前回は,今後のコンテンツ配信はDRMフリー化の動きやYouTubeなどの動画共有サイトを無視できないことを説明した。今回は,この前提から出発した新しいサービスや,そのために必要な技術を探る。(本稿は,日経エレクトロニクス,2008年3月10日号,pp.59-64から転載しました。内容は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

 メディア企業の役割は,コンテンツで得られる価値の最大化である。クリエーターとの協力によるコンテンツの質の向上,コンテンツの知名度を高めるための販売促進活動,そして販売方法の検討など。コンテンツが生み出す価値とは,お金の場合もあるし,クリエーターや企業の名声,コンテンツが世界に及ぼした影響の大きさなどの場合もある。

 今求められているのは,ユーザーの自由を確保しつつコンテンツの価値を最大化するための管理を,権利者自身の手に委ねる仕組みを現代のDRMに加えることである。インターネットならではの新しい流通形態を活用しながら,コンテンツの流通を積極的に管理できる新しいDRMの枠組み——。エレクトロニクス・メーカーやサービス事業者からのこんな提案を,メディア企業は待ち望んでいるはずだ。

電子指紋技術で動画を特定

 こうした動きの先駆けとして注目されるのが,Google社の取り組みである(図6)。同社は2007年来,電子指紋技術を応用した動画の識別技術を開発してきた。角川グループホールディングスはこの技術の精度などを評価した上で,2008年1月25日にGoogle社との提携を発表した。「最低限の仕組みが整った。ユーザーがアップロードした段階でコンテンツを自動で識別する仕組み,コンテンツを角川が管理していることを示すマークの表示,広告や販売リンクなどで著作者に利益を還元する枠組み,の三つがそろったので始めてもいいと判断した」(角川デジックス 代表取締役社長の福田正氏,同氏のインタビュー「Googleと組んだのは黒船だから」参照)。

図6 角川グループがGoogle社との提携で大きな一歩を踏み出す 角川グループはGoogle社と提携し,ユーザーがアップロードした角川グループのコンテンツを自ら管理できるようにした。削除するか広告を付与して収入を得るかという選択を角川デジックスが行う(a)。Google社が開発した電子指紋技術を用いて,角川グループのコンテンツがアップロードされたことを自動的に検知する。コンテンツの掲載を継続する場合,映像の表示部に重ねて表示する広告やバナー広告などを追加する。それによって得た収益をクリエーターやGoogle社,コンテンツ販売企業などで分配する(b)。
図6 角川グループがGoogle社との提携で大きな一歩を踏み出す 角川グループはGoogle社と提携し,ユーザーがアップロードした角川グループのコンテンツを自ら管理できるようにした。削除するか広告を付与して収入を得るかという選択を角川デジックスが行う(a)。Google社が開発した電子指紋技術を用いて,角川グループのコンテンツがアップロードされたことを自動的に検知する。コンテンツの掲載を継続する場合,映像の表示部に重ねて表示する広告やバナー広告などを追加する。それによって得た収益をクリエーターやGoogle社,コンテンツ販売企業などで分配する(b)。 (画像のクリックで拡大)