日本のデジタル放送に掛けられたコンテンツ保護の枠組みを根底から揺さぶる、地上デジタル放送チューナー「Friio(フリーオ)」。実際にFriioによって地上デジタル放送の受信や録画、そして録画済みコンテンツの複製ができることを第1報で示した。
今回の第2報では、Friioの内部の仕組みを技術的な見地から検証していく。Friioの挙動一つひとつをきちんと分析することが、Friioの抱える問題点と、放送局やメーカーなど関連業界が対処すべき課題を整理することにつながると考えるためである。
原価はわずか3000円前後、利益率9割の荒稼ぎ
まずは、Friio本体のハードウエアの構造を見ていこう。図1は、日経パソコン推定によるFriioの回路ブロック図だ。幅38×奥行き180×高さ170mmもあるきょう体の割に、回路はきわめてシンプルである。実はこれがFriioの特徴の1つ、ほとんどの処理をソフトウエアでまかない、ハードウエアの製造コストを極限まで抑えていることを示している。
Friioの実機を手に取って、気づくことが2つある。1つは、AC電源を使わずにUSB端子からのバスパワー給電で駆動すること。もう1つは、見た目の割に驚くほど軽いことだ。USBのパスパワー給電で駆動するということは、電源電圧5V、消費電流500mA、すなわち消費電力2.5W以内で駆動できる程度の電子部品しか実装していないことを示す。そして、軽量な割に比較的大きなきょう体であるのは、日本のデジタル家電向けに使われている超小型の電子部品ではなく、比較的大きめの電子部品を採用しているためとみられる。部品のサイズを大きくすることには、2つのメリットがある。超小型部品より安価に調達できること、そして技術力と人件費の高い熟練工でなくても組み立てが可能なことだ。チューナーモジュールだけは比較的高価だが、このほかの電子部品は安価で入手でき、トータルの部品コストは「1000円いくかどうかの水準」(放送業界関係者)とみられる。
もう一つ重要な点が、Friioは各種の特許料を支払っていないという点だ。地上デジタル放送のチューナーを開発するには、映像処理関連でMPEG-2、音声処理関連でAAC、暗号処理関連でMULTI2の技術をそれぞれ用いており、通常であれば製品の量産に際し特許料の支払いが必要だ。このほか、電波産業会(ARIB)の標準規格に関連する特許料支払いもある。これらを合わせると700~800円が必要とみられるが、これを無視すれば当然、製品原価はその分低くなる。
さらに、Friioはユーザーから直接注文を受け、台湾から国際スピード郵便(EMS)で発送している。EMSの送料は約2000円かかるものの、この方式なら製造者は工場から最寄りの郵便局まで運ぶだけでよく、あとはEMSがすべて輸送をまかなってくれる。もちろん、卸や小売店のマージンも不要だ。
ハードウエアが簡素な分、ソフトウエア処理が複雑になることが考えられるが、実際にはソフトの開発コストも微々たる水準のようだ。デジタル放送のチューナーを開発・販売するエスケイネットの代表取締役社長で、台湾のデジタル放送事情にも明るい妹尾兼氏は、「(欧州や台湾で採用されている地上デジタル放送規格である)DVBの技術がある人ならば、ARIBの標準規格を解析さえできれば、ソフトの開発もできると思う」とみる。
単純にこれらを積み上げると、Friio本体のハードウエア製造原価は3000~3500円程度とみられる。販売価格が2万9800円なので、粗利益率で9割近くという計算になる。Friioを組み立てたエンジニアなど、外部の協力者に口止め料をはずんだとしても(これも個人や家族、零細工場などで手弁当でやっていれば不要になる)、相当の利益が仕掛け人の懐に入ることになる。