茂木敏充衆議院議員は7月20日、都内で開催された「IT Japan 2006」の特別講演で、日本が今後取るべきIT戦略の方向性を示した。そのなかで茂木氏は、北米と欧州の間で流通する情報量の多さに比べ、両地域とアジアの間で流通する情報量が少ない現状を指摘。世界の中でのアジアのプレゼンスを上げるためにも、日本を含めたアジア共通のIT戦略を立案し、さらに各国の情報化を促進することで経済発展を支援すべきだと語った。
IT担当大臣を務めた経験もある茂木氏は、日本における次の三つの課題を解決するために、ITは大いに力を発揮するという。
一つ目は、個人の生活の質の向上や、企業の生産性向上である。特に茂木氏が問題だとするのは、国内ではまだ企業の7割以上がITを、部門を超えて活用できていないこと。企業全体、あるいは企業の枠を超えて取引先などと協業する形でITを有効活用している米国に比べ、日本の企業のIT活用は大きく遅れているという。この問題を解決する一助とするため、政府は今年度、企業のIT利用を促すための情報基盤強化税制を創設したと茂木氏は説明する。これは、高度なセキュリティが確保された情報システムの投資に対して10%の税額控除、50%の特別償却を認めるものだ。
二つ目は、社会的な課題を解決すること。特に医療、教育、電子政府、情報セキュリティなどの課題に重点を置く。これは政府が今年1月に発表した「IT新改革戦略」に基づくものである。
医療分野では、電子カルテを普及させて過去の診断データを複数の医療機関で利用できるようにする。また、全国規模の保健医療情報ネットワークを構築し、個人情報に配慮しつつ数多くの医療データを収集できるようにして治療法研究などに役立てる。さらに2011年度の早い時期にレセプトを完全にオンライン化する。こうした施策を実施することで、医療事務などにかかるコストを年間1500億から2000億円削減できるという。
電子政府については、2010年度までに利用率を50%以上にすることを目標に、政治が毎年利用状況をチェックする。情報セキュリティについては、今年2月に策定した「第1次情報セキュリティ基本計画」がベースになるという。
三つ目は、日本の国際競争力を強化し、国際政策を展開すること。この6月に政府は、経済産業省主導で、産学官連携の国産検索エンジン研究開発プロジェクト「情報大航海プロジェクト・コンソーシアム」の設立を決定した。そのほかにも、仮想化技術を利用した統合プラットフォーム、情報漏えいや不正アクセスを監視するといった機能を備えたセキュア・プラットフォームの開発を後押しする。
また、茂木氏は国際政策に関して、日本、ベトナム、タイといった国々が戦略的に連携し、アジアのITの共通基盤や標準を作っていくべきだという。同氏は、「2006年以降の戦略は“e-Japan”ではなく“e-Asia”だということを提唱していきたい」と、講演を締めくくった。