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 富士通は顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援すべく子会社の「Ridgelinez(リッジラインズ)」を設立し、2020年4月1日から事業を開始する。新会社の社長を託すのは富士通出身ながら現在PwCコンサルティング副代表執行役を務める今井俊哉氏だ。

2020年4月1日付でRidgelinez(リッジラインズ)の社長に就任予定の今井俊哉氏
2020年4月1日付でRidgelinez(リッジラインズ)の社長に就任予定の今井俊哉氏
(写真:陶山 勉)

 今井新社長は2020年3月9日に日経クロステックの単独インタビューに応じ、「外資系コンサルティング企業で当たり前のやり方を持ち込む」と経営の基軸とその詳細を初めてメディアに語った。デジタル時代を迎え富士通自身の変革が求められるなか、外資系の流儀は変革の起爆剤となるか。

丸投げをあえて拒否

 Ridgelinezの主力事業は顧客企業のDX支援である。主にDXのコンサルティングとプロトタイプシステムの構築の2つを受け持つ。システム開発の最上流に位置するビジネス戦略策定のほか、システムの開発・運用などについては、パートナー企業と協業する。特に開発工程は親会社の富士通と連携して進める。「最上流から運用まで、顧客のDXジャーニー全体を支援する」と今井新社長は意気込む。

 新会社でDXのコンサルティングとプロトタイプシステムの構築を担うのは、3職種のコンサルタントだ。具体的には、顧客の業界に精通する「Industry DX Strategy Consultant」、顧客の要望とテクノロジーを結び付ける「DX Competency Consultant」、プロトタイプシステムの設計や実装を手掛ける「DX Technology Consultant」である。

 このうち、DXプロジェクトの成否の鍵を握るのは最初のIndustry DX Strategy Consultantと2番目のDX Competency Consultantである。

 Strategy Consultantは顧客の業界に関する豊富な知識を基に、顧客が「何をすべきか」を見極め、適切な目標を設定する役割を担う。適切な目標を設定する重要性ついて今井新社長は次のように話す。

 「例えば売上高を15パーセントや増したいと顧客が考えていても、Strategy Consultantはそのまま聞き入れない。『なぜ15パーセントなのか』『売り上げが15パーセント増えたら、顧客にどんな意味があるのか』を一緒に考えるからだ。15パーセントという数字に必然性がなければ、その数字を目指すDXプロジェクトの意味も曖昧になってしまう」――。

 顧客の要望をうのみにせず、顧客の「丸投げ」をあえて拒否する点は、競合のIT企業との差異化要因になるとみる。「多くのIT企業は顧客の要望を検証することなく、なるべく早くシステム開発プロジェクトに進めようとする。そのやり方では、たとえシステム開発に成功しても、(事業面で)意味のないシステムになるリスクがある」(今井新社長)。

 一方のCompetency Consultantは、Strategy Consultantと顧客が設定した目標を実現するために必要なテクノロジーを選択する役割を担う。具体的には顧客体験の創造や業務効率化などについて、新しい業務プロセスを考案したりIT活用の仕方を構想したりする。この点で、ビジネスコンサルティング企業との違いを打ち出す。

 「ビジネスコンサルティング企業はIT企業に比べるとテクノロジーの選択を軽視しがちだ。しかし実際はどのテクノロジーを使うかによってできることが大きく異なる」と今井新社長は指摘する。

組織運営や人事制度は外資流に

 Ridgelinezの組織運営や人事制度には、外資系コンサルティング企業のノウハウを持ち込む。今井新社長が自ら陣頭指揮を執って、PwCコンサルティングなど外資系企業を渡り歩いた経験とノウハウを生かして仕組みを整備する。

 その1つがマトリクス組織だ。Ridgelinezは「職種」と「顧客の業界」の2軸でコンサルタントをアサインする。組織の機動力を高めるのが狙いだ。「部門長が部下を囲い込むのではなく、プロジェクトごとに必要な人材を流動的にアサインしやすい組織にする。外資系コンサルティング企業では当たり前の組織運営手法だ」(今井新社長)。

Ridgelinezで採用するマトリクス組織
Ridgelinezで採用するマトリクス組織
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 評価や給与といった人事制度についても外資系コンサルティング企業にならう。「富士通グループの既存の人事制度を踏襲せず、独自の体系をつくる。評価制度については、360度評価の導入はもちろん、直接の上司・部下の関係にない第三者からの評価も考慮する」(同)。