、その場合、財政政策や金融政策のマクロ政策によって、実際のGDPを潜在GDPにまで引き上げることは、理論的にも実証的にも正当化できる。しかしマクロ経済政策には、潜在GDPを増大させる効果がまったくない。
井堀利宏 「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」 KADOKAWA 2015p204
拡張的な財政金融政策によっては、長期的にはGDPを増加させることは不可能になります。総需要を刺激する財政金融政策は短期的な効果はあっても長期的な効果はないのです。
松尾匡
2014.05.29 Thu
ケインズ復権とインフレ目標政策――「転換X」にのっとる政策その2
ケインズ政策が高度成長を前提しているなどという誤解のもとには、働く人手や機械や工場などの生産能力の成長と、モノやサービス全体が売れる量(総需要)の成長とを混同しているところがあると思います。ケインズ嫌いの新自由主義政策が目指したのは、生産能力の成長の方(「サプライ・サイド」)です。それに対してケインズ政策が目指すのは、失業が出て生産能力が余っている状態から、失業者が雇いつくされた状態までもっていくことです。そのために、完全雇用の天井にぶつかるまでは総需要を成長させますが、成長自体が自己目的ではありません。
世界中の経済学の教科書を調べても、「GDPを増やす方法」という項目はありません。「財政政策と金融政策で総需要Yを拡大させる(原因)と、総供給Yが増える(結果)」のなら、日本の場合、毎年毎年、政府支出を50兆円ずつ増やしていけば、毎年毎年10%の経済成長が、自動的に達成できてしまいます。
そんなことは、この世にありません。
GDP(生産量)を増やすには、①ヒトの投入量を増やすか、②設備の投入量を増やす(機械化など)か、③生産性を上昇させるかしかありません。公共投資(政府予算拡大)をすれば③生産性上昇する!など、バカか?という話なのです。
ですから、「財政支出すれば、経済成長する」は、完全に間違いです。
①需要を伸ばせば供給が伸びることなどあり得ない。
②財政出動(財政赤字)しなくても、成長する。
また、日本の財政予算は、一貫して増えています。だまっていても社会保障費が毎年1.5兆円増えているからです。
<財政黒字でも、赤字でも>
PBを黒字化させ、なおかつ日本より成長している国があります。ドイツです。
https://jp.reuters.com/article/de-fiscal-surplus-idJPKBN16222D
ドイツ財政黒字、昨年は統一後最大 税収増や雇用拡大など寄与
[ベルリン 23日 ロイター] - ドイツ連邦統計局が23日に公表した、2016年の同国財政黒字は237億ユーロ(250億ドル)と、1990年の統一以降最大を記録した。
税収が大きく伸びたほか、雇用が拡大し、債務費用も低く抑制したことが追い風となった。
黒字の内訳は、連邦政府が77億ユーロ、州・地方政府は合わせて78億ユーロ、社会保障基金は82億ユーロ。
メルケル首相は記者会見で、連邦政府の黒字規模について「むしろ小幅」と指摘した。難民関連支出にあてるほか、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国に公約した通り防衛支出を一段と増やす方針だ。
メルケル氏は「同時に新たに債務を増やしたくない。このため(政策)余地はむしろ限られる」とも述べた。
PBが「改善・黒字化」すると、景気が低迷するのではありません。
S-I(貯蓄超過)=G-T(財政赤字)+X-M(貿易黒字)ですから、別に、G-Tがゼロやプラスになっても、GDPが減ったり増えたりするわけではありません。貯蓄超過は、財政赤字か貿易黒字になるという、ただそれだけのことです。
ドイツは財政黒字ですが、日本より成長しています。財政赤字(財政出動)にしなければ成長しないなど、あり得ません。
現在の日本は「需要>供給」状態に突入しています。
グリーンスパンFRB議長 1987年8月
「常にインフレを抑え、株価を上げ、ドルの安定や低金利、雇用増を実現できる人がいればありがたい」