中国の国策について聞きたい。2006年の「ITU TELECOM WORLD」は,ジュネーブではなく香港での開催だった。これは,中国政府の強い意向だったのか。
開催地を決めた7年ほど前,中国は「ICTの覇権国家になる」と意気込んでいた。大げさな言い方だと思っていたが,大臣クラスが大挙押しかけてきた。ジュネーブのホテル事情が悪いこともあり,香港を選ぶことにした。香港に行ってみて驚いたのは,現地で政府幹部が勢ぞろいしていたことだ。中国は,大きな政策の下に動いていることがよく分かった。
中国の台頭を示すエピソードがある。JTEC(海外通信・放送コンサルティング協力)が受けているアンゴラの案件だ。アンゴラでJTECは,中国政府のネットワークの仕事を請け負っている。
実は,アフリカ全土の光ファイバ・ネットワークは,ほとんど中国が構築している。その見返りとして,石油や希少金属などの資源を手に入れる。すべて政治案件で進んでいるので,日本企業が行っても売れない。
10年前に,アフリカで地域版のTELECOMショーがあったとき,日系企業の出展者数はゼロだった。現地で出展していたファーウェイ・テクノロジーズの社員に「自国に大きな市場があるのになぜここに来る」と聞いてみた。答えは「我が社は,世界でビジネスをしようとしている。ここに来るのは当たり前」だった。
帰国して,日本のメーカーの社長に聞くと「もうからないので,行かない」という。それが,今やどうだろう。JTECを通じて中国のプロジェクトの下請けをやっている状況だ。
日本企業に勝ち目はないか。
私の理解では,安いものを作ることでは中国メーカーに負けているが,技術力では“今は”まだ劣っていない。アンゴラの件でJTECがなぜ選ばれたのか。それは,中国が信用ならないから,日本が監督してくれというわけだ。
まずは日本のやり方に自信を持つこと。日本人は,正確に素晴らしい仕事をするが,仕事をするチャンスが得られていない。内部で議論ばかりして,外に反応がないのが日本だ。それではチャンスをもらえない。まず世界と同じ行動をしないとチャンスは来ない。チャンスが来たときは日本流にしっかりしたものをやれば良い。
課題は営業力となるが,必ずしも自分でやらなくていい。経験がある外国人を使えばいい。日本では,全部自己完結型でやろうとする。顕著な例が,日本ではコンサルタントが少ないこと。世界中では社外の専門家,すなわちコンサルタントが活躍している。これは,全部を自社内でやらなくてもいいという発想が根本にあるからだ。発想を変えないといけない。
国際人養成をテーマに早稲田大学大学院で講義している。学生の反応は。
実は,半分は日本人だが,それ以外は全学で1割しかいない留学生だ。日本人の国際化のためにと思っていたが,最初から差がついてしまっている。講義で意見を言うのは外国人だ。日本人は黙っている。感想を書かせれば書くのだが,とにかくおとなしい。
留学生が面白いことを言っていた。「この講義に参加したことで日本人の行動様式が良く分かる」と。一言で言えば,日本人は異文化に接していない,接しても拒否していることが,日本に元気がないことにつながっている。そこを変えないと,技術があってもお金があっても勝てない。
日本人に欠けているのは自立心。お上頼み,集団頼みではなく,自分自身で勝っていくという意識作りが必要だ。
(現・トヨタIT開発センター最高顧問)
内海 善雄(うつみ・よしお)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年7月9日)