文:安達 和夫(リサーチネットワーク 代表取締役研究員/東アジア国際ビジネス支援センター〔EABuS〕 事務局長)

 今年7月6日にi-Japan戦略2015が発表された。副題に「Towards Digital inclusion & innovation」と書かれており、i-Japanの「i」には「2015年までにデジタル技術が社会全体に普遍的に浸透し包み込む(inclusion)ことで、革新的(innovation)な社会を実現する」という意味が込められている。本稿では、i-Japan2015における3大重点分野から、「電子政府・電子自治体分野」に書かれている目標並びに具体的方策について考察することで、戦略の持つ意味と社会的効果について論評を試みたい。

 電子政府・電子自治体は、これまで数多くの試みが行われ今に至っている分野である。

 1994年に閣議決定した「行政情報化推進基本計画」にその原点を見ることができ、1997年の改訂版基本計画で「電子政府」という言葉が初めて登場している。2001年3月のe-Japan戦略にも重点戦略として取り込まれ、2003年には「電子政府構築計画」が決定している。このように、電子政府はわが国のIT政策のなかで常に中心的な推進課題であり続けた。

 一方で、国民や社会に対する定着度という点で、ほかの戦略目標に大きく後れをとっているのも事実である。2001年のe-Japan戦略で目標としたIT基盤の整備は着々と進み、インターネットの整備も、今や多くの家庭で携帯電話や高速ブロードバンドサービスが享受されるに至っている。同時に、ネットワークを介したコンテンツサービスも充実し、家庭でのショッピングや金融サービスなど多くの分野で活用され、水や空気のように無くてはならない存在にまで成長した。こうした民間分野におけるインターネットの進展に比べると、わが国の電子政府・電子自治体サービスの普及のテンポは極めて遅いと言わざるを得ない。

 電子政府・電子自治体分野は、1994年から今日に至る経過のなかでいくつかの政策上の転換がなされてきた。

第I期の電子政府・電子自治体

 1994年の「行政情報化推進基本計画」では行政内部の情報化推進が中心課題であり、省庁内部のOA-LANや霞が関WANなどの整備が進められた。

 2001年のe-Japan戦略では「5年以内に世界最先端のIT国家を実現する」という目標のもとで、総合行政ネットワーク(LGWAN)や住民基本台帳ネットワークといった、電子政府を実現するための基盤の整備が行われた。

 2003年のe-Japan戦略II並びに同時期に設定された電子政府構築計画では、「基盤整備から利活用の拡大に」という方針から、行政手続きの100%オンライン化を目指したシステム構築が行われた。その結果、2004年3月には中央省庁における申請手続きの96%がオンライン化されるに至った。同時に自治体でも、総務省の「電子自治体推進指針」により、程度の差こそあれ生活に密着した分野から申請手続きのオンライン化は順次進められてきた。

 このように、2005年にかけては電子政府・電子自治体の第I期、すなわちサービス基盤の整備に突き進んだ時期であると言えよう。

第II期の電子政府・電子自治体

 2005年2月の「IT政策パッケージ-2005」では、これまで行われてきたサービス基盤整備に対する評価と検証が課題視されるに至った。すなわち、サービス基盤の整備に利用が追い付いてこない現実を直視する施策がここで発表された。それがオンライン利用促進重点手続きであり、個々の手続きごとの費用対効果、利用促進のための誘引策、利用者視点に立ったシステムの見直し、サービスの改善などがアクションプランに盛り込まれた。

 さらに同年10月のIT戦略会議では、オンライン申請の利用率を2010年度までに50%まで引き上げることが行動計画として示された。同時に、「電子自治体オンライン利用促進指針」が総務省によって示され、中央省庁・自治体ともに、オンライン行政の利用促進が問われる時期に至った。こうした利活用促進策を巡る対策検討の時期は、電子政府・電子自治体の第II期と言える。

 今年8月に総務省が発表した「平成20 年度における行政手続オンライン化等の状況」を見ると、オンライン申請の利用率が全体で34.1%、主要71重点手続きの利用状況は50.1%と、数字の上では計画をほぼクリアしているかに見える。しかし仔細に見ていくと、定着に向けた多くの課題を抱えていることが見てとれる。例えば、輸出入・港湾や金融庁への生保・損保関連の申請などオンラインによる申請が義務付けられている手続きがほぼ100%と全体を底上げしている半面、国民に身近な社会保障関連などの手続きのオンライン利用率が依然1%に満たないことや、国税のオンライン申請が税理士などへの強力な働きかけやインセンティブの導入にもかかわらず30%弱に留まっていることなどである。すなわち、電子政府・電子自治体の第II期に直面した社会への普及・定着という課題は、足かけ5年に近い施策を経てもいまだ解決されていないと考えざるを得ない。