CCNAの出題範囲には,ルーティングとスイッチング以外にもPPPやフレームリレーなどのWANテクノロジがあります。ルーティングやスイッチングほど出題の比率は高くないですが,重要な技術であることは間違いありません。今回はWANテクノロジの基礎を学びましょう。
WANとデバイス
WANは,LANよりも広範囲で動作するデータ通信ネットワークです。LANとLANを相互に接続して,より広大なネットワークを作り出します。WANを構築するためには,多くの場合,WANサービスを提供している企業(WANサービスプロバイダ)と契約し,サービスプロバイダが所有する回線を使用してデータ通信を行います。WANの構築には,WANサービスを希望する者(加入者)側では,CPE(Customer Premises Equipment:加入者構内装置)が必要です。CPEは回線の末端に存在することになるため,DCE(Data Circuit-terminating Equipment:回線終端装置)と呼ばれます。このDCEに通信したいデータを渡す機器をDTE(Data Terminal Equipment:データ端末装置)と呼びます(図1)。
DCEは使用するWANテクノロジによって変わります。DCEとして使用される機器は次のようなものがあります。
- モデム ・・・ PSTN(Public Switched Telephone Network;公衆音声ネットワーク)で使用される
- DSU/CSU ・・・ ディジタル回線で使用される。ルータのインタフェースカードとして組み込まれている場合も多い
- ONU ・・・ 光ファイバ回線で使用される
- ケーブルモデム ・・・ CATVによるネットワークで使用される
一方のDTEはルータやコンピュータがこれになります。この2つをつなぐ物理層のインタフェースとしては,次のようなものが使用されます。
- EIA/TIA232 ・・・ RS-232Cとして知られるシリアルインタフェース
- HSSI ・・・ IEEE規格の高速シリアルインタフェース
- V.35 ・・・ ITU-T規格のシリアル通信プロトコル
- X.21 ・・・ ITU-T規格のシリアル通信プロトコル
WANテクノロジ
WANで使用されるテクノロジとしては次のようなものがあげられます。
1.アナログダイヤルアップ
PSTNに接続して,データを音声アナログ信号として送信する回線交換方式のテクノロジ。回線速度が遅く,常時接続にも向かない。少量のデータを定期的に送信する際などに向いている。
2.ISDN(Integrated Services Digital Network)
ディジタル信号を送信する回線交換方式のテクノロジ。
3.専用線
加入者の拠点間を永続型に接続するテクノロジ。帯域を完全に保障する。
4.X.25
WANサービスプロバイダが提供するパケット交換ネットワーク。加入者は専用線またはアナログダイヤルアプなどでサービスプロバイダに接続し,X.25ネットワークを使用する。
5.フレームリレー
X.25に代わって普及した,パケット交換ネットワーク。X.25よりも簡略化し,より高速に使いやすくなったテクノロジ。
6.ATM(Asynchronous Transfer Mode)
広帯域かつ高速なパケット交換ネットワーク。「セル」と呼ばれる単位でデータを交換する。
7.DSL(Digital Subscriber Line)
既存のPSTNで使用されている電話回線を使用して,ディジタルで高速な接続を提供するテクノロジ。複数の種類があり,アップストリームとダウンストリームの速度が異なるADSL,アップストリームとダウンストリームの速度が同一のSDSLなどが一般的。
8.ケーブルモデム
CATVでテレビ信号を配信している同軸/光ファイバケーブルネットワークで,ネットワークアクセスを提供するテクノロジ。テレビ信号とデータ信号を広帯域で伝送することができる。
これらのWANテクノロジの中でも,特にPPP,フレームリレーはCCNAの出題範囲となっており,先の回で詳細に説明を行います。
シリアルインタフェースの設定
ルータはDTEですので,DCEと接続しWAN回線に接続する必要があります。DCEとの接続はルータ外部にDCEがある場合と,ルータのインタフェースとしてDCEが内蔵されている場合があります。外部にDCEがある場合,ルータはEIA/TIA232やV.35などのインタフェースを持つ必要があります。これはシリアルインタフェースと呼ばれるものです。
シリアルインタフェースで覚える必要があるコマンドは,まずclock rateコマンドがあります。クロックレートは機器の同期をあわせるために信号(クロック信号)の回数の値になります(図2)。
クロック信号は通常,ルータ側で発信する必要はありません。DCEがルータ(DTE)に対して発信します。なので,clock rateコマンドは通常は必要ありません。ただし,ルータ同士をシリアルケーブルで直接接続した場合(バックツーバック接続)には,クロック信号を発信する側を決めなければいけません。シリアルケーブルのDCEケーブルをつけたルータがクロック信号を発信する側の機器(DCE)になります。ルータがどちらのシリアルケーブル(DCEケーブルかDTEケーブル)を接続しているのかという確認には,以前も登場したshow controllersコマンドを使用します(図3)。
show controllersでDCE側になっているルータでclock rateコマンドを実行してください。DTE側のルータでclock rateコマンドを実行しても何も起きません。
また,シリアルインタフェースでは帯域幅の設定もできます。(図4)
- (config-if)# bandwidth [帯域幅] … 帯域幅の設定
- [帯域幅]
- 帯域幅。単位はkbps
- [帯域幅]
bandwidthコマンドはkbps単位で値を入力します。clock rateコマンドはbps単位ですので間違えないよう注意が必要です。
また,bandwidthコマンドで設定される値は,回線の実際の帯域幅に影響を及ぼしません。例えば回線が64kbpsの回線で,bandwidth 1500と1.5Mbpsに設定しても実際には64kbpsしか帯域幅はありません。bandwidthコマンドで設定された値は,IGRPやOSPF,EIGRPなどのルーティングプロトコルのメトリック計算に使用されます。
WANカプセル化
WANはデータリンク層のプロトコルでカプセル化されます。使用されるWANテクノロジにより,使われるカプセル化は異なります。一般的にWANテクノロジで使用されるカプセル化のプロトコルは,HDCL(High-Level Data Link Control)と呼ばれるISO標準プロトコルが元になっています。HDLC標準のカプセル化のフォーマットは次のとおりになっています(図5)。
CiscoではこのISO標準のHDLCのフォーマットを使用せず,制御部とデータ部の間にデータ部で使用しているプロトコルを示す値の部分(タイプ部)を含めた,Cisco独自のHDLCを使用しています。よって,Ciscoルータで使用するHDLCと,ISO標準のHDLCでは異なりますので注意が必要です(図6)。
HDLCも含めて,WANテクノロジで使用されているカプセル化プロトコルは次のものがあります。
- HDLC(High-Level Data Link Control)
- 専用線などで使用されている
- LAPB(Link Access Procedure Balanced)
- X.25で使用されている
- LAPD(Link Access Procedure D Channel)
- ISDNのDチャネルで使用されている
- LAPF(Link Access Procedure Frame)
- フレームリレーで使用されている
- PPP(Point-to-Point Protocol)
- 専用線,ダイアルアップ,ISDNのBチャネルで使用されている。また,これの拡張版であるPPPoE/PPPoAはDSLで使用されている
LANではイーサネットインタフェースが一般的に使用されるため,特にカプセル化の設定が必要ありませんが,WANで使われるシリアルインタフェースではカプセル化の設定が必要です(図7)。
- (config)# interface serial [番号]
- (config-if)# encapsulation [カプセル化タイプ]
カプセル化の設定で使用されるカプセル化タイプのキーワードで,一般的に使用されるものは,hdlc,frame-relay,pppがあります。デフォルトではHDLC(Cisco独自のもの)が設定されています。
(改定履歴) ・「シリアルインタフェースの設定」の部分を追加しました。(2008/7/24)