「このままでは日本のIT(情報技術)の未来は、かなり危うい」――。大手銀行やクレジットカード会社で大規模システム開発プロジェクトのプロジェクトマネジャー(PM)を歴任した船串 文夫氏が、危機的状況にある日本企業のIT部門、IT業界の問題点とその原因を、厳しく論じる(編集部)。
原因4:「ユーザーが決めて下さい」と受け身に終始する
一般的にシステム開発プロジェクトでは、ユーザーサイド(ユーザー企業)が業務要件を提示し、それを基にシステム開発サイド(システム部門やITベンダー)がシステム要件を固め、次工程である設計に入っていく。ところが、あまりにユーザーの声を重視しすぎる傾向がある。
最終的には「ユーザーが言っているのだから……」と、最初からシステムサイドの責任回避をするつもりではないかと、うがった見方さえ浮上する。
仮に、最終的に決めるのはユーザーサイドであったとしても、システムサイドからもっと積極的に情報提供をすべきだし、同様の効果が期待できる別の手法を提言すべきであろう。後に「もっといろいろと情報提供してくれれば、判断も変わったはずなのに」などと言われることがないようにしたい。
例えば、ユーザーサイドからシステム構築案件の申請があった時点で、以下のような検討や提言が必要だ。
(1)新規にシステムを作ることなく既存のシステムを有効活用できないか、システムを改修する場合は微修正ですませられないか、という観点で、ユーザー企業や所管の業務部門と交渉する。
(2)どうしても新規開発が必要だったら、類似のケースでも活用できるよう汎用化やパラメータ化の発想を加えたシステムにする。
(3)システム運用や保守を考慮して、ユーザーサイドの業務端末から各種登録・テーブル変更といった情報入力が可能なシステムの作りをしておく。
ハッキリ言って、ユーザー企業や業務部門はシステムサイドと比較するとシステム的な意味でいうところの「周り」が見えていない。そう考えた方が、判断を間違えない。
さらに言うなら、本来は開発案件が初期段階、つまり“柔らかい”段階からの相互コミュニケーションが必要である。お互いの考え方、その背景、今後の動向を十分把握することが、よいシステムを作る第一歩である。
要するに、ことシステムの話になったらシステムサイドから積極的に発言し、本来どうしたいのか、またはどうすべきであるのかといったあたりから、ユーザーサイドをリードしてほしいのだ。
ややオーバーに言えば、システム部門が泥をかぶるくらいの気概を持ってユーザーサイドからのシステム開発ニーズを仕切る必要があろう。さまざまなリアクションは覚悟の上でだ。自社にとって、自社のシステムにとってどんな状況が望ましいのかを考えた結果なのであれば、一切譲るべきではない。