三井ダイレクト損害保険は新たな基幹システム「Trusty」をリリースした。これまでの基幹システムは創業以来20年以上、開発・保守を積み重ねて建て増ししながら使い続けてきた。肥大化・複雑化し密結合だったシステムをマイクロサービス化して、開発効率の向上を実現した。2024年11月18日に発表した。稼働開始は同年6月である。
システム刷新は「会社全体のリブランディングプロジェクトの一環。創業以来、最大のプロジェクトだ」(三井ダイレクト損保の大橋貞三郎常務執行役員CIO兼CDO兼損害サポート業務プロセス改革)。これまでも、顧客管理やマーケティングなど顧客との接点になる「SoE(System of Engagement)」領域の更新を進めてきた。今回の対象は、見積もりや契約手続きといった顧客向けのWeb手続き機能や、契約保全を担う機能などだ。
SoE領域は主にSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)を用いて更新してきた。一方、顧客契約を保全する「SoR(System of Record)」領域の契約保全管理では、スクラッチで開発を進めてシステムを全面的にモダナイズした。
スクラッチ開発に踏み切った理由について三井ダイレクト損保の大多和均IT企画部サブゼネラルマネージャーは「パッケージを適用できないか検討した。だが、欧米のパッケージでは日本特有の商習慣に対応できずカスタマイズが必須であることや、密結合の解消のためにマイクロサービスやコンテナ化を導入するに当たって我々の構築手法に適応するものがなかった」と説明する。
SoR領域は野村総合研究所(NRI)と共同開発した。手法は業務仕様やビジネスルールを軸に設計する「ドメイン駆動設計」を採用。既存の基幹システムの密結合だったアプリケーションをマイクロサービスアーキテクチャーに基づいて疎結合にした。
従来サブシステム間で重複していた機能はバックエンドに集約した。改修の際、サブシステムごとに同じ機能の改修を都度しなければならなかった部分が改善できる。さらにこれらのマイクロサービスを「販売受付管理」「商品管理」「マーケティング管理」など業務要素単位でまとめてポッド化。この単位でAPI連係する仕組みとした。ドメイン駆動設計とコンテナ運用設計を合わせたこと、APIの“たこ足配線”化を防いだことが工夫点だ。
フロント側は利用したい機能を選択すればその業務手続きができる。将来、外部の接続先が加わった場合も容易に連携できる。コンテナ管理ツールはOracle Cloud Infrastructure(OCI)が提供するOracle Container Engine for Kubernetes(OKE)を利用する。
システムの刷新に合わせて、顧客が使うWeb見積もり・契約手続き画面も刷新した。質問の順番を組み替えて、設問数を大幅に減らした。分かりにくい補償内容は、顧客が選択した補償内容に応じて変わるイラストで説明するようにした。こうして、顧客自身による見積もりの作成にかかる時間を4分以上短縮することができたという。商品改定の成果もあってか、2024年9月の収入保険料は創業以来最高を記録。リブランディングの成果が出てきた。
「契約手続きのデータチェック処理などはSoR領域に集約したので、フロント側はより使い勝手の良い画面づくりに開発の軸足を置けるようになった」(大多和サブゼネラルマネージャー)