自動車におけるサイバーセキュリティ対策の重要性が、ますます高まってきている。クルマは、人の命を預かる工業製品である。これまでにも、リアルな車載機構の安全性・信頼性に関しては、最優先で作り込まれてきた。これからのクルマは、リアル領域だけでなく、サイバー領域での安全性・信頼性も同レベルで対策していくことが重要だ。
コネクテッドからSDVへ。セキュリティ対策が責務に
市場投入されるクルマの過半数においては、車両の状態や保守の管理、緊急通報、インターネット接続などのサービスを無線ネットワーク経由で利用できるようになった。さらに近い将来には、車載機能の多くをソフトウエアで実現し、インターネットを通じて最新状態に保つことで市場価値を維持・向上させる「SDV(ソフトウエア定義車両)」へと進化していく。自動運転システムなど、次世代の安全性・快適性・利便性の中核を占めるシステムがインターネットと連携しながら動くようになるのだ。
常時インターネットにつながって動くようになるクルマは、サイバー攻撃を企てる者にとって、多様で数多くの突破口がある攻撃対象となる。そのため最新技術を反映した適切なセキュリティ対策の導入は、自動車業界各社にとっても責務だ。UNECE(国連欧州経済委員会)の車両構造作業部会WP29は、自動車のサイバーセキュリティに関する国際基準「UN-R155」を策定。2021年1月に発行し、日本やEUなどで法規として適用されている。
自動車でのセキュリティ技術の開発とその適用・運用の重要性は、自動車業界にとどまるものではない。家電製品から産業機器、医療機器、道路・電力インフラの設備などまで、多様な機器・装置・設備がインターネットにつながり、機能向上や保守・管理などに利用されるIoT機器へと進化。クルマと同様に、セキュリティ対策の重要性が高まっている。米国では、IoT機器向けサイバーセキュリティ対策を施したIoT機器を消費者に明示するためのラベリングプログラム「U.S. Cyber Trust Mark」の運用を、2024年後半に開始する予定だという。
こうした中、自動車のセキュリティ対策は、他分野の対策に先駆けて技術開発・導入が進むテクノロジードライバーとなっている。自動車は、インターネット接続が急拡大している工業製品の代表であり、なおかつ専門知識を持たない一般消費者が管理・利用するにもかかわらず、サイバー攻撃の影響によって生じるリスクが極めて大きい対策難易度の高い機器だからだ。自動車向けの対策は、あらゆるIoT機器向け対策を考える上でのトレンドを作り出すことになる。