「プロジェクトマネジャーの教科書」とも呼ばれる「PMBOKガイド」第7版の日本語版書籍が2021年11月1日に発売される。第6版は重量が2kgあったが、新版は800gと一気に軽くなった。プロジェクトの流れをまとめたプロセスの記載が姿を消し、プロジェクト運営を成功させる「原理・原則」が前面に出るなど構成が大きく変わったことが影響した。変化が激しい時代に対応するため、開発プロセスにかかわらず活用できるように転換した。
米PMI(Project Management Institute)が発行したPMBOKガイド第7版は、従来版とは全く異なる構成になった。翻訳作業に中心的に携わったPMI日本支部の庄司敏浩標準推進委員会委員は「プロセス中心の構成をやめた」と説明する。
第6版までのPMBOKガイドは、QCD(品質・コスト・納期)をはじめとする要求事項を満たして円滑に成果物を作り上げることを重視していた。「立ち上げ」「計画」「実行」「終結」「監視・コントロール」という5つのプロセスを定めたうえで、大半のプロジェクトで有用な実務慣行を記載してきた。
それが第7版では、プロジェクトの流れをまとめた5つのプロセスの記述がなくなった。これが効いて、日本語版は総ページ数が776ページから368ページと半分以下になった。サイズもA4からB5に小型化した。
一方で「プロジェクトマネジメントの原理・原則」という項目が前面に出てきた。プロジェクトに対して責任感を持つことを求める「スチュワードシップ」、ビジネス上の成功を常に意識する必要性を説く「価値」、プロジェクトマネジャーだけでなくメンバー全員に主体性を求める「リーダーシップ」などの考え方が並ぶ。
なぜ大幅に構成が変わったのか。庄司氏は「情報システムのような成果物ではなく、売り上げの増加や利益率の向上といったビジネス上の価値を実現するためのガイドに衣替えした」と説明する。
標準的なプロセス通りにプロジェクトを運営し、成果物であるシステムを開発しても、そのシステムがビジネス上の価値を生まなければ意味がない。ビジネス環境の変化が激しくなるなかで、同じプロセスでずっと成果を出し続けることは極めて難しい。そこで表面的なプロセスよりも変わりにくい原理・原則を示すことにしたわけだ。
現場から「無味乾燥」「時代遅れ」の声が噴出
構成の大胆な変更は、実は現場からの突き上げによって迫られた面もある。PMIが第6版について世界中のプロジェクトマネジャーらと意見交換したところ、「無味乾燥」「時代遅れになりつつある」「もっと迅速に市場に応答できるようにすべきだ」など厳しい声が噴出したという。
第6版が完全な旧態依然だったわけではない。アジャイルへの対応やビジネス視点の必要性などの要素には触れていた。それでも、プロジェクトの現場からは実態とかい離していると見られた。