木田 裕士氏
富士フイルム ビジネス イノベーション株式会社
取締役 執行役員
グラフィックコミュニケーション事業・海外新規市場展開 管掌 兼 グラフィックコミュニケーション事業本部長
市場が求めるモノ(製品)、高品質なモノはそれだけで価値がある。しかし、その優位性を長く保つことは難しい。製品の性能・機能はいずれライバルに追い付かれ、競争は熾烈になる。それはやがて価格競争という不毛な体力勝負に形を変えていく。ここから抜け出すには、付加価値の提供が欠かせない。
その手立てとして、価値ある体験を提供する「コト」を主体としたビジネスモデルの注目が高まっている。モノを提供するだけでなく、痒い所に手が届くビジネスで差別化を図るわけだ。
しかしメーカーにとって、このシフトチェンジは容易なことではない。創業以来、より良い製品を生み出すことに心血を注いできたからだ。それによって企業は成長したという成功体験もある。組織にも従業員のマインドにも「モノ至上主義」が染み付いている。
「コト」ビジネスの実現は、ここにメスを入れる大手術だといえるだろう。この変革に挑み、SaaSモデルの新規事業を立ち上げた企業がある。複合機・プリンターなどのオフィス機器大手の富士フイルム ビジネス イノベーション(以下、富士フイルムBI)だ。
「主力のドキュメント事業の柱はハードウエア販売。組織にもマインドにも浸透しているモノ売り文化を変えなければ、成功はありません」。こう語るのは、変革を指揮するグラフィックコミュニケーション事業本部長の木田 裕士氏だ。この取り組みを支援するパートナーに選定したのが、アマゾン ウェブ サービス(AWS)である。
ハードウエアビジネス主体の会社がSaaSビジネスを展開する。このチャレンジは市場に大きなインパクトを与える。同社が描くビジネスモデルとは。その実現に向け、AWSと共にどのような取り組みを進めていったのか。次ページ以降で詳しく紹介したい。