記事の“広告化”でブログ事業の収益向上,月間100億PVを目指す

インターネットの広告代理事業などを手掛けるサイバーエージェントは、2004年9月からブログサービス「Ameba(アメブロ)」を運用。2008年1月に会員数250万人、月間ページビュー(PV)が30億を突破するなど、日本最大級のサービスに成長した。収益化の段階を迎えたブログ事業での取り組みやネット広告代理事業の現状について、藤田社長に聞いた。

アメブロの月間PVが1月に30億を超えたが、今後の見通し、目標は。

 我々は、一定の規模以上のメディアにならないと広告価値を持たないと考え、それまでの広告代理事業の経験から、30億PVを一つの目安にしていた。30億PVを超えると、メディアの価値がぐっと上がってくる。今はそれを超え、収益化に向けた取り組みを増やしている段階。公表している目標数字はないが、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「mixi」や「モバゲータウン」などが達成した100億PVまで持っていきたいと考えている。

ブログ事業の収益化では、ネット広告「Google AdSense」の導入や、企業が自社の情報をブロガー向けにネタとして提供できる「AmebaPR」といった広告事業に力を入れているが。

 大きく数字を伸ばしているのはAmebaPRと、芸能人や著名人によるオフィシャルブログの広告、タイアップ広告の三つ。AdSenseは周辺広告の一つといった位置づけにすぎない。

 我々が収益源の本命と考えている広告は、記事(コンテンツ)の部分に食い込んでいくもの。AmebaPRなどがそうで、“やらせ”ではなく、広告主のニュースリリースを、一般ブロガーに記事にしてもらうものになる。イメージしているのは検索連動型広告のように、ユーザーにとっては(検索の結果出てきた)コンテンツでもあるが、お金が支払われている広告。そうしたところを狙っている。

藤田晋(ふじた・すすむ)氏
写真:山田 愼二

 例えばAmebaPRでは、一般ブロガーを対象に(評価ランキングとなる)「クチコミ番付」を出している。我々が(企業から受注した)ブログネタを出すと、多いときは4000~5000件のブログ記事が一斉に書かれる。これは金品を渡しているわけではなく、(ブログ上の)キャラクターの成長とか、番付順位が上がることをインセンティブにしている。

 さらに、芸能人や著名人のオフィシャルブロガーに、広告主の商品について記事を書いてもらうサービスも、「記事マッチ」という名称で本格的に展開し始める。これは、基本的に本人の意思に任せ、書くことを強制しない、内容について一切のチェックも競合の排除もできないといったものになる。掲載の保証もなく、料金は書かれたら発生するが、書かれなかったら発生しないという形態になる。

 ただ、そこでは我々が広告主企業に代わって商品の良さをしっかり伝え、心から共感して、興味を持って書いてもらうようにする。現在、1600人くらいのオフィシャルブロガーを抱えていて、それぞれ担当が付いてブログを日々チェックしている。そこで分かったブロガーの趣味・嗜好(しこう)に合った製品や企業が、記事マッチの対象になる。

記事マッチの料金、成功事例は。

 料金は1回、150万~400万円程度。すでに実績があり、最近では、あるタレントさんが書いたシャンプーが話題になって売れたという例がある。そのシャンプーは、その方がもともと使っていたもので、話が来たときにすごく喜んで、受けてくれた。

 やらせと見られてしまうと、ネット上では反発される。そういう形ではなく、あくまで本人が共感したり、興味を持ったりしたものを書いてもらう。そこが一番のポイントであり、ハードルになる。それを乗り越えたときの効果は、我々がネット広告を扱ってきた中でも、非常に大きいものがある。

 ただ、成功事例の具体名については、今のところオープンにしていない。記事マッチであるということを、どう表すのか。例えば雑誌などのように、ページ内に「広告」「PR」と表記をするのかどうかといったところの結論が出ていない。今発表することで、「あれは広告記事だったの…」となってしまう。

どうやって“市民権”を得ていくのか。

 正直、そこは模索中。それが当たり前という状況を作りたいと考えている。広告効果としては、実際に素晴らしく高い。広告主から「ここにリンクを張ってほしい」といった希望は聞くが、執筆の強制をしないとか、中身をチェックさせないということが大事になる。こうしたことは、これまでの広告の常識から考えるとあり得ないこと。私が自らモルモット的に受注して記事を書き、広告主ともいろいろやりとりしながら無理のない形を探ってきた。

PVが増え続ける中で、パソコン向けとケータイ向けサイトの利用比率はどうなっているか。

 6対4くらいでパソコンの方がまだ多いが、モバイルの比率が急速に上がってきている。今年中に半々程度になると見ている。モバイルで特徴的なのは、芸能人や著名人ブログへのアクセス比率が半分以上を占めること。パソコンでは3割くらいであり、モバイルでは若年層が多く見ているのではないか。

 また、(バナー広告など)純広告の売れ行きも良い。モバイル向けサイトのあらゆるところに一斉に広告を出す「Amebaモバイル フルジャック」という商品を、1週間1000万円という価格設定でリリースしたが、これも埋まりつつある。

ブログの限定公開機能の提供など、サービスがSNSに近づいているように見えるが、目指す姿は。

 便利な機能を付け加えていく中で、SNS的な要素が増えてきてはいるが、我々の基本的概念はオープン。その点でSNSとは決定的に違う。重視するのも会員数ではなく、PVになる。

 目指す姿は、あえて決めないようにしている。ブログの延長線上で展開していく中で、あるべき姿を探っていく。(ブログではなく)「Ameba」という名前で呼ばれるようになり、爆発的に巨大なメディアにしたい。伸びの鈍化だけは避けたいと考えている。

 PVの増やし方については、今後コミュニティ機能を強化する。現実世界をネットに置き換えると言うよりは、仮想空間的な、ネット上で生きる、できるということの楽しさを追求していこうと考えている。

そのほかネット広告代理事業の状況は。検索連動型広告は収益性が低いといわれるが。

 検索連動広告については、むしろもうかるようになってきた。これは規模のメリットが出てきたのが一つと、ほぼ100%近くがリピートしていくので、営業コストが限りなくゼロに近づいてくるから。現在の検索連動型広告の売り上げは月に13億円くらいで、このくらいの規模になるとかなり楽になる。ただし、規模のメリットが出せないところは、確かに厳しいかもしれない。

サイバーエージェント 代表取締役社長
藤田晋(ふじた・すすむ)氏
1973年生まれ。97年青山学院大学経営学部卒業後、インテリジェンス入社。98年3月にサイバーエージェントを設立し、代表取締役社長に就任。2000年に東京証券取引所マザーズ上場を果たし、現在に至る。個人ブログは「渋谷ではたらく社長のアメブロ」(http://shibuya.ameblo.jp/

(聞き手は,渡辺 博則=日経ネットマーケティング編集長,取材日:2008年3月25日)