2022年12月、東京大学、九州大学、大同大学の3大学は「常温常圧の環境下、可視光エネルギーを用いて 窒素(N2)ガスをアンモニア(NH3)へと変換することに世界で初めて成功した」と発表した。
これまでNH3は、人工肥料目的の生産がほとんどだったが、今後は水素(H2)を運搬、または長期保存するための水素キャリアとして、あるいは直接燃焼させる、燃焼時二酸化炭素(CO2)フリー燃料としての利用が見込まれている。
NH3の工業的生産技術としては1906年に開発されたハーバーボッシュ法がこれまで用いられてきた。これも空気中のN2ガスが材料の1つであるため、開発当時は、「空気からパンを造る」技術といわれた。そして実際に人工肥料の大量生産によって農業の生産性が向上し、世界の人口が飛躍的に増えた大きな要因になった。
水素は空気から得られない
ただし、世界がカーボンニュートラルを目指す時代になったことで、ハーバーボッシュ法の課題が目立つようになってきた(図1)。課題は大きく2つある。1つは、NH3のもう1つの材料である水素(H2)は、空気から得られるわけではない点である。
このH2を得る手法は、これまで天然ガスや石炭などの化石燃料を改質する手法がほとんどで、この際にCO2を大量に排出してしまう。こうした水素は、「グレー水素」と呼ばれる。H2生産時にCO2を回収するプロセスを導入した「ブルー水素」、再生可能エネルギーの電力だけで水(H2O)を電気分解して得る「グリーン水素」も注目を浴びているが、現状ではコストの壁がある。
さらに、生産したH2はそのままでは体積が大きくて効率的な運搬が難しい。また、液体水素の維持には少なくない電力が必要だが、それでも容器から漏れ出しやすいため、長期保存も難しい。それらを解決する手段の1つが、NH3だが、その生産にはH2が必要であり、「ニワトリが先か卵が先か」といった課題のループになってしまう。
運搬や保管問題に対する出口の1つはH2とNH3の生産を1カ所で進めるコンビナート方式だが、ここに、もう1つの課題が出てくる。ハーバーボッシュ法のプラントが非常に大型になる点だ。同法では、温度にして400~600℃、圧力にして100~300気圧といった高温高圧の反応環境を必要とする。これは、N2のN同士を結合させている3重結合が非常に強固で、それを切り離すのにエネルギーが必要であることに起因する。
合成に必要となるエネルギーは反応熱を生かすことで多くをまかなえるが、高圧への耐性を確保し、しかも熱損失を低減するためにはプラントを大型化する必要がある。