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 アシックスは3Dプリンターで造形したサンダル「ACTIBREEZE 3D SANDAL(アクティブリーズ・スリーディ・サンダル)」を開発した。数式化したルールに基づいて靴の構造を決める新しい設計手法を採用した。競技や練習を終えたアスリートが履く想定の製品で、身体が休まるように通気性やクッション性が高いデザインになっている。今回の開発で培った設計や製造技術を生かし、今後、購入者の足に合わせた形のシューズを造る構想だ。

3Dプリンターで造形したサンダル「ACTIBREEZE 3D SANDAL」
3Dプリンターで造形したサンダル「ACTIBREEZE 3D SANDAL」
(写真:日経クロステック)
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 「設計手法が従来と全く異なる」――。アシックススポーツ工学研究所研究員の高島慎吾氏は全てを3Dプリンターで製作した新製品について、こう語る。同社が用いたのは「パラメトリックデザイン」という建築分野などで活用が進む設計手法だ。同手法では、形状そのものではなく、形状を造り上げるルールを数式で定義する。数式が含むパラメーターの値を変えれば膨大な数のデザインを生み出せる。

 新製品は、競技や練習後の足をリラックスさせる目的で開発した。競技用のシューズは試合で成果を出すのに適している半面、締め付けが強かったり、クッション性や通気性が不足していたりする。実際、同社の調査によると8割以上のランナーは競技後にシューズを履き替えていた。そこで、競技後に履く、フィット性やクッション性、安定性、通気性に優れた新しいタイプの靴を開発することにした。「そうした特性を実現するにはあらゆる形状を造れる3Dプリンターが適していると考えた」(アシックス執行役員スポーツ工学研究所長の原野健一氏)という。 

コンピューターが設計案を提案

 サンダルは全体が格子構造になっている。パラメトリックデザインにより格子を構成する柱1本1本の向きや数、太さなどを柔軟に変えながらデザインを決めた。サンダルの部位ごとに格子の密度などを調整し、硬さを変えている。例えば、かかと部分は格子構造を密にして硬さを出し、足の負担を減らした。通気性は「これまでにない程高い」(高島氏)と言い、他のサンダルや靴との比較試験では、歩行時の足裏の温度と湿度を低く抑えられた。

サンダルの部位によって硬さを変えた
サンダルの部位によって硬さを変えた
パラメトリックデザインを使って格子の密度などを変えている。(出所:アシックスの資料を日経クロステックが撮影)
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 パラメトリックデザインを使うメリットについて高島氏は「目的に合わせた解が得られる」点を挙げる。例えば、通気性を高めるようにパラメーターを変えると、コンピューターが通気性の高い形状を提案してくれる。

 開発時間を短縮できるのもパラメトリックデザインの利点だ。手でデザインする従来手法では描ききれない、靴の内部のような複雑な格子状の3次元構造の設計も可能で、短期間に多くのデザインを検討できる。新製品の構想が持ち上がった2021年後半から1年足らずで発売にこぎ着けた。従来手法は試作を繰り返す必要があり、一般的に開発から発売まで15カ月程度かかっていたという。