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マイクロサービスの活用はネット企業が中心だったが、今や一般企業にも広まりつつある。その原動力は、システムを俊敏に変更したい、保守性を高めたいというニーズの高まりだ。ふくおかフィナンシャルグループ傘下の「みんなの銀行」の事例でメリットを見よう。

 「競合のフィンテック企業はクラウドに素早くシステムを構築し、プロダクトを磨き上げる。同じ土俵のクラウドに乗り、アジャイル(俊敏)に改善していく」。スマートフォン専業銀行、みんなの銀行の宮本昌明執行役員CIO(最高情報責任者)はGoogle Cloud上に一から構築した勘定系を含む銀行システムのコンセプトをこう話す。

 システムの俊敏な変更を可能にするために選んだのが「マイクロサービスアーキテクチャー」だ。比較的小さなサービスをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)経由などで疎結合に連携させて、一連の処理を実現する。従来に比べてサービスの単位が小さいので、変更に当たって影響範囲の調査や改変、テストの対象範囲を局所化できる。1日に何度もサービスを変更してデプロイするような開発スピードが手に入る。

図「みんなの銀行」が採用した疎結合のアーキテクチャー
図「みんなの銀行」が採用した疎結合のアーキテクチャー
銀行システムをマイクロサービスで構築
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みんなの銀行のアプリ画面イメージ(画像提供:みんなの銀行)
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 SOA(サービス指向アーキテクチャー)など同様のコンセプトを持つ設計手法は過去にもあった。ここにきてクラウドやコンテナといったサービスを支えるインフラが整い、マイクロサービスに取り組みやすくなった。

 これまではEC(電子商取引)サイトやネット企業などでの利用が中心だったマイクロサービスが、一般企業へ広がってきた。理由は明快だ。変化に素早く追随できないサービスでは市場競争に勝ち残れなくなったからである。

 「従来型のシステム構築では企画に数カ月、ベンダー見積もりを取得し社内決裁が下りて、ようやく開発が始まる。稼働までに半年とか1年といった期間を要する」と宮本CIO。「これではライバルに太刀打ちできない」。

 みんなの銀行は2021年5月に銀行システムをリリースしてから週に1回程度は改善のために機能をアップデートしている。さらに2022年7月にはアプリで完結するローンサービス「みんなの銀行 Loan」の提供を始めるなど、開発スピードを上げている。