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 デジタル庁は「ガバメントクラウド」の制度整備に向けた法案(ガバメントクラウド法案)の概要を固めた。国の行政機関などがシステムを整備する際にガバメントクラウド利用の検討義務を課す。加えて、自治体のほか日本銀行や日本放送協会(NHK)、日本中央競馬会(JRA)など各府省庁の所管法人にもガバメントクラウドの利用について検討する努力義務を課す。

 ガバメントクラウドは中央省庁や国の機関、自治体が利用する政府共通のパブリッククラウド利用環境である。ガバメントクラウド法案は「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」(デジタル行政推進法)の改正案で、閣議決定を経て臨時国会に提出し、成立すれば2024年度中の施行を目指す。国会でガバメントクラウド利用の効果を巡って議論を呼びそうだ。

 デジタル庁は現在、ガバメントクラウドのクラウドサービス提供事業者(CSP)として5社を採択している。デジタル庁によると2024年10月末現在で最も利用数が多いのは米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)の「Amazon Web Services(AWS)」である。ガバメントクラウド本番環境を利用している1497システムのうちAWSが1452システムを占める。

 ほかに採択されているのは米Google(グーグル)の「Google Cloud」、米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」、米Oracle(オラクル)の「Oracle Cloud Infrastructure」、さくらインターネットの「さくらのクラウド」だ。さくらのクラウド以外は既に利用が始まっている。

 ガバメントクラウド法案は主に3つの柱から成る。1つ目の柱はCSPへのクラウド利用料の規定だ。国がクラウドサービスの共同利用を可能にするために必要な措置を講じなければならないとして、国以外の自治体などがCSPに支払うガバメントクラウド利用料をデジタル庁が保管して、デジタル庁からCSPに引き渡す。

 この規定では自治体などとCSPの間に直接の契約関係はなく、CSPとデジタル庁の間、デジタル庁と自治体の間でそれぞれ契約関係を結ぶ想定だという。デジタル庁はCSPからの請求額を自治体に請求する。ドル建て利用料の為替変動リスクは自治体などが負う。ガバメントクラウド法案は2025年度からCSPへのクラウド利用料の支払いに間に合うように施行する必要がある。

デジタル庁とクラウドサービス提供事業者の契約などに関する検討概要
デジタル庁とクラウドサービス提供事業者の契約などに関する検討概要
(出所:政府資料や取材を基に日経クロステック作成)
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 2つ目の柱は、国の行政機関などに対するガバメントクラウド利用の検討義務だ。行政機関などはガバメントクラウドの利用を検討して、その結果に基づいて公共情報システムの整備・更改を行わなければならないとする。さらに3つ目の柱として、自治体に加えて各府省が所管する独立行政法人や特殊法人に対して、ガバメントクラウド利用について検討する努力義務を課す。日本銀行や日本放送協会(NHK)、日本中央競馬会(JRA)など各府省庁の所管法人も対象だ。

ガバメントクラウド利用を検討する努力義務を課される主な組織
ガバメントクラウド利用を検討する努力義務を課される主な組織
(出所:政府資料や取材を基に日経クロステック作成)
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