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そもそもプロテインの摂取は本当に筋トレの効果を高めるのか?


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 筋トレに「タンパク質の摂取」は欠かせません。

 

 なぜなら、筋トレだけでは筋肥大は生じないからです。筋肥大の効果を得るには、筋肉のもとである筋タンパク質の合成量が分解量を上回らなければなりません。筋トレをすると合成感度は上昇しますが、それだけでは筋タンパク質の合成は十分には高まらないのです。そこでタンパク質を摂取することによって、はじめて筋タンパク質の合成が大きく高まり、筋肥大が生じます。

『筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識すべき理由』

 

 タンパク質の摂取の重要性が示唆される中で、多くのトレーニーが愛用しているのがプロテインです。

 

 近年ではプロテインの加工技術が向上し、安価になるとともに、飲みやすく、味の種類も増えました。これに健康ブームが合わさることで、プロテイン市場は拡大の一途をたどっています。現在では、トレーニーだけでなく女性から高齢者までもが食事にプロテインを補充することによって必要となるタンパク質を摂取しているのです。

 

 このようなプロテイン人気の渦中に、その効果について疑問の声をあげる研究者がいました。

 

 テキサス医科大学のReidyらは2016年のレビューでこう述べています。

 

 「そもそもプロテインの摂取は本当に筋トレの効果を高めるのか?」

 

 プロテインの摂取が筋トレ後の筋タンパク質の合成を高めるという短期的な効果については数多く報告されています。しかし、驚くことに、最近までプロテインによる長期的な効果についてのコンセンサスは得られていなかったのです。

 

 今回は、プロテインの長期的な効果のエビデンスを示した近年の報告をご紹介しましょう。 

 

Table of contents

 

 

◆ プロテインによる短期的な効果のエビデンス

 

 単離された(他の栄養素から切り離された)タンパク質を加工したものがプロテイン・サプリメントです。代表的なプロテインには乳タンパク質から加工されたホエイやカゼイン、大豆から加工されたソイがあります。

 

 まずは、これらのプロテインによる筋トレの短期的な効果について見ていきましょう。

 

 これらの検証を行ったのがマックマスター大学のTangらです。

 

 2009年、トレーニング経験者の若者が被験者として集められ、ホエイ、カゼイン、ソイを摂取する3つのグループに分けられました。被験者はトレーニング(レッグプレスとニーエクステンション)を10RMで4セット行い、それぞれのプロテインを摂取しました。その後、3時間が経過した時点で筋肉のもととなる筋タンパク質の合成率が計測されました。

 

 その結果、プロテイン摂取後の筋タンパク質の合成率は、3つのプロテインですべてが安静時よりも増加していました。そして、ホエイはカゼインやソイと比べて、もっとも筋タンパク質の合成率が高かったのです。

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Fig.1:Tang JE, 2009より筆者作成

 

 この結果より、トレーニング後3時間の筋タンパク質の合成を高めるプロテインはホエイがもっとも効果的であることが示唆されました。ホエイはファスト・タンパク質といわれるように消化・吸収速度がもっとも速いため、トレーニング後の急性効果があることがわかりました。

 

 このような研究結果をもとに、ホエイが筋トレの効果を高める有用なプロテイン・サプリメントであるという認識が広まったのです。

 

 しかし、ホエイが効果を示したのは「トレーニング後3時間」という急性効果です。では、時間軸を3時間から6時間に増やしてみると結果はどうなるのでしょうか?

 

 これを検証したのが、コペンハーゲン大学のReitelsederらです。

 

 Reitelsederらは、レクリエーションレベルの活動的な若年者を被験者として集め、ホエイ、カゼイン、プラセボ液を摂取する3つのグループに分けました。トレーニングは最大筋力の80%で8回、10セットを行い、直後にそれぞれのプロテインを摂取しました。摂取してから6時間後の筋タンパク質の合成率が計測されました。

 

 その結果、プロテインを摂取して3時間までの筋タンパク質の合成率は、Tangらの報告と同様にホエイがもっとも高くなりました。しかし、6時間後ではカゼインの合成率が上昇し、ホエイとカゼインに有意な差は認められなかったのです。

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Fig.2:Reitelseder S, 2011より筆者作成

 

 この結果は、3時間という短時間ではホエイがもっとも筋タンパク質の合成率を高めますが、6時間という時間軸でみると、ホエイとカゼインの筋タンパク質の合成効果は同等になることを示唆しています。

 

 そして2016年、これまでのプロテインの知見についてのレビューを報告したテキサス医科大学のReidyらはこう述べています。

 

 「ホエイやカゼイン、ソイなどのプロテインはその種類に関わらず、短期的に筋タンパク質の合成を高める効果がある」

 

 ホエイには3時間という短時間で筋タンパク質の合成を促進する効果があります。このような急性効果はトレーニング直後などのタンパク質補充に適しています。これに対して、カゼインは5-6時間かけて筋タンパク質の合成を高めるため、就寝前などの時間帯に適しています。Reidyらは、それぞれのプロテインの特徴を知り、タンパク質を補充する場面や生活パターンに応じて摂取することを推奨しています。

 

 そして、レビューの最後にこう疑問を投げかけました。

 

 「しかし、プロテインは長期的に筋力増強や筋肥大の効果にも寄与しているのだろうか?」



◆ プロテインによる長期的な効果のエビデンス

 

 これまでにプロテインによる長期的な筋トレの効果に対するメタアナリシスがいくつか報告されました。

*メタアナリシスとは、これまでの研究結果を統計的手法により全体としてどのような傾向があるかを解析するエビデンスレベルがもっとも高い研究デザイン。

 

 しかしながら、実は、これらのメタアナリシスでは、見解の一致が得られていなかったのです。

 

 その理由として、メタアナリシスに含まれる基準がそれぞれに異なっていたことが挙げられています。例えば、トレーニング経験の有無や若年者と高齢者といった年齢条件、プロテインの摂取条件などに異なりがあったのです。

 

 そこで、これらの基準を包括的に含め、最大規模のメタアナリシスを報告したのがマックマスター大学のMortonらです。

 

 2017年、Mortonらは、プロテインと筋トレの長期的な効果について検証された17カ国からなる49の研究報告(1,863名)を対象にしたメタアナリシスを行いました。対象者にはトレーニング経験者や未経験者、また若年者(45歳未満)や高齢者(45歳以上)も含まれました。トレーニングは平均で週3日、13±8週間行われました。プロテインはホエイ、カゼイン、ソイなどの種類にかかわらずトレーニングをした日に平均20±18g(若年者:36±30g、高齢者:42±32g)が補充されました。

 

 これらの条件で解析を行った結果、プロテインは長期的に筋トレによる筋力増強、筋肥大の効果を高めることが明らかになったのです。さらに、その効果には「ある条件」があることもわかりました。

 

 では、ある条件とは何なのでしょうか?

 

 まずは筋力ですが、プロテインの補充によって、最大筋力(1RM:1回で挙げられる最大の重量)が増加することが明らかになりました。しかし、その効果はトレーニング歴の有無によって異なりました。トレーニング経験者は、プロテインの補充によって筋力増強の効果が認められましたが、未経験者では筋力増強の傾向を示すも、有意な差は認められなかったのです。

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Fig.3:Morton RW, 2018より筆者作成

 

 また、年齢はプロテインによる筋力増強の効果に影響は与えませんでした。若年者でも高齢者でも効果は同じであったということです。

 

 次に、筋肥大の効果では、全身の筋肉量、大腿部の筋断面積が増加することが示されました。しかし、ここでもトレーニング経験による差が認められたのです。トレーニング経験者はプロテインの補充によって筋肥大の効果が高まりますが、未経験者では筋肥大の傾向は示されましたが有意な差は認められませんでした。

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Fig.4:Morton RW, 2018より筆者作成

 

 これらの結果から、プロテインによるタンパク質の補充は、長期的な筋力増強、筋肥大の効果に寄与することが示唆されましたが、その効果にはトレーニング経験の特異的な差があることがわかったのです。トレーニング経験者がより多くプロテインによる効果を享受する理由として、Mortonらは経験者の筋肉量が未経験者よりも多いため、筋力、筋肥大の効果を得るためには、さらなるタンパク質の補充が必要だったのだろうと推察しています。

 

 また、年齢による影響は筋肥大の効果でのみ認められました。若年者は、高齢者に比べてプロテインの補充により筋肥大が促進されますが、高齢者ではその効果が低いことが示されました。

 

 これは、加齢により筋タンパク質の合成抵抗性が生じることが示唆されており、若年者と同等の筋肥大を生じさせるためには、より多くのプロテインを補充する必要性を示しています。しかしながら、今回のメタアナリシスでは、高齢者による報告の件数が少なく、今後のさらなる検証が必要であるとしています。

 

 Mortonらのメタアナリシスは、プロテインの摂取が短期的に筋タンパク質の合成を高めるだけでなく、長期的にも筋力増強や筋肥大の効果に寄与するエビデンスを示しています。特に若年者のトレーニング経験者による長期的な筋力増強、筋肥大を高めるためにはプロテイの補充が効果的であることが明らかになったのです。

 

 

 「そもそもプロテインの摂取は本当に筋トレの効果を高めるのか?」というReidyらの疑問に、ようやく答えが示されました。

 

 筋トレ後による筋タンパク質の合成感度の上昇は、少なくとも24時間は持続します。筋トレの効果を最大にするためには、この時間帯で如何にタンパク質を効果的に摂取するかが重要になります。もちろん食事がベースになりますが、プロテインで上手に補充することによって、効果的にタンパク質を摂取することが筋トレの長期的な効果にもつながるのです。

 

 今では、そのエビデンスが示されています。

 

 

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◆ 参考論文

Tang JE, et al. Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men. J Appl Physiol (1985). 2009 Sep;107(3):987-92

Reitelseder S, et al. Whey and casein labeled with L-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2011 Jan;300(1):E231-42.

Reidy PT, et al. Role of Ingested Amino Acids and Protein in the Promotion of Resistance Exercise-Induced Muscle Protein Anabolism. J Nutr. 2016 Feb;146(2):155-83.

Morton RW, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2018 Mar;52(6):376-384.

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